第13話 原点(前) 取り残される焦燥
仲間が成長していく中で、ただ一人焦りを抱えるタイチ。
その胸の奥で、何かが静かに軋みはじめるーー。
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新緑の風がグラウンドを抜ける頃、練習試合が目前に迫ったことで、
チーム全体の空気は一段と熱を帯びていた。
ユーリはつい先日、センターから正式にセカンドへと転向された。
その発表に一番喜んでいたのはーー多分、ショート先輩だ。
最初こそ「一年がいきなりレギュラーなんて」と反対の声もあった。
だが、先輩とユーリが見せた実戦さながらの連携プレーに、誰も何も言えなくなった。
三輪も負けてはいない。体格はさらに厚みを増し、守備も打撃も見違えるほどだ。
主将に褒められた時なんてーー
「三輪、最近動きがいいね」
「……本当ですか? じゃあご褒美に、今夜ご飯二倍で」
「いや、そういう意味じゃない!」
食堂が笑いに包まれた。
そんな仲間たちの成長が、誇らしい。
だけど、焦りもあった。
オレだけ、取り残されていく。
風が止まったような、そんな感覚でいた。
毎日遅くまで投げ込み、走り込み、変化球の練習にも挑戦している。
球速も上げたい。
だけど焦るあまり、どこか噛み合っていない。
身につかない感覚だけが、指先に残る。
「……くそっ」
オレは帽子のつばをぎゅっと握った。
じいちゃん譲りの癖。
昔から、悔しいときはいつもこうだった。
このままじゃ、練習試合のメンバーに選ばれない。
心の中で警鐘が鳴りっぱなしだった。
仲間の輝きと、自分だけが足踏みしているような感覚。
その痛みこそ、タイチの“再起”の第一歩。