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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
地区大会編

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第18話 夏の始まり

春の風が止み、湿った空気が肌にまとわりつく。


風がぬるくなるときーーそれは、夏の入口の合図。


成長の痛みと、仲間との笑い。

この風の中で、タイチたちの“夏”が始まろうとしていた。







 春が静かに幕を下ろし、湿った風が夏の入口を知らせてくる。

 ーー梅雨がやってくる。


 


 食生活の改善と筋トレの成果が出て、オレの身長はまた伸び、体重も増えた。

 鏡に映るシルエットが、少しずつ“選手”らしくなっていくのが分かる。


 


「タイチ、なんか肩まわりガッチリしたね」


 ユーリがタオルを首にかけたまま、感心したように言う。

 その声には、どこか嬉しそうな響きがあった。


 


「そうかな。……まあ、ちょっとずつだけどな」


 


 そう答えると、すかさずヒロが横から顔を出した。

 口をもぐもぐさせながら、おにぎりを片手に。


 


「俺も筋肉増えましたよ。主に“腹”にだけど」


 


「いや、食べてるからだろ!」


 


 オレは即座にツッコむ。

 ユーリは吹き出しながら、肩を震わせて笑っていた。


 


「ヒロ、ほんと変わったよな」



 気づけば、自然に口にしていた。

 前はあんなに無口で、練習以外は何も言わなかったのに。

 今じゃこうして笑い合える。


 


「まあ、食べてるからね」


 ヒロは頬をかきながら照れくさそうに笑う。

 どこか誇らしげで、いつものようにおにぎりをもう一口。


 


「ちょっ……! また食べるの!?」

 

 ユーリも目を丸くしてツッコむ。


 


「だって、筋肉は裏切らないから」


 


「言い訳がプロ級……」


 


 オレも思わず苦笑した。


 


 窓の外では、風が緑を揺らしていた。

 朱雀戦を乗り越えた今、ようやく“仲間”の笑いが戻ってきた気がする。


 その風は、どこか温かかった。

 まるで、「次の夏へ行け」と背中を押すように。



---


 そして監督からも短いひと言。


 「その調子だ」


 それだけで胸の奥がじんわりと熱くなる。


 


 ヒカル先輩もボールを受けながらにやりと笑った。

「球の重さ、また増したな。スピードだけじゃなくて、ズシンとくる」


 


 ーー最高の褒め言葉だ。

 その声が、今も胸に残っている。





 


次回、彼らの胸に“風の背番号”が宿る。

その瞬間、風の温度が一気に変わるーー。



 


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やはり筋肉は裏切らないっ!
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