王子の帰還
大鳥たちを走らせアエラ達はモルティノン国の城につく。気を失ったままのアエラを兵士が乱雑に肩へと担ぎ牢屋へと運んで行った。
「僕はどんな罰でも受ける。どうか彼女には手荒な真似はしないでくれ。」
兵士の肩で力なく伸びるアエラの姿を見て胸が締め付けられる。
感情が抑えきれず兵士達の中でも一番位の高い騎士であるロイに言葉をなげる。優秀な騎士である彼はガブリエルの側近でもある。
「ガブリエル様の命の恩人と言うことはわかりました。しかし王子、あなたは1年もの間行方知らずだった。この長い間一体何があったのかを聞く義務が我々にはあるのです。」
気遣わしげにけれど折れることは出来ないと重々しく主君であるガブリエルに言った。
「お兄様のヘイス様が早速貴方が生きて戻られたことを知りました。ガブリエル様、彼女を危険な目に合わせないためにも今は辛抱するしかないのです」
ロイの言葉にガブリエルは苦虫を潰したように顔を歪めた。
(兄上に彼女の事が知られるのは時間の問題だ。僕の弱みを握ってどんな手を使ってでも蹴落とそうとするだろ)
聡明だが氷のように冷徹で王になる事に固執している兄を思い浮かべた。
兄に彼女の事が知られたら彼女の身が危ない。今は下手に動くことが出来ないと言うことか。何の罪もない大切な人を巻き込んでしまった。不甲斐なさと怒りが体に広がる。
「ガブリエル王子よくぞご無事でした。森へ狩りに行った貴方様がヘイス様の側近に暗殺されたと聞いた時私がついていればと悔やんでも悔やみきれませんでした」
そう言いロイは唇を歪ませ眉を寄せていた。
「しかし我々はガブリエル様が生きてると信じ続け、秘密裏に探し続けていたのです。たまたま入った森に貴方様を見つけた時、我々がどんなに安堵し嬉しかったことか」
ガブリエルの見つけた時の光景が蘇り目に薄く膜が広がる。普段は冷静沈着で表情を崩さない男だが、長い間使えていた主君が無事に見つかり珍しく感情を出していた。
「ーー探さずそのままにしてくれていたら良かったんだ。王子ということを忘れられ彼女と過ごす日々が、どれだけ幸せでかけがえのないものだったか。お前達はわからないだろう」
常に穏やかで相手を気遣う主君が心の芯まで凍えるような冷たい言い方だった。その顔には深い失望が浮かんでいた。
(それほどまでに彼女の事が…)
王子の中でどれほど彼女が大きな存在かをロイは知る。
(ガブリエル様どうか我々の罪深さを許してください。我々には貴方様が必要なのです。)
そう心の中で主君に詫びる。この国の未来の為にはガブリエルには王になってもらわなければならない。
「貴方様を民が待っておいでです。ヘイス様は着々と王になる為の駒を進めています。しかしヘイス様が王になれば、この国は荒んだものとなるでしょう。この国には貴方様が必要なのです」
長年仕えてきた大切な主君に幸せになってほしい気持ちに蓋をし、心を固くしてロイはガブリエルに向き合う。
真剣な表情で訴えてくるロイを見つめ、ガブリエルは遠い記憶が頭を駆け抜けていた。
一体いつからだろう。王になることを周りが望めば望むほど苦しさを感じるようになったのは。