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記憶のない男

「ったく、せっかく町に行こうと思ったのに。余計なもの拾っちまった」



 アエラは今日の予定が狂いチッと舌打ちをする。



 普段ならアエラの家までケロに乗り30分程で着くはずが、男を拾ってしまったせいで1時間もかかってしまった。



 拾ったことを後悔し始めてたころ、やっと家の前までついた。ケロに乗せていた男をなんとか地面に下ろす。



「ケロありがとう」



 見知らぬ男を乗せても嫌がらず、ここまで運んでくれたケロの頭を撫で家畜小屋へ戻す。



「さて、どうしたもんか」



 


 余計なことをしてしまったせいで体力をかなり消費してしまった。いくらそこら辺の女より体力があるとは言え、細身ではあるが身長180cmは有に超えてるであろう男を、どうやって家の中まで運ぶか考えあぐねていると誰かに服の裾を引っぱっられる。



 視線を向けると白狼のルイがいた。



「ルイどうかした?」



 そう問いかけると、ルイが男に近づき男の服を引っぱっる。



「それ食べ物じゃないよ、メッ! 」



 お腹が空いてるのかと男を食べないように注意しても、ルイは服を引っぱっるのを止めず少しずつ家の方向に進んでいった。



 まさか、一緒に玄関まで運んでくれようとしているのか。確かにルイと一緒ならいけるかもしれない。



「よし、じゃあルイ こいつベットまで運ぶの手伝って!」




 そう声をかけ、男をルイと運ぶ。どうにか男を自分のベットに乗せ暖炉に火を付ける。



「ふぅー、つかれた。ルイお疲れさんありがとうね」



 ここまで手伝ってくれた狼に礼を言い頭を撫でてやる。グルグルと気持ちよさそうに喉を鳴らし、撫でてもらえて気が済んだのか森へと帰っていた。




「とりあえず、脱がすか」




 川から引き上げたとき多少体を拭いてやったが、まだまだ濡れているため服を脱がす。



 上着とズボン脱がした、後は下着だけだ。このまま下着だけ履かせたままでもいいが、それだと体が完全には温まらない。



 仕方がない。ふぅとため息をつき、さっさと下着を取り全裸にする。再度体を拭いてやり毛布を被せる。




ビュー、ビューン



 ふと外を見ると風で森の木が揺れている。今夜は荒れるかも。



 家畜小屋に行きケロが寒くないようにわらを床に敷き詰め、水を飲ませ餌をやる。



 狼はもう森の寝床に帰ったようだ。



 家へと戻り料理し夕飯を食べる。寝室に行きベットで眠る男の顔を覗き込む。スッーと寝息が聞こえる。助けた直後は雪のような顔で生気が無かったが、温まり段々と顔に色が出てきたようだ。



 しかし見れば見るほど綺麗な顔をしてやがる。陶器のような肌に、神様が丹念に時間をかけて作ったであろう顔がそこにはあった。



 平凡な自分だけの空間に不釣り合いに美しいものがいるのが落ち着かない。アエラは逃げるように部屋からでた。



 作業部屋に移動し、弓の調整や町で売る工芸品を作る。作業が一段落し外を見ると辺は真っ暗だった。さっきよりも風が強く吹いている。



 そろそろ寝るとするかとアエラがソファーに腰掛けた時、ガタンと男が眠る部屋から物音がした。




「まさか、起きたか」



 アエラは寝室に向かい扉を開けるとそこには困惑した表情の男がベットから起き上がろうとする所だった。



男はアエラに気づくと驚いたように



「君は誰、ここどこ?」



と声をだした。




「あんたが川で溺れそうになってたから、拾ってやった」




 アエラは拾った時の状況を話した。男は困惑した表情のまま、口も挟まずただひたすらアエラの話を聞いていた。  



 一通りはなし終え、今日は嵐だから泊まっていいが明日は晴れるだろうから自分の家に帰れとアエラは伝えた。



 本当だったらすぐにでも出ていってほしいが、それでは流石に酷かもしれないと1日だけ泊めてやることにした。



 男は黙ってアエラの話を聞いてるばかりだったが、ついに喋りだした。




「家が何処かわからないだ…、」




 こいつ何いってんだ、




 意味が理解出来ず、男がこのまま居座るつもりのためについた下手な嘘かと思い、名前や年齢、職場を聞くが男はそのどれも全く憶えていないようで困ったように眉を寄せ首をふる。



 自分でも訳が分からず混乱してるようだ。このままだと埒が明かないと思い、明日町の役場に相談に行くように男に伝えた。




すると




「だめだ、町には行けない」



 散々自分の事は分からないと首をふるばかりだったのに、男は急にきっぱりと言った。




「なんでだよ! 町に行ったら何か思い出すかもしれないだろ」



 アエラはイライラしなが男に言うが、男はだめなんだと繰り返すだけだった。



 面倒くさいやつを助けてしまったものだ。アエラは自分の運の無さに辟易する。




 男はアエラを見上げ



「お願いだ、どんなことでもするからここで少しの間だけいさせてくれ」



と言い頭を下げる。




「だめだ、明日には出ていけ」



 どんなにお願いされようが、嫌なものは嫌だ。平穏な自分だけの世界に彼はいらないのだ。




 男との押し問答を繰り返し、男もアエラも折れず明日には出て行けと戸を閉めた。





 朝になり、寝室へ男を起こしに行く。何か言いたげな男を無視して、さっさと支度を済ませて朝食を食べろと声をかけた。




「ありがとう、とても美味しかったよ」



 男はそう言い少し微笑む。




「じゃあ、もう行くよ」



 男は立ち上がり玄関へと向かう。



 何だもう行くのか、また頼み込まれると思っていたため少し拍子抜けだ。



 


「町への道のり分からねえだろ、町までは送っててやる」



 アエラは少し可哀想になり男に声をかけた。




「いや、町には行けない」



 男がふざけた事を言う。



 アエラはかっとなって男に言葉をなげる



「じゃあどこへ行くんだよ!こっから2時間の町以外はただ森が広がってるだけなんだぞ!」  



 彼女が言うように近くの町以外はただ広い森の海が広がっているだけだ。



「それでも町へは行けないんだ。助けてもらってばかりなのに、何もお礼をできずすまない。君が助けてくれなかったら僕はきっと死んでいた。ありがとう 」



 アエラを真っ直ぐ見つめ、そう言って男が歩き出してしまう。




 あぁ、もうとアエラは頭をガシガシとかき 



「少しの間ならいてもいい、そのかわり宿代分ぐらいは働いてもらう!」



 歩き出した男の背中に大声で声をかける。   



 アエラの言葉を聞き、男は振り向く。顔をぱっと明るくさせ


 



「ありがとう、本当にありがと」



 アエラの右手を両手でぎゅっと掴み、眩しいほど美しい笑顔を彼女にむけた。



 眩しさにやられカァーと顔が赤くなる。



 右手を男から振りほどき、フンと顔をふり家へとはいる。男が彼女の後につづき部屋へとはいる。



 そんな気配を感じ、言っちまった…とアエラはこれからの事を想像して後悔した。




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