屋根裏の妖精
学校から帰るなり、屋根裏部屋へ駆け込んだ。
「ただいま!」
「おかえりなさい」
その声は私の心を弾ませた。
物置小屋と化した屋根裏部屋には、死別したハムスターの形見であるゲージが置いてある。
そのゲージに、私は妖精を飼っていた。
「今日はタンポポを摘んで来たよ!」
得意気な私を見て妖精は微笑む。
彼を見つけたのは1週間前。園芸が趣味の祖母が育てたパンジーの花壇に、傷だらけの何かを咥えた一匹の野良猫が飛び込んできた。人間のような姿をしていたので慌てて助けると、彼は私の手の中でうずくまり、私の胸は高鳴った。
「ありがとうございます」
私からタンポポを受け取ると、彼は花びらを一枚ずつちぎっては口へ運んだ。彼の主食は花びらで、猫に襲われた日もパンジーの花びらを食べようとしていたところだったらしい。
「ところで、おかげで傷も癒えましたし、そろそろ羽を返していただけませんか」
「あっ、そうだ、お茶! 飲み物持ってくる!」
私は話を遮り屋根裏部屋を後にした。台所でお人形遊びで使う小さなティーセットに数滴の紅茶を丁寧に垂らす。
彼が落としたのは妖精の羽。ラミネートのように薄く透き通ったそれは、大切に机の引出しの中に保管してある。羽がないと彼は空を飛ぶことも魔法を使うことも出来ないらしい。
本当は彼の傷が治ったらすぐに返してあげようと思っていたが、段々と彼と別れることが惜しくなっていた。
妖精は学校の男子みたいに意地悪をしない。切り過ぎた前髪をからかったりしない。馬鹿にしてくる男子の陰に隠れてコソコソ笑う女子みたいに狡くない。
優しくて穏やかで、私が屋根裏部屋に来るのを待っている。
私は妖精の存在を知る特別な女の子で、私は彼の特別になりたかった。
「はい、紅茶だよ!」
小さなティーカップを受け取ると、妖精は微笑んだ。
そんな風に過ごす日が何日か続いて、いつものように花を摘んで帰ったある日。
ゲージの中身が空になっていた。
「なんで!?」
慌てて引出しを開けると、妖精の羽も綺麗サッパリなくなっている。
逃げ出してしまったのか、死んで消えてしまったのか、全て夢だったのか。最早私にはわからなかった。
ただ、大声を上げて泣いた。
それから数十年経って、久々に屋根裏部屋に入った。
「あれ?」
ゲージの中にはボロボロで、かろうじて原型を留めている四葉のクローバーがぽつんと置いてあった。
思わず膝を落とした。
私の妖精は生きていたのだ。
また春がやってくる。