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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 色彩能力者と千面道化

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第63話 白銀の作戦

「満身創痍で虫の息だった相手を(のが)すとはな」


「ごめんなさい」


 防衛班は千面道化を撃退することはできたが、仕留めることはできなかった。

 俺たち探索班も千面道化を逃がすまいと包囲網を張ったが、〈四季森〉すべての出入り口を塞ぐことは出来ず、穴を突かれて逃亡された。


 俺とコノハ先生は研究所に戻り防衛班と合流。

 全員がリビングに集合したわけだが……今はコノハ先生によるアラン先生への説教中だ。


 コノハ先生は椅子に座って腕を組み、アラン先生は床に正座して説教を受けている。


「しかも俺の大切な素体を一体奪われる始末。アレ一体でいくらすると思っているんだ?」


「ごめんなさい」


「お前のことはある程度評価していたのだがな、改めなければならないか」


「ごめんなさい」


「相手が融合錬成を使うなら、保管棟の警備を固めるのが定石だろうに」


 なんというか……担任の先生が叱られるというのは、嫌なものだな。


「その辺りで終わりにしてください。アラン先生はちゃんと、私を守るという任務は完遂しました。最低限の働きはしたはずです」


「ありがとう、ヴィヴィさん」


「甘やかすな。コイツは昔から抜けているところがある。いい加減、治してもらわないとかなわん」


「コノハ先生もあと一歩のところで千面道化を逃がしたじゃないですか。アラン先生ばかり責められるのはどうかと思いますよ」


 俺もフォローに参加する。


「それにコノハ先生は保管棟へ入ることを禁止していた。アラン先生もそのルールのせいで防衛策を練りにくかったのでは?」


 コノハ先生は舌打ちし、「もういい」と説教を打ち切った。

 少しは自覚があったようだ。


「それで、次の手はどうしようか?」


 アラン先生が立ち上がって聞く。


「千面道化はまた民衆に紛れちまったんだろ? 状況がリセットされちまったな」


 ジョシュアが呆れ気味に言った。


「そうでもない。奴と直接戦ったことで、得られた情報は多い」


「例えば?」


 とアラン先生が問う。


「奴はどうやら融合した対象の身体能力に大きく影響を受けるようだ。誰と融合しても超人的な身体能力を擁していたが、対象によってある程度の振り幅はあった」


「そうだね。ウツロギ先生を吸収した千面道化と、ラビィちゃんを吸収した千面道化だと、前者の方が動きが良かった」


「それは錬成劣化の影響だな。奴がラビィと融合してくれたおかげで、奴が対象のどの成分を取り、どの成分を破棄するか、その正確な情報がラビィの記録回路より抽出できた。これを加味してトラップをばら撒こうと思う」


「なんだよ、トラップって」


 ジョシュアが問う。


「寿命1週間程度の劣化体ホムンクルスだ。これを大量に街にばら撒く」


 劣化体を吸収させて千面道化を弱らせるわけか。


「用意できても精々100~200体ぐらいでしょ? それに千面道化が引っかかるとは思えないけどね」


「あくまで案の1つだ。これと並行して色バカとの探索も続行する。時間が経てば経つほどホムンクルスは量産できるゆえ、監視の目も、毒も、並行して増えていく。奴が焦って次々と住民と融合すれば足がつく。爆弾が弱点だという確証も得られたからフラムの爆弾を〈四季森〉に敷き詰めることで防衛も強化できる。ほぼ間違いなく、期間内に奴を詰めれる。

 圧倒的にこちらが有利な状況だ。焦ることはない」


 アラン先生も、ジョシュアも、フラムも、納得した顔だ。

 でもヴィヴィだけは浮かない顔をしている。


「ご主人様」


 リビングに融合錬成で消えたはずのラビィさんが入ってくる。


「ただいま戻りました」


「魂の定着率は?」


「88%です」


「95%を超えるまでは無理はするな」


「はい」


 魂は研究所に保管しているとか言ってたな。新しく体を作って、それにまたラビィさんの魂を入れたのだろう。つまり、コノハ先生と研究所が無事である限り、ラビィさんは何度殺されても蘇るわけだ。


「今日のところはこれで解散だ。研究所の外は大量のホムンクルスが見張っているから安心して休め」


 コノハ先生の号令で、それぞれがそれぞれの部屋に戻っていく。


「ねぇ」


 ヴィヴィが背中越しに呼び止めてきた。


「……千面道化は最初、ウツロギ先生じゃない、女性の姿をしていたのよね?」


「そうだ」


 ヴィヴィは沈黙する。


「それがどうかしたか?」


「いいえ。なんでもないわ」


 ヴィヴィは顔を見せず、部屋に戻っていった。

 『どうかしたか?』、だと。わかってるクセに……。

 千面道化が顔を変える度、人が一人死んでいるということだ。

 千面道化の貌となっていたあの女性は死んだということになる。詳細は聞いていないが、恐らく無害な一般人だっただろう。

 ヴィヴィの技術で作られた千面道化が、人を殺した。

 それだけで、ヴィヴィは傷ついてしまう。

 気にするなと言ったところで火に油だ。


「……」


 コノハ先生のプランに間違いはない。確実に相手を追い詰めていくやり方だ。

 だが時間はかかる。その間に千面道化は情報を集めるため、無害な人たちを殺していく。

 すでに一人は殺しているはずだ。コノハ先生のホムンクルスの姿で居続けることはリスクでしかないからな。


 これ以上、時間はかけたくない。だから――


「失礼します」


 俺はコノハ先生の居る第一錬成室に入る。


「なんの用だ?」


 コノハ先生は千面道化についてまとめたであろう資料に目を通している。


「質問があります」


 コノハ先生は不機嫌そうに顔を上げた。


「ホムンクルスの体型や年齢はどれくらい調整可能ですか?」


「遠回しな質問をするな。もっと噛み砕いて言え」


「……例えば、ヴィヴィとまったく同じ姿形のホムンクルスは作れますか?」


「年齢は自由に操れる。体重と身長も好きに調整できるだろう。声質もサンプルさえあれば模倣は可能だ。しかし、顔立ちや肌の質感などは再現できない。肌の色、髪の色、眼の色などの細部設定も大まかにしかできん。模倣率75%が限界だな。遠目なら誤魔化せる程度の出来だ」


「それで結構です。俺に、作戦があります。必ず千面道化に毒を食わせる作戦が」


 恐らく、今の俺は酷く冷たい顔をしているだろう。 

 無表情で、味のない表情。

 子供の頃の――白銀の表情だ。


「貴様……なにを考えている?」


「千面道化は人を化かすことには()けているようですが、化かされるのは……どうなんですかね?」


 千面道化――お前にとって屈辱的な方法で仕留めてやる。

【作者からのお願い】

ここまで読んでいただきありがとうございました!

今後の作品の発展のためにも、ページ下部の星を【☆☆☆☆☆】から【★★★★★】にしてくださると嬉しいです。

低評価もきちんと受け入れますので【★☆☆☆☆】でも押してくださると今後の参考になります。

現時点の評価で構わないのでよろしくお願いします。

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