【短編】婚約解消を言い渡されましたが、その場で魔王にプロポーズされました
婚約破棄ものを書きたいなーと思い、書いてみました。
破棄ではなく解消になってしまいましたが・・・
短いですが、どうか楽しんでいただけると幸いです。
「ユフィリア・ミザスタン!今をもって君との婚約を解消させてもらう!そして、この国の聖女であるクリスタ・シルフィードただ一人と婚約することを、ここに宣言する!」
この国の王太子であるジルトルートの声が、国王の誕生祭の会場に響き渡った。
会場にいる人の視線が、私とクリスタに集まる。来賓である周辺国の貴族たちが、動揺しているのが分かる。
私も横目にクリスタの方を見ると、彼女と視線がぶつかった。すると、クリスタが私にわかる程度に、申し訳ないという表情をした。
別に構わない、と小さく首を横に振る。なんなら、こんな茶番は早めに終わらせたいという気持ちの方が強かった。
「では、俺の妻になってくれないか?」
後ろから、凄い言葉がとんできた。
振り向くと、黒いマントを羽織った長身の男性が、跪いて片手を差し出していた。
会場のざわめきが、先程より大きくなった。
それは、婚約解消された直後の女性にプロポーズしたという突飛な行動に対してよりも、彼の身分が異質なことが主な要因だろう。
彼は、魔王だ。
そう、私は魔王にプロポーズされているのだ。
※
あの時、私たちは冒険者協会から依頼を受け、ドラゴンを追っていた。
国境付近だと気づいたのは、クリスタだった。
「まずいわ!このままだとキクリア国に入っちゃう!」
「ジル!どうにかして引きずり落として!」
「ああもう!」
他国ならまだいい。協定が結ばれている。
だけど、よりにもよって、魔王がいる国なんて。
「ああっ!」
ジルの魔法を振りほどき、ドラゴンは国境を越えてしまった。
このままではまずい。他国に損害を与えたとして、いらない隙を与えてしまう。
それよりは――!
「ジル!私を投げ飛ばして!クリスタ!後はよろしく!」
二人とも私と同じ考えが浮かんでいたのだろう。すぐさま、ジルの魔法が私にかけられた。
そのまま、ドラゴンへ飛ばされる。
剣を一閃。
ドラゴンの首を落とす。
「クリスタ!」
落ちていく私に継続回復魔法がかけられた。
これで木や地面にぶつかっても傷と痛みはすぐに癒されていく。
腕で顔をかばいながら落ちていく。枝にあたり、最後に地面にぶつかる。
大きな衝撃が体を襲った。
痛みがすぐに治まる。立ち上がって、体を確かめる。
――問題ない。
「ユフィ!」
クリスタが駆け寄ってきた。
「大丈夫。痛みも傷もないわ」
「もう!」
「それより、ドラゴンは?」
「落ちる前に、ジルが魔法で包めたわ」
良かった。
ホッとして、ジルの方へ向かう。
「ユフィ!クリスタ!」
ジルがこちらに気付き、手を振っている。
その後ろには、魔法の網で包まれたドラゴンがいた。
「さっさと行くわよ」
「ええ」「うん」
今いる場所は、キクリア国なのだ。
早くここから離れなければ。
「どこへ行くつもりだ?」
戻ろうとした方向から声がした。
見ると、黒髪の長身の男性が木の後ろから現れた。
剣を構える。二人も杖を構えた。
――気付かなかった。
気を抜いてはなかった。
むしろ、警戒していたつもりだ。
「国境を越えてしまったのはすまない。私たちは冒険者だ。ドラゴン討伐の依頼を受けている」
「・・・ここに逃げてしまったというわけか」
「そうだ」
男は少し考える素振りを見せた。
「そういうことならいいだろう。次は気を付けることだな」
そう言うと、男の姿は木の影に入り、消えてしまった。
ふぅっと息が漏れ、剣を下げる。
「あいつ相当やばいな」
ジルの言葉にうなずく。
三人がかりでも、あしらわれてしまうだろう。
「向こうの気が変わらないうちに行きましょう」
「そうね」
これが、彼との最初の出会いだ。
次に出会ったのは、王都だった。
ダムリ王から使者が来た。
要人が、会議に出席したついでに王都を見学したいので、その案内をするようにとのことだった。
王城へ向かい、執事に案内された部屋へ入ると、そこにはドラゴン討伐の時に出会った男性がいるではないか。
「よく来てくれた。こちらは、キクリア国国王のムメイ殿だ。ムメイ殿こちらは――」
「ユフィリア嬢だな。活躍の話はこちらにも届いている。よろしく、『深紅の殲滅』殿」
ダムリ王の言葉を遮り、私に手を差し出してきた。
「ユフィリア・ミザスタンです。こちらこそ、どうぞよろしく。あと、その名は恥ずかしいので、やめて下さい」
「ああ、わかった」
その手を取り、握手に応える。
その後は、王都を二人でまわった。
護衛はいらないと魔王が言ったからだ。確かに、私たちに危害を加えられるものは、王都にはいないだろう。
それから、彼は何度もこの国を訪れた。その度に、案内係として呼ばれた。
時には、他の街への視察にもついていったこともあった。
彼とのそういった関係が、一年ほど続いた。
周りに人がいない時には、気軽に話せるようになっていた。
ある日、いつも通り彼と王都をまわっていると、ディナーに誘われた。
いつもなら、案内が終わると解散しているのだから、珍しいこともあるものだと思いながら、了解した。
そのことをクリスタに話すと、「良かったね!着ていくものは決まった?まだなら、私に任せて!」と興奮した様子で、あれよあれよとドレスやアクセサリーなどが決められた。
今思えば、嬉しくて我慢できず、クリスタに話したのだろう。
お店は落ち着いた雰囲気だった。
個室だから、気兼ねなく食事を楽しむことができた。
食事も終え、食後に紅茶を飲んでいると、ムメイが意を決したように私を見た。
先程までの、軽口を言い合っていた雰囲気ではなくなった。
私もそこまで鈍感ではない。期待している自分がいた。
彼の言葉を静かに待つ。
「どうか、俺と付き合ってくれないか」
そう言ったムメイの頬は真っ赤になっていた。
「えーっと、こちらこそ?」
「どうして疑問形なんだ」
「どうだっていいでしょ!」
私も恥ずかしくなって、変な返事になってしまったのは気付かれただろう。
ハハッと笑う彼につられて、私も頬が緩んだ。
ふと、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、最初に王都を案内した時、私を指名したとダムリ王から聞いたのだけど、どうして私だったの?」
私の疑問に、ムメイがごにょごにょと答えた。
「え?よく聞こえないわ?」
「――一目惚れだったんだ!どうにか繋がりを持とうとして必死だったんだよ!」
それからの私たちは、世間には内緒で親交を深めていった。
もちろん、親友のクリスタにはすぐに話した。それから、ジルにも。
二人から祝福の言葉をもらった時は、本当に嬉しかったし、安心もした。
少し経った頃だろうか、ジルから話があると呼ばれた。
約束の時間に彼の執務室に入ると、クリスタがソファーに座っていた。
部屋の主は机で執務を続けている。
「先に座ってて。もう少しで終わるから」
「ええ」
クリスタの向かいに座り、執事に紅茶を淹れてもらう。
「今日は何かしら?」
「さあ?私も呼ばれただけなの」
クリスタも何も知らないらしい。
少し経つと、ジルがクリスタの隣に腰かけた。
と、部屋の扉が開かれた。
「どこかで見てたの?」
「いやいや、偶然だ」
ジルの質問に答えながら部屋に入ってきたのは、ダムリ王だった。
「私にも紅茶を」と言うと、私の隣に腰かける。
王として接する時間よりも、友人の父親として接する時間が多かったせいか、恐縮することはない。
しかし、今日は何か秘密の話があるみたいだ。
王に紅茶を淹れた執事がいなくなっている。部屋には今、この四人しかいない。
「ユフィ、君、魔王と結婚するの?」
ブッと紅茶を吹き出しそうになった。
「なな、なにを、言いだすのですか!?」
「いや、ジルとクリスタから聞いた話だと・・・ねぇ?」
クリスタとジルをキッと睨むが、二人はとぼけたように笑顔だ。
王の方を向く。
「ええ!ええ!そういう事も考えちゃいますよ!それがなんですか!?」
私の姿に王が苦笑いした。
「それで、どうしたいの?」
「それは・・・」
「まあ、難しいよね」
そう。国の将来を考えると、踏み出せない。
今の私は冒険者として有名になっている。協定の内容には、緊急の際には他国の協力が得られるという内容がある。戦力や名声の高い私が魔王のいる国へ嫁ぐとなれば、周辺の国々が黙ってはいないだろう。
それに、私はジルの婚約者の一人という立場がある。
国民は覚えていないだろう。むしろ、クリスタだけだと思っているはずだ。
しかし、王族や貴族はそうではない。
協定を結んでいる国も、私たちが王太子夫人としてこの国に居続けると思っているから、不当な対応をしてこないのだ。
「結婚しちゃいなよ」
「――なんっ!」
王が軽い口調で言ってくる。
カッと頭に血がのぼる。
「まあまあ、落ち着いて。話聞いて」
宥められ、ソファーに座りなおす。
「ユフィが、国のことを思ってくれているのはわかってる。だけどね、それを理由に君が願いを諦めることはしてほしくないんだ」
優しい声で、そう言われた。
「それに、国のことなら心配いらない。イムステラ国とキクリア国は同盟を結ぶことにしたんだ」
その言葉に呆けていると、「もちろん、国のためになると判断したからだよ?」と言われた。
二人の方を見る。ジルはニコニコと笑顔で私を見ていて、クリスタは涙を流しながら「本当に良かった」と言葉をこぼした。
「同盟を結べば君と魔王の結婚は、国に利益をもたらすものになる。わかるだろう?」
「ですが、ジルとの婚約はどうするのですか?」
「ああ、それは私の誕生祭の時に話すよ」
そう言うと、王は席を立った。「楽しみにしててね」と言い、執務室から出ていった。
※
というわけで、今、魔王にプロポーズをされているのだ。
「それで、返事は?」
ムメイが優しく微笑む。
そんなの決まっている。
「もちろん!喜んで!」
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