第13話 原点(後) エースへの挑戦
焦りの果てに、タイチが掴んだ“答え”とは。
それは、勝つための力ではなく、自分を見つめ直す勇気だった
悩んだ末、主将で捕手のヒカル先輩に相談した。
顎に手を当てた先輩は、少し考えてこう言った。
「同じ投手なら、リュウに聞いた方が早いんじゃないか?」
リュウジ先輩。
チームのエースで、オレが勝手にライバル視している人。
初対面から放たれていた圧に、いまだ少しビビってる。
ーーでも、もう逃げられない。
個人練習で下半身を鍛えていたリュウジ先輩に、意を決して声をかけた。
先輩は、こちらを見て薄く笑う。
「普通エース争いの相手に聞くか? ……プライド、ないのか?お前」
図星だった。
胸の奥がキュッと締まる。
でも、オレは顔を上げて言った。
「プライドはあります。……悔しいです。
でも、そのせいで成長できないなら、そんなプライドいらない。
一度でいい、見てください。オレのピッチングを!」
頭を下げ、全てを託す。
沈黙が流れ、風の音だけが響いた。
やがて、先輩は小さくため息をつく。
「……分かったよ。ここで突っ立たれても邪魔だしな。
一回だけだ。ちゃんと投げてみせろ。」
その夜。
談話室で「虎の巻」を読み返していた。
理解できていない何かが、この本に隠れてる気がした。
そこへ監督が入ってきた。
「監督……あの、ちょっといいですか」
オレは今日のことをすべて話した。
リュウジ先輩の言葉も、「原点」という謎も。
監督は静かに頷き、ひと言だけ言った。
「アイツとお前は同じじゃない。……でも、目指すものは同じだ。
焦るな、タイチ。いまは積み重ねの時期だ」
ーーその言葉が、胸に静かに落ちた。
部屋に戻ると、机の横の本の山が崩れた。
拾い集めていると、その中に一冊の参考書があった。
中学のとき使っていたやつだ。
ページを開いた瞬間、電流のような閃きが走る。
「そうか……!」
基礎だ。
変化球でも球速でもない。
足りなかったのは、もっとも大切な“土台”だった。
「まずはーーフォームから、見直そう」
帽子のつばを握り、そっと目を閉じる。
胸の中に、再びまっすぐな炎が灯った気がした。
焦りの中で見つけた“原点”。
それは、勝つための力ではなくーーもう一度、まっすぐ投げる心。
じいちゃんの教えが、静かにタイチを導いていく