崩壊の音がする
それから2人の距離は急速に近づいていった。
本読みの時間は2人の愛を深める時間へと変わっていた。
「ーーアエラ」
掠れた声でアエラを呼び、ハロンが彼女を見つめる。目の奥にはどろりとした情欲が見える。
キスをしながら舌で唇を撫でる。ハロンがアエラの後頭部を引き寄せ口づけをより深いものにした。
今までの時間を埋めるかのように愛し合った。
「僕にとって君は全てだ。君がいない人生なんて生きていてもしょうがない」
射抜くようにアエラを見つめ、そんなふうに言う彼の事が胸が焼けるほど愛しかった。
2人はお互いを愛し合い穏やかな日々を過ごしていた。風がより一層冷たくなり冬の訪れを感じる。ハロンを拾ってから1年が経とうとしていた。
アエラはハロンがいなかった頃の生活など思い出すことができなくなっていた。彼がいない生活など考えられない。贅沢な物などいらない。これからも2人で共に過ごしていきたい。
アエラはこの時知る由もなかった。もう少しでこの平穏で幸せな日々が終わってしまうことを。
ーーーー
「本当に寒い。帰ったらスープでも作って温まろう」
週に1度の町への買い出しが終わり、アエラはぶるぶると凍えながらケロに乗り家路を急いでた。
あと少しで家に帰れると歩みを進めていると家がある方向から男の声が聞こえる。
「おい!ここだ!」
アエラは何事かと急いで家に向かった。
(一体なんなんだ。)
彼女の家の前に10人ほどの兵士達がいた。何処かの紋章が鎧に施されてる。兵士達は何かを囲んでいるようだった。
「お前らなにもんだ!あたしの家になにか用か!」
アエラは護身用にいつも身につけてる短刀に手をかけ、声を荒げながら兵士達に問いかけた。
(ハロンは何処にいるんだ。隠れてるといいが)
そんな事を考えていると、兵士達に囲まれていた者が身じろぎをした。兵士の体の隙間から真っ白な髪が見えた。
「ハロン!!お前らそいつを離せ。さもなきゃ喉を掻っ切るぞ!」
ハロンが捕まっている。頭にカッと血がのぼりアエラは短刀を構え男達に凄んだ。
「ーーアエラ、待っ「お前こそ何者だ!この無礼者、このお方はモルティノン国の第2王子であられるぞ!」
ハロンの言葉を覆い隠すように、兵士の中でも特に立派な鎧を着ている男がアエラに凄まじい顔色で怒鳴る。
「ーーどういうことだよ。何いってんだよ」
兵士の言葉が上手く理解できず、呆けたように言う。何で隣の国の名前が出てくるんだ。理由もわからずハロンを見る。
「このお方はモルティノン国王の息子である。お前の様な者が気安く関わっていいお方ではない。それにこのお方の名前はハロンではない!ガブリエル様だ!」
峻厳な態度でアエラを威圧する。
アエラはハロンが捕まってると勘違いしていた。彼を守っていたのだ。
「どういうことだよ、なぁ何か言えよ!説明してくれよ」
アエラは目まぐるしく過ぎる出来事を整理できずにいた。ハロンと思い接していた男に向かって怒りなのか悲しみなのか分からないごちゃごちゃした気持ちを抱え叫んだ。
「アエラ違うんだ、僕はただ君との日々を失いたくなかった。本当は君と過ごす中で記憶が少しづつ戻っていたんだ」
男は苦しそうな表情を浮かべ目を伏せる。どうやら彼は途中で記憶が戻っていたようだ。
(だったらあの日々なんだったんだ。永遠に1人にしないって言ったのは嘘だったのか)
アエラの心が急速に冷たくなっていく。クラクラして足に力が入らない。
「お前にはガブリエル様の事を聞かねばならない。城までついてきてもらうぞ」
先ほどアエラを威圧してきた兵士がそばまで来て、彼女の腕を乱暴に引っ張る。
「やめろ、あたしに触るな!」
「ロイ彼女に乱暴な真似はするな!」
ハロンが兵士の名前を呼び咆哮するように声を荒げた。
彼女の方まで行こうとするが何人もの兵士達が彼を鎮め抑える。
アエラが暴れて兵士の腕から逃れようすると狼の遠吠えが聞こえた。
ワォーン
ルイの声だ。アエラが辺を見渡す。すると白い影がアエラの横を通り過ぎアエラの腕を掴んでいた兵士に噛みつく。
「こいつなんだ!離せ!」
兵士はルイの腹を思いっきり蹴り力任せに地面に叩きつけた。
ルイは地面からよろよろと起き上がりクゥンと弱々しく鳴いた。
目の前が怒りで真っ赤に染まる。
「ーールイ、てめら許さねぇ。ルイになんてことしてくれるんだ」
地面を這うような低く不穏な声で吐き捨て。アエラは兵士達を睨みつけた。
アエラは獣様に俊敏な動きでルイを投げた兵士に短刀を振りかざした。しかし振りかざした短刀は剣でいなされ、彼女の頬に剣の柄で男が殴った。
頭がぐわんぐわんする。力が入らずアエラは地面へと倒れた。
「ーーアエラ、、離せ、離してくれ!!彼女は僕を救ってくれたんだ。こんな真似誰であろうと許さない」
ハロンは怒りで体が震える。ものすごい剣幕で周りに激昂する。それでも抑えつけるのを止めない兵士達に必死に抵抗しながら彼女元へと向かおうとする。
「ーー来るな、、よくもずっと騙してくれたな…2度とあたしの前に現れるな」
意識を失いそうになる寸前、最後の力を振り絞って吐き捨てた。
「ーー絶対に許さ…ない 」
アエラが気を失わなう前に見た男は、顔を青白くさせこの世の終わりのように哀れな顔をしていた。