第14話「監督の教え① “土台”の答え」
焦りを乗り越えたタイチが、次に見つけた課題。
それは“技術”ではなく、“身体をつくる”というもう一つの「土台」だった。
次の日の放課後。
グラウンドに吹く風は、昨日より少し冷たかった。
監督に昨夜考えたこと
ーー“野球を上達させるには土台が大事”と気づいたことーーを、意を決して伝えた。
焦りから小手先の技術ばかりを追いかけていた自分を、まるごとさらけ出すみたいで、少し恥ずかしかった。
「自分でそこまで考えられたか。流石だな」
監督は口元をゆるめ、まるで“よく気づいた”とでも言うように誇らしげな顔をした。
その表情を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。
ーーのも束の間。
「……ところでタイチ。土台といえば一つ確認したいんだが」
監督の目がきらりと光る。嫌な予感しかしない。
「お前、中学からどのくらい身長が伸びて、体重は今どれくらいだ?」
「えっ……?」
突然の質問に、思わず声が裏返った。けれど監督の視線はまっすぐ。逃げ場はない。
「えっと……七センチくらい伸びて、今は一八三。体重は……七十四キロです」
答えた瞬間、監督の眉がピクリと動いた。
「それじゃ足りないな。球児の理想体重は“身長マイナス一〇〇”だ」
「ほんとうに!?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
監督はうなずきながら続けた。
「お前、昔から食が細いだろ。無意識にセーブしてるんだ。成長期なんだから、もっと食え。背が伸びたぶん、体も追いつかせろ」
ーーズドン。
頭に重い言葉が突き刺さる。
「常に激しい練習をする球児は、気を抜くと体重が落ちる。筋肉を作るなら、食事内容も大切だ」
「そ、そうだったのか……全然気づかなかった」
虎の巻にもそんなことは書いてなかった。
監督はうなずく。
「だろうな。あの本が作られたのは、食事面が重要視される前の時代だからな。ーーだが量を増やすだけじゃだめだ。バランスよく食べることだ」
監督の声は、どこか戦場の司令官みたいに響いた。
「食事の件は俺が考えるとして……それ以外に、リュウにあってお前に足りないものが、あと一つある。何だかわかるか?」
リュウジ先輩にあって、オレにないもの?
腕を組み、首をひねる。技術じゃない。体格でもない。
監督がふいに口を開いた。
「ーー間食だ、タイチ。リュウジはしょっちゅうおやつを口にしているんだ。あれも体重を増やすには大事なんだ」
……え、そうだったんだ。
ヒカル先輩に毎回注意されてるから、ただの食いしん坊かと思ってた。
「ま、アイツが叱られてるのは“食べてること”じゃなくて、食べ終わったゴミを片付けないからなんだけどな」
監督はにこっと笑う。
なるほど、間食も練習のうちってことか。
すっかり誤解してた。
「体をつくること」も、野球の一部。
努力を積むだけでなく、“知ること”もまた成長の一歩だ。




