第65話 本物と偽物
俺の作戦はこうだ。
まずコノハ先生に〈ランティス錬金学校〉内のウツロギ先生の関係者に似たホムンクルスを作ってもらう。そのホムンクルスを俺の虹の筆で塗色し、さらに本人たちに寄せた上で町に放ち、千面道化を釣り上げる。前回特殊メイクをした経験が活き、うまく塗色できた。
これが俺の作戦の大筋。
作戦についてはコノハ先生が計画書を作り、俺がそれをヴィヴィたちに配った。
肌の色、髪の色も完璧。顔立ちも筆を重ねることでほぼ完ぺきに再現できた。オリジナルには今日は学校に泊まるよう指示をし、彼らのコピーだけを家に帰す。
ウツロギ先生の記憶を持った千面道化がウツロギ先生の関係者を狙うことは容易に想像できた。ウツロギ先生の関係者のほとんどは学校の人間だからな。体を奪えれば一気にヴィヴィに近づける。特に彼の友人たる6名の教師の誰かを襲う可能性は高いと踏んでいた。
俺とコノハ先生、ラビィさんは教師陣の家が多く存在する13番通り~16番通りに潜伏することに決めた。14番通りの宿屋で、俺たちはコピーの誰かの生体反応が消えるのを待った。
そして、アルトロフ先生のコピーの生体反応が消えた。
俺たちは他のホムンクルスたちと共に生体反応が消えた公園を取り囲み、今に至る。
作戦はうまく嵌り、千面道化は劣化体と融合を果たし……血を吐いて、地面にうずくまっている。他にも11個ほど代案もあったが、一個目の作戦で捕まえられてよかった。
「この罠は……あなたの仕業ですか? コノハさん」
千面道化の質問に、コノハ先生は答えない。
「そうですか……ならばやっぱり」
千面道化は俺に視線を合わせる。
「千面道化。お前が取り込んだアルトロフコピーは今日1日を生きるためのエネルギーしか積んでいない。さらに特殊疾病も抱えていた。体の72%は人体の構成物質とは別の物で出来ている。お前は人間1人分の毒を取り込んだようなものだ」
「ええ、でも僕がこの程度で諦めるとでも?」
千面道化は右手の平を見せる。そこには合成陣が描いてあった。
「ふん。うずくまった時に新たに描いたか。ラビィ、シールドを張れ」
「承知しました。バリアパラソルを展開」
ラビィさんの右腕に変形し、金属の傘になる。傘が開くと、俺とコノハ先生、ラビィさんを囲むように電磁波(?)のバリアが張られた。
「今のお前にこれを突破する体力はないだろう?」
「突破する必要はありません。もうあなたたちの体も、母さんも諦めます。撤退一択です」
まだその瞳に諦めの文字は見えない。
「僕はね、何度融合錬成しても、胃の内容物だけは変えないんですよ。なぜなら……そこには多くの暗器を隠しているから」
千面道化は口を膨らませて、空に向けて黄色の丸い物体を吐き出した。
丸い物体ははじけ、周囲を照らす閃光を放つ。
「くっ!?」
閃光を前に思わず目を瞑る。
瞼を開くと、すでに千面道化の姿はなかった。
「コノハ先生、これは……」
「奴に一瞬でこの場を離れるほどの体力はない。ホムンクルスの一体に化けたな。お前の眼なら見破れるだろう?」
「駄目ですね。多分、俺の死角に居るホムンクルスに化けています。生体反応は?」
「駄目だな。生体反応の有無は心臓の有無で判別している。これに気づいた奴は腹にでもホムンクルスの心臓を抱え込んだのだろう」
つまり、いま千面道化の体には心臓が2つあるわけか。
「まぁ、ホムンクルスを一人ずつお前の眼前に引っ張り出せば……」
「陽が落ちて、辺りが暗くなった。千面道化の変装を見破るためにはある程度近づく必要があります。
――これ以上奴にターンを与えたくない」
俺はコノハ先生に目配せする。
「……あの手を使う気か」
「なにを躊躇う必要が? 絶好のチャンスでしょう」
コノハ先生は舌打ちし、
「無魂人造人間に告げる。2人1組となって……自爆せよ」
瞬間、無魂人造人間たちは抱き合い――自爆した。
轟音が夜の町に鳴り響く。
炸裂する血漿。目玉が、内臓が、破裂してまき散らされる。
轟音が止んだ時、公園に残っていたのは俺とコノハ先生とラビィさん、そして黒焦げになって地面に倒れた千面道化だけだった。
「お、あ……あ!」
喉が焼け、もう声も出せない状態だ。
指一本動かせない、本当の詰みだ。
「凄いな。あれだけの爆撃を受けてまだ原型があるなんて」
千面道化に情けの称賛を送る。
ホムンクルスに搭載できる爆弾の量はフラムが千面道化にくらわせた地雷の比じゃない。ホムンクルスは最低限の知能はあるため、ターゲット設定さえすればかなり融通の利く追尾性能を持つ爆弾になる。――便利だな。
ホムンクルスに爆弾機能を取り付ける案は俺が出した。それは便利だから、というだけではない。千面道化はその能力上、他人と接触することが多い。奴に爆弾を当てるなら人に乗せるのが一番確実。餌に毒を盛るだけじゃ足りない。餌に爆弾を仕込むぐらいしないとコイツは仕留めきれない。それぐらいの強敵だったことは認めよう。
「コノハ先生、とどめをささないのですか?」
「……」
「気が引けるなら――俺がやりますよ」
俺が無表情で聞くと、コノハ先生は目の下に汗を一滴這わせた。
「貴様は……」
その時だった。
「そこまでだ!」
多数の足音が俺たちを囲んだ。
全員が同じ制服を着ている集団だ。制服の背広にはフラスコのようなエンブレムが絵が描かれている。
「こいつらは……!」
コノハ先生は彼らが誰か知っているようだった。
「コノハ=シロガネ、それ以上動くな。千面道化の身柄は我々“錬国の守護者”が預かる!!」
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