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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

再会

作者: 野田忠矢(のだ・ただや)

 小学校六年生のとき。

 ぼくは同級生の加藤亜美かとう・あみさんとともに、小学校と“戦争”をしていた。


 嘘ではない。

 教師や生徒からいじめを受けたぼくと、そんなぼくをいじめから助ける彼女は、確かに小学校を相手に戦争をしていたのだ。


 当時、ぼくは亜美さんのことが好きだった。

 一見すると、好きな人から守ってもらえるというのは、夢のようなシチュエーションなのだが、それ以前にぼくと亜美さんは苦しんでいた。


 醜い中年の女教師の命令で、ぼくは最前列よりもさらに“前の席”に移動させられ、さらし者となり、亜美さんは常に教師や生徒から不遇な扱いを受け、それでもぼくと同様に登校していた。


 ぼくは汚らしい禿頭の中年男性教師から股間を触られ、亜美さんは同級生の男子生徒からセクハラを受けた。

 ぼくが同級生に悪口を言われたり、読んでいた小説を取り上げられたりすると、正義感の強い亜美さんはよく彼らを注意した。


 あのときのことは、今でも鮮明に覚えている。

 一時、つらさのあまり、記憶から忘却してしまったこともあったが、二十四歳になった今でも、ぼくはそのときのことをよく覚えている。


 当時、いじめがあまりにもつらくて、ぼくは自宅にあった包丁をランドセルに入れ、登校しようとしたことがあった。

 そこで何を成し遂げるのか、ぼくには分かっていても分からぬふりをしていた。

 が、登校寸前、母は包丁がないことに気づいてしまったので、ぼくはありったけの言い訳を口にし、母に包丁を返した。


 もちろん、両親にはいじめのことは伝えていなかった。

 言えるはずがない。

 言えるはずがないのだ。


 だってこれは戦争なのだから。

 だってこれは“ぼくと彼女”による戦争なのだから、戦争を知らぬ者には言えるはずもなかった。


 やがて、ぼくはいじめという兵器により降伏し、ついには不登校となった。

 亜美さんもぼくをいじめから救うことで、ぼくと同様に心が蝕まれてしまった。


 そう、そうなのだ。

 ぼくが精神を病み、児堂思春期外来で精神病と診断されたとき、すでに亜美さんも心が壊れていたのだ。


 不登校になってから数ヵ月後、自宅のマンション前で、ぼくは亜美さんとばったり出会った。

 ぼくは久しぶりに亜美さんと会い、照れながら「どうも」と言った。

 だが、亜美さんは知らんぷり。


 ぼくは通り過ぎてしまった亜美さんを追いかけ、青ざめた顔で亜美さんに再び声をかけた。

 そしたら、ぼくは亜美さんから数々の暴言を受けた。


 その中には、暴言を受けても仕方がないようなぼくの過去の行いもあったが、それすらも薄れてしまうような言葉の暴力。

 そう、目の前にいる亜美さんは、ぼくの知る亜美さんではなかった。


 ぼくは泣き伏し、ついには亜美さんに想いを伝えた。

 ぼくの告白を聞いた亜美さんは悲鳴を上げ、「汚らわしい、汚らわしい!」と何度もその言葉を叫び、早足でその場から立ち去ってしまった。

 そのとき、ぼくの心の支柱は確かに崩れ去った。


 その日からだった。

 ぼくが家庭内暴力をするようになったのは、その日からだった。



 それから二年後、小学校六年生のときの記憶を忘却せざるを得なかったぼくは、亜美さんに電話をかけた。

 なんとも穏やかな会話をするぼくら。

 そのとき、ぼくは亜美さんに向かって「あのとき、ぼくはきみのことが好きだったんだ」と言った。


「うん、知ってる」


 そう亜美さんは照れたような声で答えたので、思わずぼくは笑った。


 それからしばらくして――ぼくはつらさのあまり、忘れていたはずの記憶を思い出した。


 あのとき、亜美さんから言われた針のような暴言の数々。

 ぼくの告白、それを「汚らわしい!」と切り捨て、その場から立ち去った亜美さん。


 それだけじゃない。

 ぼくは一年前のあのとき、ちゃんとこの耳で聞いたのだ。

 小学校六年生のときの同級生から、聞いたのだ。


「きみは知らないだろうけど、きみが不登校になってから、亜美さんはきみのことを悪く言うようになったんだ。

 思い返せば、そのときの彼女、怖かったよ。性格が変わった、そう言ってもいいかな。

 手のひら返しとは、まさにこのことだね」


 ……そう聞いたのだ。


 そのことをぼくが問いただすと、亜美さんもそのことを思い出したようだが、ぼくがさらに詰問すると、彼女は「昔のことだから」と開き直った。


 このとき、ぼくは心が真っ黒な人間と化していた。

 ……いいや、とうにぼくは心が真っ黒な人間だったので、このときのぼくはいつも通りのぼくだった。


 ぼくは亜美さんを脅し、彼女を口汚く罵る。

 あの日、こちらの告白を全力で否定した亜美さんのように、とにかくぼくは彼女を罵った。


 そのときに亜美さんから聞いたのだが、中学生になる前、彼女も児堂思春期外来に訪れ、ぼくと同じように心が落ち着く薬を飲んでいたようだった。

 小学校六年生を機に、穏やかな性格から攻撃的な性格に変わってしまった、などと亜美さんは自分の話をしていたが……。


 そんなこと、知るか。

 ぼくは彼女の話を遮り、あざ笑った。


 ちなみにこのときのぼくだが、中学校には行けず、家庭内ですさまじく荒れていて、両親に暴力を振るうのは日常茶飯事と化していた。


 やがて、言いたいことだけ言ったぼくは電話を切った。


 復讐は果たされた。

 ……復讐は果たされた、のだ。


 その日の夜、ぼくは亜美さんのことを憎みながら、けれど亜美さんを想いながら、密かに布団の中で涙を流した。



 時は経ち、それから十年後――病状も生活も落ち着いたぼくは、いじめを受けていたときからの夢、小説家になるという夢を追いかけ、挫折を繰り返しながらも、小説を書いていた。

 いずれは小説家になり、自分の書いた物語で人を救う、そんな大きな夢も持ちながら。

 そしてそれを創作活動のエネルギーとしながら。


 光と闇が渦巻く世界の一人の住人として、希望を持ちながら日々を生きていた。


 そんなときだった。

 手がかじかむ寒さの冬の日の夜、ぼくが亜美さんとコンビニ前で再会したのは。


川埜幸太かわの・こうたくん……ですよね」


 ハッとぼくは後ろを振り返った。

 そこにはブラウンのステンカラーコートとブラックのデニムパンツ姿の若い女性が立っていた。


 いや。

 この顔の輪郭、まさか、とぼくが身構えたとき、

「あたし……加藤亜美かとう・あみ、です。久しぶり、ですね」

 そう切れ長の目をした女性――亜美さんはぎこちなくほほ笑んだ。


 ぼくは作りたての雪だるまのように、その場から動けず、ただ目の前の亜美さんを凝視する、それだけしかできなかった。

 それをどのように受け止めたのかは知らないが、亜美さんは頭を下げ、ぼくに謝った。


「あのときはごめんなさい。あたしはあなたになんて酷いことを……あぁ、本当にごめんなさい。謝っても許されないことですよね。

 不登校になるまで追い詰められてしまったあなたをさらに追い詰め、あなたの告白に対して酷いことを言ったあたしは……許されるはずがないです。ごめんなさい、幸太くん」


 亜美さんの謝罪。

 ようやくぼくは雪だるま状態から立ち直り、必死にかぶりを振った。


「ごめんよ。ぼくをいじめから助けたせいで、きみまで心を壊すはめになったんだ。で、あの電話ときた。

 ……知ってのとおり、あのとき電話をかけたぼくはね、まともではなかったんだ。いや、そんな言い訳なんてあんまりだ!

 ごめんよ、亜美さん。きみの心の傷は、ぼくのせいだ。ぼくの告白を否定したきみにだって、ぼくを責める資格はあるんだから」


「そんなこと……ないよ」


 そこで初めて、亜美さんはタメ口を使い始めた。


「ごめんね、幸太くん」

「ぼくこそ、ごめん」


 そうしてぼくらはお互いのしたことを許し合った。


 ぼくはコンビニに入って、亜美さんにホットココアの缶を買ってやった。

 亜美さんはぼくにお礼を言い、缶をカイロ代わりにしつつも、チビチビとホットココアを飲む。


 それでぼくらは他愛のない雑談を交わし、ようやく笑い合える頃になったとき、それは唐突に起こった。


「……この缶、虫が入ってる」


 そう亜美さんは言ったかと思えば、缶を地面に投げつけ、スチール缶を踏む、踏む、踏む。

 当然、缶の中に入っていたココアは地面にこぼれ、地面を濡らした。


 甘くおいしそうなココアの匂い。


 唖然とするぼく。

 そのあいだにも、亜美さんはスチール缶を一心不乱に踏みつけながら「虫嫌い、虫嫌い、虫嫌い……!」と呪いのような言葉を何度も繰り返していた。


 そのとき、痩せた体躯をした中年男性のコンビニ店員が店から出てきて、亜美さんを注意した。

 すると、亜美さんはスチール缶を踏むのをやめ、代わりに男性店員を殴りつけた。


 男性店員のおびえたような声を聞いたことで、ようやく我に返ったぼくは亜美さんを力いっぱい引っ張った。

 いざというときの男性の力にはあらがえず、尻もちをつく亜美さん。


 ぼくは見てしまった。

 現実ではないものを見ている、そんな狂った人特有の“病的な顔”を。


 ぼくは戦慄した。


 そのあいだにも、男性店員は暴れる亜美さんを押さえつけていた。


「離せ、離せぇ」

「きみ、ぼうっとしていないで警察を呼んでくれ!」


 大声を上げる亜美さんに負けないような叫び声で、そう男性店員はぼくに頼みこんだ。


 ぼくは震える手と声で、警察に通報した。

 しばらくすると、けたたましいサイレンの音を響かせながら、この場に二台のパトカーが駆けつけた。


 その後、亜美さんは警察官によって、警察署に連れて行かれた。

 もちろん、事情聴取のため、ぼくも警察署に同行した。

 何がなんだか分からない――そう思いながらもぼくはパトカーに乗り、警察署で自分の知ることすべてを警察官に話した。


 事情聴取が終わったあと、ぼくは近くにいた警察官に「亜美さんは……どうなりましたか」と尋ねてみたが、「おそらく、まだ取り調べ中だろう」とのことで、亜美さんに関する情報は得られなかった。


 そうしてぼくは暖房の効いた警察署から凍えつくような寒さの外に出た。

 こんな寒さのせいか、あのときの亜美さんの病的な顔を思い出したせいか――ぼくは小刻みに身体を震わせながら、人通りの少ない夜道を歩いた。



 それから三日後の午後三時過ぎ。

 その日の天気は、最近のぼくの精神状態を現すかのような曇天だった。


 この日、亜美さんはぼくの住むマンションを訪れた。

 なぜ彼女はぼくの自宅の住所を知っているのだろう、まさか小学生のときに教えた住所を覚えていたのだろうか、などと最初は考え事をしていたが、すぐにぼくは我に返った。


 ぼくは心を落ち着かせる作用の頓服薬を急いで飲むと、自分の部屋から玄関へと恐る恐る向かう。

 そこには暗い表情をした亜美さんとおろおろとする母がいた。


 両親に会話を聞かれるのを恐れたぼくは、近場にある閑古鳥でも鳴いていそうな喫茶店に亜美さんを連れて行った。

 店内は十年以上前の少し古い邦楽がかけられていて、それはまるでぼくらの時を巻き戻すような、そんな意味を込めたかのような選曲だった。


 どれだけぼくらのテーブルに置かれたコーヒーが冷め、どれだけぼくらのあいだに沈黙が続いたのだろうか。

 店内の曲は、今どき流行りとされる邦楽がかかっていた。


 あぁ、この曲は、とぼくが曲に意識を向けたとき、亜美さんは「本当に……ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にした。

 即座に身構えるぼく。


 いったんしゃべったことで話しやすくなったのか、なぜあのとき自分はおかしくなったのか、それを亜美さんは話し出した。

 もっとも、彼女の説明はぼくを震え上がらせるものだったが。


「あたしね、実は悪い虫に寄生されているのよ。それはいきなり悪さをして、あたしを操るの。

 ……あのとき、あたしは悪い虫に操られていた。だから気づけば、あたしはいつものように警察署で意識がはっきりする。

 おかしいよね、あたし。こんな悪い虫、いなくなればいいのにね」


 ふふふ、と亜美さんは病的に笑う。


 吐き気が込み上げてくるような亜美さんの説明だが、ぼくにはすべて説明がついた。


「ぼくの……せいだよね」

「……何が?」


 分かっているはずなのに、亜美さんはすっとぼけたように訊いてくる。


 恐怖と罪悪感と不快感。

 それらは融合し、ひとつの言葉となった。


「なんだよ、虫って……なんだよ、虫って。きみがこうなったのも、ぼくのせいだ。そうだろう? ぼくが亜美さんを追い詰めたばかりに、亜美さんは違う何かになった。

 きみの言葉を借りるなら、虫になったか、虫に寄生でもされて、操られ、きみはきみでなくなったのか……そうだよ、ぼくのせいだ。

 ぼくのせいだ、ぼくのせいだろう? 違うのかよ。いや、違わない。ごめんよ、ごめん。ごめんよ……!」


 このとき、ぼくは半分反省し、半分錯乱していた。


 ぼくが反省する理由は、充分にあった。


 ぼくのせいで、亜美さんは奇妙な世界に迷いこみ、その世界の住人となってしまったから。

 ぼくが亜美さんの人生を狂わしてしまったから。

 ぼくが亜美さんを台無しにしてしまったから。


 だからぼくは少しでも自分の罪が軽くなるよう、狂ったように頭を下げ、亜美さんに謝った。

 ぼくのため、彼女のため、涙を流した。


 やがて亜美さんは「……違うよ」と否定した。


「すべて、あたしが悪いんだよ。あたしはきみを最後の最後に追い詰めた。きみの人生をメチャクチャにした」

「そんなことないって。今のぼくは充分幸せだよ……?」


 そうぼくは亜美さんの言葉を否定しながら、心ではこんなことをこっそり思っていた。


 今ぼくの目の前にいる亜美さんさえいなければ、ぼくは充分“幸せ”のままでいられた。

 亜美さんが現れたことで、またぼくの人生は壊れかけようとしている。


 亜美さんのせいだ。

 彼女のせいで、ぼくはまた悪夢を見ることになるのだろう。


 亜美さんの……せいだ。

 憎い、憎い。


 反省しているはずのぼくの心の中に現れた、どす黒い感情。

 それはまるで寄生虫のようだった。


「ごめんね、ごめんね。ごめんなさい。……生きていて、ごめんなさい」


 ヒヤリ。


 ぼくはヒヤリとした。

 ヒヤリとしたのは亜美さんの不穏な言葉だけではない。

 亜美さんの目を見て、なおさらぼくはヒヤリとしたのだ。


 ぼくを憎む、そのまなざし。

 狂人にはできないような、静かな怒りを感じさせるまなざし。


 このとき、ぼくは理解した。


 あぁ、そうか。

 彼女も同じなのだ。

 彼女も……亜美さんもぼくのことが“憎い”のだ。


 ぼくの登場により、彼女も精神状態を崩してしまった。


 結局のところ、ぼくらはお互いを許し合うことはできなかった。

 手を取り合って、分かち合うこともできなかった。

 悲しいことだが、それは事実であり、真実でもあった。


 ぼくは静かに席から立ち上がると、レジで二人分の代金を支払い、亜美さんにさよならも言わず、喫茶店から出て行った。

 後ろを振り返ることはしない。

 なぜなら、ぼくらは決して出会ってはいけなかったから。


 ぼくは逃げるようにして自宅に戻った。

 彼女のまなざしから逃れるようにして……ぼくは自宅に戻ったのだった。



 次の日の朝。

 ぼくはテレビのニュース番組で、亜美さんが通り魔を起こし、そのまま凶器のナイフで自分の首を切って自殺したことを知った。


 特にぼくは驚かず、冷静にその事実を受け入れた。

 そのとき、ようやくぼくは悟った。


 ぼくの中では“戦争”はとうに終戦を迎えていたが、彼女の中では“戦争”はまだ続いていたのだと。


 それはぼくと彼女の戦争ではない。

 彼女の戦争とは、ぼくとの“戦争”を意味する。

 そして今、ようやく彼女の戦争は終戦を迎えたのだ。


 彼女の死によって、この戦争は幕を閉じることになった。


 ぼくは性格が変わる前のしっかり者の明るい亜美さんを思い出し、静かに涙を流した。



 結局、ぼくは彼女を救えなかった。

 それどころか、ぼくが彼女を殺した、と言ってもいいだろう。

 それは何も間違ってはいない。


 ……何が小説で人を救う、だ。

 目の前の現実で人を救えなくて、一体誰を救えるというのか。


 そんな自分に自己嫌悪し、ぼくは一年ばかり、物語を書くことをやめた。


 その一年後の冬……ぼくは彼女――亜美さんの夢を見た。

 それも小学校六年生のときの亜美さんだ。


 彼女は酷く苦しげな顔で「助けて、助けて」とつらそうに助けを求めていた。

 その彼女の前には、彼女をボロクソに言い、彼女を傷つける教師や生徒たち……いや、まだ彼女のそばには誰かいる。


 それは小学校六年生のときのぼく、だろうか。

 いや、それは小学校六年生のときのぼくに違いなかった。


 そのときのぼくは勇敢な顔をしていた。

 夢の中のぼくは彼女を背にし、悪い教師や生徒たちから守っていて、今にも泣き出しそうな彼女を励ましていた。


 なんで、とぼくが思ったときには、すでにぼくは夢から覚めていた。

 ぼくは目覚めるなり、布団から飛び起きた。


 しばらくのあいだ、ぼくはぼうっとしていた。

 この夢が意味すること、それは――。


「……そっか、そうだよな。その先にどんなことがあったとしても、亜美さんはぼくをいじめから守ってくれていた。それが事実、それこそが真実なんだよな……亜美さん」


 ぼくは涙を流しながら、心の底から納得。


 ここ一年のあいだ、執筆用ではなく、ネットサーフィンでしか使っていなかったノートパソコン……それをぼくはじっと見つめ、やがてはパソコンのある机の前に座った。


「ごめんね、亜美さん。ありがとう、亜美さん。ぼくは物語内で、きみを救ってみせるよ。

 たとえそれが都合のいい罪滅ぼしだろうと……ぼくはきみを壊した世界を作り変えてみせる。

 そして今度こそ、ぼくはきみを救うんだ。

 ……だからね、ぼくはきみにとって幸せな未来を書くよ。

 きみやぼくがハッピーエンドになる物語を……書き切ってみせる」


 ぼくが愛したきみを守るために、と最後にぼくはつぶやいてから、パソコンを開くのだった。

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