第15話 練習試合① 久しぶりの再会
新聞で見た“あの名前”。
まさか再び、同じグラウンドで出会うなんて――
空はからりと晴れ、グラウンドを渡る風は心地いい。
オレの気分も同じくらい晴れやかだった。
――だって今日は、待ちに待った練習試合の日だからな!
対戦相手は、地区大会の覇者・私立神威岬高校。
新聞でその名を見た時、胸の奥がざわめいた。
(……明智 連十郎)
あの名前を見た瞬間、手が止まった。
じいちゃんの家の近くで、毎日泥だらけになってキャッチボールしていた幼なじみ。
あの“レン”がもしや、と思いながらも半信半疑のままだった。
そして今日、そのチームと戦う。
胸の奥が熱くなって、思わず拳を握った。
気持ちが抑えきれず、オレはユーリや三輪たちを置いて先にグラウンドへ向かった。
朝の光がまぶしい。風が少し冷たく感じる。
「……あれ、ユーリ?」
視線の先、相手チームのダグアウト横で誰かがスパイクの紐を締めていた。
小柄で、あの髪色。背格好もそっくりだ。
太陽を背にしているせいで、顔はよく見えない。
「おい、ユーリ。早いな、もう準備してるのか?」
近づいて声をかけると、その人物がゆっくり顔を上げた。
ーー同じ顔。
だけど、違う。
冷たい光を宿した瞳。
無駄のない動き。
まるで機械みたいに正確にグラブをはめ直し、オレを一瞥した。
「……誰だ、お前」
低い声に、思わず息が詰まった。
ユーリに瓜二つなのに、全然違う。
その存在感に圧倒される。
(な、なんだ……ユーリじゃない……?)
その時、背後から豪快な声が響いた。
「おい、トウリ! また一人で黙々と準備してん
のかよ! もう少し肩の力抜けっての!」
振り向くと、がっしりした体格の投手が歩いてきた。
日に焼けた肌、吊り目気味の笑顔。
あの声の響き――懐かしい。
「すみません、煌桜高校の方ですね。神威岬高の――明智連十郎です。よろしくお願いします!」
名乗った瞬間、胸の奥がズキンと鳴った。
(……やっぱり、レン……!)
新聞で見た“神威岬の期待の新人”が、今ここにいる。
いや、目の前に立っている。
「……レン、なのか?」
オレの声に、彼は目を丸くした。
「その呼び方、……タイチ!? 一条タイチ、だろ!? うわ、マジかよ! 夢じゃねぇよな!?」
敬語が一瞬で吹き飛び、懐かしい笑顔がこぼれる。
その瞬間、胸の奥が一気に熱くなった。
(本当に……レンだ)
あの頃の無邪気な笑顔。
でも、いまは全国を狙うエースの顔をしている。
その隣で、さっきの“もう一人のユーリ”がこちらを見ていた。
その顔を見た瞬間、背後から小さな声が漏れる。
「……透理兄さん!? どうしてここに……」
ユーリの声。
振り向くと、二人の姿はまるで鏡のようだった。
「……久しぶりだな」
トウリの冷たい声が、グラウンドの空気を一瞬で凍らせた。
似ているのに、違う”。
兄弟、幼なじみ、そして今の自分。
タイチの中で、いくつもの「対」が動き出す――