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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
紅白戦編

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第12話 タイチ ユーリの正体を知る!!

僕の名前は九品寺ユーリ。…あ、ユーリでいいよ。名字で呼ばれるの、ちょっと苦手なんだ。

野球部に入ってから、最近ずっと“視線”を感じる。授業中でも、廊下でも、グラウンドでも。

振り向くと、たいていそこにいるーー水城 聖斗先輩。長い髪を指でくるくるしながら、笑ってる。

(なんだろう、この感じ。…忍者? いや、狙われてる?)

まさか、あの人が言うなんて思ってなかった……!!





 練習試合の予定が決まった翌日。

いつものようにホームルームを終え、個人練習の準備をしていたオレは、

廊下のざわめきに首をひねった。


「……なんだ? やけに女子の声が多いな」


ガヤガヤと響く黄色い歓声。

窓の外をのぞくと――いた。


煌桜学園二年、水城みずき 聖斗しょうと

野球部の遊撃手ショート

185センチの長身に、柔らかく流れる髪。

笑えば空気が変わる、学園一の人気者。


そのショート先輩が、軽やかに人だかりを抜けて教室へ入ってきた。



「やあ、タイチ君。今日はユーリ君に用があるんだ。いるかな?」


「え、ユーリ? 職員室に行きましたけど、伝言ならオレがーー」


そう言いかけた瞬間、笑顔がスッと消えた。


「いや、これは直接本人に伝えたい。大事な話だから」


(え、なんか告白みたいな雰囲気!?)


タイミングよく、職員室からユーリが戻ってきた。

相変わらず控えめな足取り。

その瞬間、ショート先輩が微笑み、教室の空気が止まる。


「ユーリ君、待っていたよ」


そしてーー


「突然だけど……俺と――二遊間を組んでほしいんだ♡」


「えっ!?」「キャーーーッ!!」


教室が爆発した。

(……やっぱり告白じゃねえか!!)



「に、二遊間……? それってショートとセカンドのコンビ!?」


オレは教科書を落とし、ユーリは完全フリーズ。

結局、騒ぎを避けて人気のない校舎裏へ移動することになった。



「女子に呼び出されるときって、だいたいこんな雰囲気なんだよね〜。ワクワクするよ」


ショート先輩は髪をくるくる。

……この人、ほんと天然タラシだ。


「せ、先輩! からかわないでください! セカンドはもう――」


「いや、正式なセカンドはいないんだ」


声のトーンが変わった瞬間、空気が一気に静まる。


「紅白戦で見てたんだ。君の守備、速かったよ。

 外野の反応もセカンドの感覚もある。……君、いろんなポジションできるだろ?」


ドキリ。ユーリの肩がぴくりと震えた。


「ユーティリティプレイヤー。――君はそれだよね?」


「え!?」「え!?」オレとヒロの声がハモる。


「なあタイチ、“ユーティリティ”って何?」


「複数ポジションをこなせる選手のことだ。……って、ユーリ!?」


「ご、ごめんよタイチー!! 家の事情でいろんなポジションやらされてて……でも捕手は無理だったんだぁ!!」


しおれたメンダコみたいに落ち込むユーリ。

怒る気も失せる。



「セカンドなんて、一番難しいポジションなんだよぉ!」


「そうなんだよ〜♡ 詳しいね、ユーリ君」


ショート先輩は笑い、髪をかき上げる。

その仕草ひとつで、空気が柔らかくなる。


「……ならこうしようか。君が俺に勝てたら誘わない。それでいい?」


「わ、分かった!!」


即答。


隣でヒロが袋を開け、もぐもぐ。


「……勝負の内容、聞いてないのにいいの?」


「お、おい三輪! 真面目に言えよ!」


「真面目だよ? 糖分は思考の燃料だ」


「正論で返すな!!」


そんな掛け合いのまま、俺たちはグラウンドへ移動した。



 夕暮れのグラウンド。

 赤く沈む陽が、フェンスを金色に照らしていた。


ショート先輩は軽くストレッチをしながら、

ベンチの方に一度だけ視線をやる。

何かを確認するように、そっと屈みこんでいる。


(ん? ショート先輩、何してるんだ?)


オレが首をかしげた瞬間、

ショート先輩はにこりと笑って立ち上がった。


「なんでもないよ、タイチ君♡ さあ、始めようか」


(……気のせいか?)


その笑顔に押されるように、オレは黙って頷いた。



 そして勝負が始まった。


ユーリの守備は軽やかだった。

打球を素早くさばき、正確な送球。タイム2.3秒。


「すごい!」思わず声が出る。


だがショート先輩は、イレギュラーした打球をまるで舞うように正面で処理し、

矢のような送球を放った。ーー2.2秒。


その一瞬に宿る経験と余裕。

オレはただ、見惚れるしかなかった。



「惜しかったね、ユーリ君。これからよろしくね〜♡」


ショート先輩が爽やかに笑う。

ユーリは「うわあああ!」とその場に崩れ落ちた。


ピピッ。


乾いたシャッター音。


「……え、今の音、何ですか?」


視線の先。

ベンチ横のフェンスの陰で、小型カメラが赤く点滅していた。


「ショート先輩……まさか!?」


「だって監督にも見せないとね♡

 “才能のある一年生”ってやつを」


「やめてぇぇぇ! 消してぇぇぇぇ!!」


三輪は隣でプロテインバーを食べながら肩をぽん。

「……ドンマイ、ユーリ。糖分でメンタル補給な」


「慰めになってねぇ!!」



笑いと悲鳴が混じるグラウンドの夕暮れ。

オレは空を見上げながら、静かに思った。


(ーーこの二人、最強の“二遊間”になるかもしれない)


風が頬を撫で、チームの未来をそっと照らしていた。



後日ーー放課後の校舎裏。


「ユーリ君ーー!! 一緒に練習だよ、ほらーー!!」

バサッ! 茂みの中からショート先輩がかが飛び出した。

「うわああああ!? 怖いよぉぉタイチーー!!」

ユーリは悲鳴をあげて、反射的にオレの背中に隠れた。

「ちょ、ショート先輩! あなた……忍者ですか!?」


「え? 違うよ? “心に忍び込む男”♡」


「意味が怖いですって!!」


横では三輪が、のんびり唐揚げ棒をもぐもぐ。

「……この唐揚げ棒うまいな」

 

「ツッコめよ!」


「だって、唐揚げは裏切らないからな」


笑い声が夕焼けに溶けていく。


ーー今日も煌桜学園は平和です、

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