桃のパイのおまけ
手提げ袋から、瑞々しい桃をひとつ、もうひとつ……と、丁寧に取り出します。桃は傷みやすいですから、優しく扱わなあきません。
「あ! 桃やー! うち、めっちゃ桃好きやねん!」
店内でアイスティーを飲んでいた胡桃さんが、カウンターから身を乗り出してきました。ポニーテールに結んだリボンが良くお似合いで、可愛いです。
「こころも! 大好き!」
お休みのはずなのに、何故か制服に着替えている心さんも、同じように飛び跳ねて来ました。まん丸で大きな目が輝いています。可愛いです。
「桃……好きだけど剥くのが苦手……」
テーブルのシュガーポットを磨きながら、瑠璃さんが呟きます。ツインテールにしたスーパーロングの黒髪が相変わらず艶やかです。可愛いです。
「うるちゃん。桃、ひとつ剥いてあげてくれる? みんなで食べましょ」
桃の香りに浮き足立った皆のためにと、奥様が提案しはりました。皆を思うそのお優しい心。好きです。
そのうぶ毛の生えた柔らかな実に、果物包丁でほんの少しだけ傷を付けます。そこから、ぺろり、つるり、と、そっと剥いていきます。
剥き身には、決して力を入れないで。優しく持ったまま、包丁で切れ目を入れ、種から実を削いでいきます。これが私のやり方です。
切り分けたなら、紺さんが作りはった可愛い豆皿に、二切れずつ載せていきます。そうしたら、手を合わせて頂きます。甘い果汁を滴らせながら、皆さんで桃を味わいます。
「さすが粳先輩! やらかい桃でも上手いこと切りはるなぁ!」
「こころはいっつもそのままかじるよ!」
「桃……美味しい……」
皆さんが嬉しそうで何よりです。思い思いに桃を頬張るその姿、可愛いの一言では足りません。
「この桃、おやつに使うんスよね? 何を作るんです? やっぱりタルトとか? それともパフェ?」
「こころ、この前友達と夜パフェ食べたよ! キレイだった! けど、なんか……ビミョーだった……」
「桃は何しても美味しい……」
各々が、好きなように話をします。皆、桃が好きなんやねぇ。かくいう私も好きやけどね。
「ふふふ」
奥様は笑いながら、私にウインクをして下さいました。
「これはですね……」
何を作るのかと、皆がキラキラした目で見てきます。
さぁ、あの素敵なお嬢様の笑顔を思い浮かべながら、美味しいパイを作ると致しましょう。