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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 色彩能力者と千面道化

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最終話 コノハ=シロガネの独白

 俺の中で、最も忌むべき記憶……それは、父親と美術館を訪れた時の記憶だ。

 父、アゲハ=シロガネは白馬の絵を見て、こう言った。


「白の数は一つじゃないんだ。『白』と分類される色だけで100種類あるとも200種類あるとも言われているんだ。この絵に使われている白と、隣の絵に使われている白は違うんだ」


 父からその言葉を聞いた時、俺はこう返した。


「そうなの? 俺には全部同じに見えるよ」


 俺の発言を聞いた父の表情、

 その父の残念そうな表情は……今でも鮮明に覚えている。



 ---



――四季森。



 そこで奴を初めて見た時、俺は大いに驚いた。


 似すぎている――


 父の、あの男の若い頃の写真を一度だけ母に見せてもらったことがある。その時の父の顔に、良く似ていた。否、()()()()()

 奴の瞳――それは写真と見比べるまでもなく、父と同じだった。俺のよく知っている、父の瞳だった。


 俺は自身の胸の内に沸いた疑問を解決するため、奴に治療錬成を掛けると共に、奴の肉体から血液・指紋・髪などを採取した。

 そして俺が持っていたアゲハ=シロガネの血液と指紋、髪と細部まで比べてみた。



 結論から言うと、イロハ=シロガネとアゲハ=シロガネはまったく同じ遺伝子を持った存在だった。



 美術館に行った日の帰りに、奴が呟いていた言葉を思い出す。


『やはり、生殖という方法は効率的ではないな』


 奴への怒り、憎悪が全身を駆け巡った。


「まさか、あの男は……!」


 いや、結論を急くことはない。まだイロハがアゲハのコピーと確定したわけじゃない。イロハをアゲハが造ったと確定したわけじゃない。

 もしも俺の予測通りならば、奴は完璧な人造人間(ホムンクルス)を完成したことになる。

 許せることじゃない……断じて、許せることではない。認められることじゃない。

 俺でも細部まで調べなければ奴を人造人間(ホムンクルス)だと見抜くことができなかった。それはつまり、この人造人間(ホムンクルス)研究の第一人者、コノハ=シロガネより奴の方が高い完成度の人造人間(ホムンクルス)を完成させたということになる……それだけは断じて許せない!!


 譲れない誇り。

 生物錬金学、ただその一つだけでも、俺は奴の上に行ってなければならない。

 だから求めた。奴の研究、その闇の部分をまとめた書物――“禁忌の目次(タブー・リスト)”を。

 

 千面道化を捕縛した報酬として、俺は“禁忌の目次(タブー・リスト)”を手に入れた。

 そしてすぐさまその中を見た。


「――――」


 絶句した。

 奴は、俺より遥かに高次元な人造人間(ホムンクルス)の錬成式を完成させ、しかもそれを公表せずこんな書物に隠していた。まるで、『この程度の錬成式、誇ることもない』――そう言わんばかりだ。


 間違いなく、イロハ=シロガネはアゲハ=シロガネのクローン。アゲハが造ったクローンだ。

 一体奴はなぜイロハを造った? その目的は?

 問える相手は一人だけ存在する。


「吾輩に何か用かな? コノハ先生」


 俺は“禁忌の目次(タブー・リスト)”を持って、カボチャ校長――ジャック=O=ニュートンのもとを訪ねた。


「これを見た。もう隠し事は許さん……あなたは知っていたな。イロハがアゲハのクローンだと」

「ああ」

「なぜだ。なぜ奴は自身のクローンを造った?」


 ジャック校長は玉座から立ち上がり、窓から空を見上げる。遠い昔を思い出すように。


「アゲハはとある錬金術を完成させていた。それは、魂渡りの錬金術。自身と遺伝子が近い存在に己の魂を移す錬金術だ。千面道化が使っていた融合錬成に似ているかな」


 遺伝子が近い存在に、魂を移す――


『やはり、生殖という方法は効率的ではないな』


 己の理解力の高さが、嫌になる。


「奴は……次の器として、イロハを用意したわけか」

「うむ。しかし奴はイロハに魂を移さなかった。その理由は……」

「……どうでもいいさ」


 俺は拳を握りしめる。


「俺は、失敗作だったということだな。奴にとって……俺は……!!」


 乾いた笑いが零れる。


「コノハ先生……」

「同情の視線を向けるな気持ちが悪い。俺は悲しんでなんかいないよ。むしろこれほど愉快な気分はここ10年で初めてだ。奴のコピーが……俺と母を捨てた男のコピーがこの学園に来るとは、これほど幸福なことはない」

「イロハ君とアゲハは違う」

「同じさ。見ればわかるだろ」


 俺は校長室を去る。

 イロハ=シロガネ……俺が憎む男のコピー。

 俺に失敗作の烙印を押したこと、後悔させてやるぞ。アゲハ。


 

 お前のコピーを俺が破壊し、俺がお前より優れていると証明してやる。

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