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君との出会い

「お前名前は?」




(本当の事を言ってしまったらまた地獄の様な日々に戻らなければいけない。もうあんな日々は嫌なんだ)



 ガブリエルは嘘をついた。



「わからない。覚えてないんだ」



「わからないだと?」




 そんなガブリエルの事を最初は彼女も疑い問い詰めたが、彼は記憶がないフリをし続けた。



「…まあ嘘はついてなさそうだな」



 ようやく女が信用してくれた。また、家を追い払われそうになった時、町にはどうしても行けないとガブリエルは曲げなかった。女は諦め渋々彼が居着くことを許可した。



 初めの頃は彼が交流を深めようとしてもアエラは言葉少なで会話が終わってしまう事が多かった。



 最初はそんな彼女の態度に困惑して見えない壁を感じた。しかしアエラと過ごしていくうちに彼女は人と接し慣れていないことを知る。



 若い年頃の女が町でもない森に住んでいるなんて、何か事情があるのだろう。ガブリエルは気になりはしたが、彼女を尊重し詮索することはなかった。



 アエラも同じ様にガブリエルについて詮索しようとはしなかった。



(王都の女性達とは何もかも違う。自由で気高く美しい)



 ぶっきらぼうだが突き放すわけでもなく、1人で逞しく生きる彼女ことが気になり始めていた。




 最近は日課の本読みをアエラに行っている。1日の終りに訪れるこの時間が心地よかった。




 アエラに本を読んでほしいと頼まれた時は驚いた。彼女はガブリエルと交流することを最低限に済ませていたためである。関わりたくないのだろうと内心寂しけれど仕方がないと割り切っていた。



 そんな彼女から自ら歩み寄ってくれたように感じてガブリエルは嬉しくて微笑みながらアエラを見つめた。



 すると少し顔を朱色に染めてプイッと顔をそらした。そんな仕草があまりに可愛くて心が暖かくなった。



(不思議だ、城にいた時は何をしても心は空のままだった。彼女といると色んな感情が湧き上がってくる)



 彼女と出会いまだひと月程しか経っていないが、永遠にこの森に居たいと思うようになっていた。




 そんなある日いつものように本読みしているとアエラが唐突に言った。



「この主人公に似てるからハロンって呼んでいいか?」



 アエラはただ思いついたから言っただけのようだったが、ガブリエルは驚き過ぎて一瞬固まってしまった。



 確かにアエラにどんな名前でも呼んでと言ったが、彼女は今まで名前を呼んでくれることはなかった。



 震えるような喜びに包まれた。ハロンと名付けてくれた彼女が光に包まれまるで女神のように見えた。


 


「なんでそんな嬉しそうなんだよ!」



 何も発しない彼を怪訝に思い目線を上げた彼女は、喜びに包まれた幸せそうな顔を見て驚き声を上げていた。



「名前をくれるなんて、あまりに嬉しくて」



 ありのままの気持ちを伝えた。



「アエラはこの名前の意味を知っているの?」




 彼女は知らないと首を横に振り意味を尋ねた。彼はアエラにはまだ教えたくなかった。



 微笑んで彼女を見つめれば恥ずかしそうに目を閉じた、そんな彼女が愛おしいそう思った。




 ずっと自分の名前に違和感があった。感情を押し殺す毎日で自分の人生なのに、まるで他人の人生を歩んでいるようだった。



 そんな絶望の最中彼女に出会えた。




(ガブリエルは死んだ。これからはハロンとして彼女の側にいたい)




 アエラとの日々は彼にとってかけがえのないものへと変わっていた。



 彼女となに者にも縛られることはない、自由で平穏な毎日を送るのが幸せだった。




 彼女と出会うまではこんなに穏やかな気持ちでいられた事なんてなかった。母や臣下達など周りに過剰な期待をされる一方で、血の繋がった兄からは疎まれ命を狙われる毎日。彼はそんな毎日に精神をすり減らしていっていた。



 



(僕はずっと何故自分が生きているかわからなかった。けれど今ならわかる。1人孤独にけれど誰よりも自由に生きる君に出会うためだったのだと)




 隣で静かに寝息を立てる愛しい人へ視線を移し艷やかな黒髪へキスを落とした。




ーー




 男が鉄格子の外に立っている。



「アエラ」



 アエラは無視を決め込んだ。



「おい、ガブリエル様が呼んでいるのに無視か!」



 ロイと呼ばれていた男がアエラにむかって怒号を飛ばす。




「ロイやめてくれ」



 そんなロイをピシャリと厳しく制する。




 早く立ち去ってもらいたくて嫌々声の主を睨みつけたアエラは言った



「なにか用ですか。王子様」




 皮肉たっぷりに王子を強調した




 ガブリエルは唇を噛みしめた



「……そんな呼び方はやめてくれ。いつもの様にハロンと呼んでくれ」




 ガブリエルはアエラをすがるような目でみて懇願した。





「ハロンはもう存在しない。」



「あの時君と過ごした言葉は嘘なんかじゃない。僕は本当にハロンになっていたんだ」




 ガブリエルは何とか彼女に許してほしいと言うように言葉を紡ぐ。そんな彼を一瞥もせず壁を見つめアエラは無言を貫いた。




「なるべく早く出してくれるよう兄上に掛け合ってみる。どうかそれまでは大人しくしてくれ」




(兄はどうにか僕の弱みを握ろうとしている。彼女を守るためにも下手に開放することは出来ない。)



 壁から一切視線を動かさず反応を返さない。



「アエラ、僕は今でも君を大切に思っている。君に約束した事必ず守ってみせる」




 ガブリエルは強い意志を滲ませる声でアエラに囁いた。




 約束のことを持ち出した時、アエラの肩が揺れた。しかし反応はない。




「…また来るよ」



 ガブリエルは深い悲しみの色を滲ませ城へと戻っていった。




「うそつき 」 




 去っていく彼の背中を眺めアエラは切なくつぶやいた。







 捕まってから1週間が経とうとしていた。相変わらずガブリエルはロイという兵士と共に来る。


 


(またお供も来やがった)



 ルイを蹴り飛ばしたロイをアエラはまだ許していなかった。またロイも主君に対して横暴な態度をとるアエラにいい感情を抱いていないのは一目瞭然だった。互いを見れば喧嘩が始まるためロイは牢屋の外で見張りを任せられていた。




「アエラ、まだ外に出してあげれそうにない。本当にすまない。君には伝えるのが遅くなってしまったが、ケロやルイは城の者を手配して此処で育ててるんだ」




 彼が来ても1ミリたりとも視界にいれず壁しか見ていなかった彼女がようやくガブリエルを見た。




「ルイ怪我は大丈夫なのか」




 感情を込めないようにしているが震える声で彼女は言う。その声でどれだけルイを心配していたのかをガブリエルは知る。




「大丈夫だ。獣医が看病してくれていて食欲もあるよ」



 ガブリエルは安心させるようにアエラを真っ直ぐ見つめ言った。



 ほっと息をつく。ガブリエル達には聞かなかったがアエラはずっとルイやケロの事が心残りだった。




「ルイや君をあんな目に合わせてしまいすまない。謝っても謝りきれない」


 


 眉を寄せ下唇を辛そうに噛みながらガブリエルは言った。




「謝ったからって許してもらおうと思うな、あたしはずっと許さない」




 視線でガブリエルを射抜きアエラは吐き捨てた。




 悲痛に顔を歪ませアエラの言葉を聞いている。そんな彼の表情を見て心がざわつく。



見ていられなくて顔を背けた。




「王子そろそろお時間です」




 外で待機してるロイが声をかける。




「わかった、今行く」



 ガブリエルはドアの方へと向かう



「アエラ、君を必ず救うから」




 ガブリエルはアエラにむかって言葉をかける。反応しないアエラを哀しそうに見つめ彼は出ていった。






 その日の夜も上手く寝付ずにいた。



「あーもう! こんな所で誰が寝れるかよ」



 むしゃくしゃしながら虚空を睨みつけた。



 アエラが閉じ込められてる牢屋はかび臭くとても住めたもじゃない。ガブリエルが最低限過ごしやすいようと色々手配しようとしてくれたが、一向に改善しない。ガブリエルの兄は中々厄介なようで下手に動けないらしい。



 固いベットで寝返りを打ちながら鉄格子の間から夜空を見ていた。





ガサッ




暗闇から音が聞こえる。




(ねずみか?)



 そう思い音のする方へ視線を運ぶ。



ガタッ


 


 今度はねずみには到底出せないような音が聞こえた。




「だれだ!」



 心臓がばくばくする。不安を振り払うかのように気配を感じる方へ鋭く声をかける。



 そこにはもう二度と会いたくないと思っていた、太陽の様な赤い髪で精悍な顔立ちの男が立っていた。




「エイダン……なんでここに」




 男はニヒルに笑ってアエラに話しかけた



「久しぶりだな。アエラずっと会いたかったぜ」



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