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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 色彩能力者と千面道化

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第68話 白銀の闇

 4月14日、木曜日。

 千面道化は昨夜の内に“錬国の守護者(フラスコ)”に連行され〈ランティス〉を離れたそうだ。


 明日まで短縮授業で来週からまた三時間授業に戻るらしい。

 ゆえに今日も午前中で授業が終わった。

 俺たち〈オーロラファクトリー〉とアラン先生はまた校長室へ招集された。


「皆の者ご苦労であった。約束通り報酬を払おう。――まずアラン先生。義肢展覧会の出展資格だが無事承諾を得られた。これがその参加証だ」


 カボチャ校長は便箋を直接アラン先生に渡す。


「ありがとうございます」


「次にコノハ先生」


 カボチャ校長は鎖でグルグル巻きにされた分厚い本をコノハ先生に渡した。


「“禁忌の目次(タブー・リスト)”だ。貸出期間は1週間。他者に閲覧させたり、コピーすることは許さない。内容をしゃべることも禁止だ。貴殿のホムンクルスにも見せないように」


「了解です」


 あれが爺さんの書いた本か。気になるな……。


「最後に〈オーロラファクトリー〉の諸君。貴殿らには3番通り43号の土地を渡す。これが住所だ」


 カボチャ校長がヴィヴィに住所の書かれた紙を渡す。


「土しかない場所だ。敷地面積は約200平方メートル。近くに客を取り合うような店もなく、安定して人通りもある。いま残っている空地の中で一番好条件の場所だ。もし望むなら、他の空地のリストも渡すが、どうする?」


「お願いします」


「わかった。後で使いの者に渡させる」


 これで全員、報酬を受け取った。


「千面道化は監獄〈ベイルロード〉に投獄されたようだ。千面道化はこれまでも多くの地域で悪行の数々を成していた怪人。グランデ伯爵の諜報員としてかなりの厄介なキメラであった。これを捕まえた〈ランティス錬金学校〉には“錬国の守護者(フラスコ)”より褒賞が贈られた。本当によくやってくれた」


「……正直、私は引きこもっていただけですけどね」


「それを言うなら俺だって」


 確かにヴィヴィとジョシュアは防衛班だったゆえに活躍はしてなかった。ヴィヴィに至っては保護対象だったから仕方ない。


「この馬鹿もな」


 コノハ先生は親指でアラン先生を指さした。


「あはは……面目ない」


 まだ根に持ってるんだな……。

 防衛班の中でフラムだけは地雷を作り千面道化を追い詰めた活躍があった。それだけでなく、最初の千面道化との戦いでフラムが爆弾で奴の肌を焼いたから、アイツの弱点が火だとわかった。フラムの錬金術が確実に千面道化を追い詰めていた。


「此度の事件はこれにて閉幕! チームは解散とする。各々の日常に戻りなさい」


 こうして正真正銘、千面道化の事件は終わった。



 ◆◇◆◆◇◆



「――っていうのが今回の事件のあらすじだ」

 

 ユリア邸、リビング。ジョシュアとユリアは向かい合って座っている。

 ジョシュアはユリアに今回の事件の顛末(てんまつ)を話した。


「ご苦労様ジョシュア。あなたの報告のおかげで、我々は千面道化を確保できました」


「みんなの目を盗んで伝令機を飛ばすのは大変だったぜ。でもよ、正直オレは千面道化はあそこで殺すべきだったと思うぞ。あいつは危険だ」


「わたくしも同感ですが、上の命令です。仕方ありません」


 ジョシュアは納得のいかない顔で引き下がる。


「ところでお前さん、昨日イロハを家に連れ込んでたろ?」


「……誤解を招く言い方はやめてください。“錬国の守護者(フラスコ)”が千面道化を連行する現場を見届けた後、イロハさんが公園で項垂れていたので彼を分析する良い機会だと思い、家に招待したのです」


 いつもより僅かに早口で話すユリア。


「アイツ……なにかあったのか?」


「それはシークレットです。ただ、あなたが彼を警戒する理由はわかったとだけ言っておきましょう」


「なんだそりゃ。まったく、オレは全部話してるのにそっちは隠し事かよ」


「ジョシュアさん、イロハさんについて質問がいくつかあります」


 こちらの質問には答えないクセに質問を仕掛けてくるユリアに対し、ジョシュアは苛立ちを感じる。


「なぜイロハについて質問するのか、その意図を教えていただきたい」


「わたくしも彼に接近して、彼に興味を持ちました。彼と話してみて、あなたの報告が完全ではないこともわかりましたから」


「あー、はいはい。質問をどうぞ、ユリア様」


「彼の家の住所は?」


「11番通りの21号だよ」


「彼の好物は?」


「知らないな」


「彼の誕生日は?」


「知らない」


「彼の好みの女性のタイプは?」


「知ら――はぁ?」


 ユリアは素知らぬ顔でコーヒーを口に運ぶ。

 ジョシュアはジトーッとユリアを見つめる。


「……なぁユリア嬢、その質問は任務のためのモノだよな?」


「当然です」


「まさかとは思うが、私情は入ってないよな?」


「当然です。ほら、アレですよ……イロハさんの好みの女性のタイプを知っておけば、イロハさんの懐に入りやすいではないですか」


「そ、それはそうだな」


「例えば好きな髪形とか、どういう性格の女の子が好きなのかとか、そういう情報を聞きたいのです!」


 珍しく声を荒げるユリアに、ジョシュアは明らかな違和感を覚えた。


(コイツ、イロハに取り入ろうとして返り討ちに遭ってないか?)


「どうしました?」


「いや……悪いがまだそこまで深い話をするほどの仲じゃないな」


 ユリアはコーヒーを口に運び、


「……それでは至急、彼の好みの女性についての情報を仕入れてください」


「……了解です」


 深く追及すると面倒なことになると思ったジョシュアはおとなしく承諾した。

 


 ◆◇◆



――夜。


 コノハ研究所に1人の来客が現れた。


「コノハ! たまにはちょっとお茶しない?」


「断る。帰れ」


 玄関先、コノハは玄関を閉めようとするが、それをアランの鋼の腕に阻止される。


「……もう作戦は終わっただろう! なぜここにいる!」


「友人の家に行くのに理由が必要かい? ――まぁ君が拒否するなら仕方ない。せっかく君が飲みたがっていたジバコーヒーの厳選豆を持ってきたのに、いらないなら1人で飲むことにするよ」


 コノハは玄関扉を開く。


「ラビィ、茶菓子の準備をしろ。リビングで飲む」


「承知しました」


「お邪魔しまーす」


 リビングで、コノハとアランは2人でコーヒーを飲む。


「それで、イロハ君との共同作戦はどうだった?」


「どうもこうもあるか。不快以外の感想はない」


 コノハは言葉通りいやそうな顔をする。


「君がここまで拒否反応を起こすのはアゲハ先生以来だね」


「逆に聞くが、お前はあの男をどう評価している?」


「イロハ君でしょ? 聞き分けのある利口で良い子だと思ってるよ。たまに無茶するのが怖いけどね」


 呑気にそう話すアランを見て、コノハは目を細めた。


「……その判断は改めた方がいいな」


「どうして?」


「今回の作戦の詰みに使ったホムンクルス爆弾、提案したのは奴だぞ。あんなことを思いつく人間がまともなわけがないだろう。魂が入っていないとはいえ、人間の形をした存在を爆弾にするなど――」


 アランの笑みが崩れる。


「なんだって? ……君の計画書ではあのホムンクルス爆弾は君が思案したものだと書いてあったよ?」


「なにを言っている? 作戦前夜に配った計画書には、ホムンクルス爆弾はイロハ=シロガネの案だと書いたぞ」


「いいや書いてなかった、けど」


 互いの認識の間に齟齬が生じる。

 数秒の沈黙が流れ、先にアランが解を得る。


「――いや、もしかして……!」


「どうした?」


「そもそもあの計画書はイロハ君が配っていたよね? 君はホムンクルスの製造で忙しいからってさ」


「っ!?」


 そこでようやくコノハも気づく。


「ちっ! あの男、まさか!」


「……改ざんしたのか」


 コノハは動揺した心を落ち着けるため、コーヒーを口に運び、一息つく。


「お前なら俺の筆跡ぐらいわかるだろ」


「その一文、まったく君の字と一緒だったよ。違和感は何一つなかった」


 アランの表情にも動揺の色が見える。


「……なぁ、アラン。あの男はやはり普通ではないよ」


「今の話を聞くと、そう思うね……」


「それだけではない。ホムンクルスが抱き合い、爆発した時のことだ。内臓が飛び交い、肢体が飛び交い、肉塊が飛び交う、俺やお前ですら眉を顰めざるを得ないあの光景を前にして、あの男の表情は一切揺らいでいなかった。普通の14歳ならば吐瀉して然るべき状況でな」


 コノハは揺れ動く真っ黒なコーヒーの水面を見て、


「確かに奴は手のかからない生徒かもしれない。だがな、手のかからない生徒だからと言って問題児じゃないとは言えない。本当の問題児は手の負えない状況になってから露呈する」


「……言い過ぎだよ。彼は少しだけ、感情に疎いだけだ」


「疎い? ふん、そんなレベルじゃないさ。――もうコーヒーは飲み終わっただろう? いい加減帰れ。俺にはやることがあるんだ」


「“禁忌の目次(タブー・リスト)”のチェックかい? 正直、君が“禁忌の目次(タブー・リスト)”を選択したのには驚いたよ。君はアゲハ先生の手を借りることを嫌がっていたからね」


「一つ、調べたいことがあった。……アゲハ=シロガネの専攻がなんだったか覚えているか?」


「鉱物錬金学全般でしょ? あの人は賢者の石を追い求めていたからね」


「ああ。だから俺は奴と競い合いたくなくて……逃げて、生物錬金学に軸を置いた」


「……知ってるよ」


「生物錬金学において俺は、とっくにアゲハを……父を、越えたと思っていた。だが――」


 コノハはすでに“禁忌の目次(タブー・リスト)”を半分まで読み進めていた。

 ゆえにコノハは知ってしまった、自身と父親の間にある差を。

 コノハは立ち上がり、アランに背を向ける。自分の悔しさに満ちた表情を見せないように。



「俺は生物錬金学において、未だ一切、あの男に(まさ)っていなかったのかもしれない……」


第二章終了です!

ここまで読んでいただきありがとうございました!

今後の作品の発展のためにも、ページ下部の星を【☆☆☆☆☆】から【★★★★★】にしてくださると嬉しいです。

低評価もきちんと受け入れますので【★☆☆☆☆】でも押してくださると今後の参考になります。

現時点の評価で構わないのでよろしくお願いします。

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