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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
紅白戦編

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第11話 談話室の裏側

一方そのころ。

悔しさを噛みしめる一年生たちをよそに、

上級生三人は、いつものように主将の部屋で顔を合わせていた。


  

 

 談話室で監督と一年たちが語り合っていたその頃ーー

上級生たちもまた、静かな夜を迎えていた。


場所は、主将・天王寺ヒカルの部屋。

寮は全室シングルだが、なぜか用事があると皆ここに集まる。

まるで「部屋ごと副キャプテン」だ。




「……前から思ってたけどさ。どうして何かあると、みんな僕の部屋に来るんだ?」


ペンを置いて振り返ると、ふたりの声が見事に重なった。


「「だって一番キレイだから」」


ハモった。完璧すぎるユニゾン。

リュウジはベッドに寝転がり、ショートは回転椅子をくるくる回している。

完全にくつろぎモードだ。



「ヒカルの部屋ってさ、空気がいいんだよね〜。

 スッキリしてて、落ち着く感じ?」


「ただ掃除してるだけだよ」


「いやいや、それができるのがすごいんだって!

 俺の部屋なんか、靴下が自己主張してくるからね〜」


「……それは自慢かい?ショート」


「違う違う、“人が集まる空気”ってやつ。俺は好きだよ、こういうの」


 にこにこと笑うショートに、リュウジが呆れ顔を向ける。


「なあショート、たまには俺の部屋にも来いよ。賑やかだぞ」


「うーん……“賑やか”というより“騒がしい”の間違いじゃない?」


「はぁ!? 俺に清潔感がねぇってのか!」


「だってないでしょ♡」


 そのやりとりに、思わず吹き出してしまう。

 この二人がいるだけで、夜の空気が少し柔らかくなる。




笑いが落ち着いたころ、ショートがふと呟いた。


「そういえば一年たち、落ち込んでたみたいだね。……励ましに行かなくていいの?」


風呂上がりの髪をくるくる指に巻きながら言う。

光に濡れる長髪が、モテ男の象徴みたいに揺れた。

さすが“部の太陽”だ。


 その声に、ベッドのリュウジがぼそりと呟く。


「今の俺らが何言っても逆効果だろ。

 全力で勝った側が慰めたら、余計ムカつくだけだ。

 ……あいつらは、自分で立ち直るしかねぇ。なあ、ヒカル」


眠たげな顔の奥に、試合中と同じ光が宿っていた。

ヒカルは小さく頷く。


「同感だよ。だから監督に頼んでおいたんだ。

 一年たちのこと、気にかけてやってくださいって」




リュウジが天井を見上げて苦笑した。


「さすが主将だな。俺には真似できねぇ」


「リュウジは考える前に動くタイプだからね〜」


「うるせぇ。……でも、いい試合だったよ。

 あいつら、きっと伸びる」


「うん。僕もそう思う」


窓の外では夜風が木々を揺らし、

ヒカルは再びペンを取る。


ノートに書かれた一文は、まるで祈りのようだった。


“風は、まだ吹き始めたばかり。”




新しい季節の気配が、静かに部屋を通り抜ける。





「それにしても、ヒカルはほんと主将って感じだよね〜〜」

軽口に見えて、ショートの目の奥には尊敬の色があった。


「やめてくれよ、照れるだろ」


「褒めてんのに〜〜」


ヒカルは笑いながらノートを閉じる。

横ではリュウジが低く呟いた。


「でも、実際そうだろ。

 ヒカルが主将で良かった。お前がいなきゃ俺らバラバラだ」


不意の言葉に、胸の奥が少し熱くなる。


「リュウ、それは試合で言ってくれ」


「試合中は忙しいんだよ」


「はいはい、照れ隠し♡」


ショートの声が夜気に溶け、部屋にまた笑いが戻る。





「で、二人は今日の一年で誰が気になった?」


ショートが椅子をくるくる回しながら問いかけた。


「一条タイチ。あいつ、俺の球を打った。……正直、驚いた」


リュウジの声は短く、それでいてどこか誇らしげだった。


「僕は三輪かな。あのフィジカルはすごい。

 リュウの球に当てたのは大したものだ」


「俺はユーリ君。あの子、柔らかいのに芯がある感じ。好きだな〜」


「おい、“好き”って言い方やめろ。誤解されるぞ」


「え〜?いいじゃん♡」


リュウジが呆れたように笑い、ヒカルは肩をすくめる。

この空気こそ、チームの“風”そのものだった。





だが、リュウジの表情が一瞬で真顔に戻る。


「……にしても、なんであいつは俺の球を打てたんだろうな」


ヒカルの手が止まる。

あの一球ーー確かに、何かを感じさせるスイングだった。


「その時さヒカルがマウンドで何か言ってたよね? 何だったの?」


「それはショートにも秘密。誰にでも、隠しておきたい瞬間があるんだ」


「ふーん、秘密ね。じゃあ俺のも聞くなよ?」


「なにを隠してるんだい、リュウ」


「い、いや……別に。ただーー今年は負ける気がしねぇってだけだ」


その言葉に、ヒカルとショートは目を合わせて笑った。

根拠なんてない。

でも、リュウジの言葉はチームの支柱みたいに響いた。




外はもうすっかり夜だ。

月の光がカーテンの隙間からやわらかく差し込む。


「僕たちは去年、決勝で敗けた。今年こそ優勝したい」


「当然。リベンジだ」


「負けるのは嫌だからね〜」


三人の声が静かに重なった。

同じ想いを抱けることが、ただ嬉しかった。


そしてヒカルには、確信があった。


今年は違う。

一年たちが、僕らに“もう一度風を吹かせてくれる”。




消灯のベルが鳴る。

三人はそれぞれの部屋へ戻っていった。

ドアが閉まる音が、夜の静寂に溶けていく。


ヒカルはひとり、月を見上げて呟いた。


「……今年こそは、勝ちたい」


その声は夜風に乗り、寮の外へと流れていった。




ヒカルを中心に、リュウジとショートが自然に支え合う。

この夜の三人は、勝利よりも“仲間の存在”を再確認していた。

風は、確かに吹き始めている。



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― 新着の感想 ―
一先ず紅白編まで拝読させていただきました。 夢に向かって努力する姿、チームメイトと関係を築く過程は勿論のこと、負けて悔しがる姿とどの場面を切り取っても一貫して爽やかさを感じられる作品ですね。スポーツも…
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