聖夜の夢の中で
今日はクリスマスイブの昼下がり、町はどこも綺麗に飾り付けられています。
町外れにある一軒の小さな家の大広間でも、もみの木が部屋の真ん中に飾ってあり、他の家と比べると少々見劣りのするその部屋も、いつもよりずっと立派に見えます。
そしてその部屋の暖炉の前では、おじいさんが揺り椅子に腰掛けながら、居眠りをしていました。
―――良い夢でも見ているのでしょう。
おじいさんの寝顔にはうっすらと笑みが浮かんでおり、とても幸せそうです。
そこへ
「ドタン!」
という玄関のドアを乱暴に開ける音がしました。そして
「おじいさんっっっ!」
という、家中を揺るがすような大声が響きわたりました。
おじいさんはビックリして椅子の上から飛び上がると、あたりをキョロキョロと見回しました。
すると今度は大広間のドアが乱暴に開かれ、金色の髪と水色の瞳を持った小さな女の子が、その人形みたいにかわいらしい顔を興奮で真っ赤にさせながら、大広間へと入ってきました。
そしておじいさんに向かって
「おじいさんっ!ホントはサンタさんなんていないのっ?」
と、大声で叫びました。
おじいさんは女の子の突然の大声に驚きましたが、女の子の怒りの原因が何だか分かると、首を横に振りながら
「メアリー、一体誰にそんなことを言われたんだい?」
と女の子に尋ねました。
「今日、学校で男の子たちに言われたのっ・・・サンタなんて居ないんだって、ウソっぱちなんだって・・・」
メアリーはわけを話しているとだんだん元気が無くなっていき、話し終えると下を向いてしまいました。
おじいさんはにっこりと微笑むと、メアリーに向かって言いました。
「そんなことはないよ、メアリー。サンタさんは居るし、今年もメアリーにプレゼントを持ってきてくれるさ」
「・・・ホント、おじいさん?」
メアリーは震える声で、おじいさんに聞きました。
「もちろん本当だよ、メアリー。何も心配する事はない」
「うん!」
「それじゃあ、パーティーの準備をするから、手を洗っておいで」
「は~い」
やっと、メアリーは花の咲くような笑顔になりました。
―――パーティーの終わった大広間では、メアリーが、おじいさんに向かって文句を叫んでいました。
「あたし、絶対寝ないもんっ!あたし、サンタさんが来るまで起きてるもんっ!」
おじいさんはため息を一つつくと、メアリーに向かって穏やかに話しかけました。
「・・・いいかい、メアリー。サンタさんはよい子のところにしか来ないんだよ。メアリーはサンタさんにプレゼントをもらいたくないのかい?」
「・・・もらいたいわ・・・」
メアリーの小さな返事を聞くとおじいさんはにっこりと微笑んで
「ならばベッドに行きなさい―――子供はもう夢をみる時間だ」
と、メアリーを寝室へと送り出しました。
―――ベッドに入ったメアリーは、落ちてきそうになるまぶたを必死に押し上げ、眠らないように頑張っていました。
「サンタさんがホントにいるってことを、あたしが確かめるんだから!」
そう思いつつも、さっきまでのパーティーではしゃぎすぎたメアリーは、思わずウトウトとしてしまいました・・・
―――再びまぶたを持ち上げたとき、メアリーは「あれ?」と思いました。
自分は寝室のベッドでサンタさんを待っていたはずなのに、いつの間にか知らないところにいるのです。
だけどメアリーは、ちっとも怖くはありませんでした。なぜなら、メアリーの周りは何だか明るくて、暖かくて、とっても穏やかな気分だったからです。
メアリーが不思議に思いつつものんびりしていたら、後ろから
「こんばんは、メアリー」
という声がしました。
メアリーが後ろを振り向いてみると、そこには―――
―――全身を赤い衣装につつまれ、真っ白なヒゲをはやした男の人が、穏やかに微笑みながら立っていました。
メアリーは一瞬、おじいさんの変装かと思いましたが、すぐに違うと分かりました。
なぜならその男の人は、おじいさんよりもずっと太っていて、髪の毛もフサフサだったからです。
「もしかして・・・サンタさん?」
メアリーが期待を込めて問いかけると、男は
「その通り!メリークリスマス、メアリー!」
と、愉快でたまらないという顔をしながら答えました。
メアリーはそれを聞くと
「やっぱり、サンタさんはホントにいたのね!」
と、大喜びです。そして、あたりをキョロキョロと見渡しながら
「あたしへのプレゼントはドコなの、サンタさん?私が一番欲しい『プレゼント』―――あたしのパパとママはどこにいるの?」
その質問をされた瞬間、サンタは少し悲しそうな顔をしながら
「残念だけど・・・キミのパパとママをプレゼントすることは出来ないんだよ、メアリー」
「どうしてっ!アナタはホントのサンタさん何でしょう!アタシ、ずっといい子にしていたわっ!
・・・おじいさんが料理を作るのをお手伝いしたし・・・欲しかったオモチャだってガマンした・・・それに、パパとママがいなくなってから、一度もおじいさんに『寂しい』って言わなかったわ・・・なのに・・・どうして・・・ねぇ、サンタさん・・・どうして?」
メアリーは涙で顔をグシャグシャにしながら聞きました。
そんなメアリーの前に、サンタはメアリーが枕元に用意していた小さな白い靴下を差し出して言いました。
「メアリー、サンタのプレゼントは靴下に入るサイズじゃないとダメなんだよ―――キミのパパとママは、その靴下には入りきらないだろう?」
「・・・どうしてっ・・・どうしてプレゼントは靴下に入るサイズじゃないとダメなの・・・欲しいプレゼントがもらえれば、みんなが幸せになれるのに・・・」
「それはね、メアリー・・・『ヒト』が幸せを手に入れるためには、『ヒト』自身の手で幸せをつかまなきゃダメなんだよ―――サンタが出来るのは『ヒト』が幸せを手に入れるのを、ほんの少し後押しする事だけなんだ」
「むずかしいコトは分からないわっ!・・・パパとママに会いたい・・・パパとママに会わせてよぅ・・・」
そう言って泣きじゃくるメアリーの顔から、サンタはそっと涙をふきとりました。
「泣くのはおやめ、メアリー。私はキミのパパとママは連れてこられなかったけれど、キミのためのプレゼントはちゃんとあるんだ」
そう言ってサンタは、先ほどの靴下から一通の手紙を取り出しました。
メアリーはその手紙を見ると
「―――ママの字だわ!」
「その通り。キミのパパとママが最期に『キミに渡して欲しい』と、コレを私に預けていたんだ。―――さぁ 開けてごらん、メアリー」
メアリーは涙をふくことも忘れて、両手でその手紙を受け取ると―――まるでそれが価値のある宝石であるかの様に―――大切に大切に抱きしめました。
そして、震える手でゆっくりと手紙を広げると―――
今日は待ちに待ったクリスマス、町はどこも綺麗に飾り付けられています。
町外れにある一軒の小さな家の大広間でも、昨日開かれたパーティーの気分が少し残っていて、他の家と比べると少々見劣りのするその部屋も、いつもよりずっと立派に見えます。
そしてその家の寝室では、一人のかわいらしい女の子が、ベッドで眠っていました。
―――良い夢でも見ているのでしょう。
その女の子の寝顔には、涙のあとと一緒に満ち足りた笑みが浮かんでおり、とてもとても幸せそうです。
プレゼントを入れるためでしょう。その女の子の枕元には、小さな白い靴下が置かれています。
―――そしてその中には、一通の手紙がとても大切にしまわれていました。
「小説家になろう」のみなさまに、素敵なクリスマスが訪れますように