第62話 防衛班vs千面道化
千面道化は〈四季森〉を抜け、コノハ研究所を草陰から覗き見ていた。
ラビィの記憶より、コノハ研究所の全出入口は把握している。
防衛班の面子も確認済み。
体は不完全だが、それでも並みの人間を圧倒できるほどの身体能力はある。しかし相手の中にはアランが居る。完全な状態でも手に余る相手だ。
千面道化は下手にコソコソすることは危険だと判断し、ラビィの姿で、ラビィの立ち振る舞いをコピーして、堂々と正面扉の方へ歩いていく。
――ピピ!
「え?」
地面から謎の音が聞こえたと思ったら――足元が爆発した。
「なに!!?」
想定外の一撃。
爆風で体が大きく吹っ飛ぶ。そして飛ばされた先の地面でもまた、ピピ! と音が鳴った。
「!!?」
さらに爆発が巻き起こる。
「これは、まずいっ!!」
二連続で爆撃を受けた千面道化はその場に膝をつく。
全身に火傷を負い、片目は焼け落ち、右足は激しく損傷している。
「終わりだ。千面道化」
研究所の天井の上に、アランは立っている。
「この地雷は、フラムちゃんが錬成したのかな?」
「優秀でしょ? 僕の生徒は」
アランは右拳を千面道化に向ける。
「クク……絶体絶命だ。凄い、凄いよ。僕がここまで成す術なく追い込まれるなんてね……!」
「これで、とどめだよ」
アランは右拳を発射する。
流星の如き速度で迫る鋼の拳。千面道化は発射される直前で左足で地面を蹴り、小さく跳躍した。
拳が外れる。
「無駄な足掻きだ」
「いいや、有意義な足掻きだよ」
千面道化は右手で地面を触る。すると、ピピ! と地面から音がした。
「自分から……!?」
地雷が爆発し、千面道化は爆風によって吹き飛ばされる。
千面道化が吹き飛ばされた先は――
「まさか!?」
――保管棟。
アランは千面道化の狙いを察する。
(狙いは、保管棟にあるホムンクルス素体か!)
ヴィヴィはラビィも知らない地下道から逃がしている。ジョシュアとフラムもその付き添いで居ない。保管棟を守護する人間は居ないのだ。1人でも保管棟に置いておけば今の手負いの千面道化は簡単に倒せるのに。
アランの過保護が招いたミス。
千面道化は保管棟に突っ込む。
アランはすぐさま後を追い、保管棟に入るが――もう千面道化の姿はなかった。
保管棟の培養カプセルの1つが割られ、中のホムンクルス素体が一体行方不明。
壁には逃走経路として使われたと思われる穴が空いている。
「完全に僕のポカだ。まずいなぁ……コノハに叱られる……」
◇◆◇
千面道化は〈四季森〉を走る。
「認める……認めるよ。僕が甘かった」
その姿は18歳ほどの青年ホムンクルスだ。
(教師から生徒に至るまで、これほど粒ぞろいだとはね……!)
アランとコノハの戦闘力については頭にあった。
しかし彼ら……イロハを始めとする生徒たち。彼らの能力が千面道化にとって誤算だった。
特にイロハとフラムだ。自身の融合を一瞬で見破れるイロハ、そして弱点とも言える爆弾を容易に作れるフラム。彼らの存在が千面道化の行動にかなり制限をかけている。
そこにコノハのホムンクルスによる人海戦術が絡まると非常に厄介。アランは両腕が義肢のため、腕を掴んでも融合錬成をすることができないという軽い天敵。更にはキメラに精通しているヴィヴィも居る。
時間をかければかけるほど、やれることは少なくなると千面道化は考える。しかし慎重に動かなければイロハに発見される。攻め込んでいるはずなのに、逆に袋小路に追い込まれつつあった。
「ククク……見事なまでに天敵ばかりだ。楽しいねぇ」
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