第60話 捨て身の融合
コイツがその気になればすぐにでも融合が始まる。
なにか手はないのか! クソ! こんな時にどこに行ってやがるんだ……あの煽りの錬金術師は!
「ん?」
バッ! と千面道化が突然、首から手を放して後ろへ大きく下がった。入れ違うように、槍の一撃が俺のすぐ前の地面に突き刺さる。
「ヒーロー見参!」
槍を持って現れたのは――
「フォックス!?」
「ようイロハ! どう? どう!? ドンピシャのタイミングだったろ?」
「いや、お前どうしてここに……」
「悪いな。学校から尾行させてもらった。どうしてもコイツにリベンジしたくてな……お前らが千面道化を追っていることは何となくわかってたし、お前を追っていけばたどり着けると思ったぜ」
さっきラビィさんが察知した気配はお前かよ!
いやでも……正直助かった。
千面道化は不機嫌そうな顔でフォックスを見る。
「君は前にも会ったね。アレで懲りてなかったんだ」
「むしろ火が点いた! 早く勝負しよう勝負! 楽しい楽しい殺し合いだ」
フォックスはやる気満々だ。
だけど、そもそもコイツの槍は千面道化には効かない。助っ人としては物足りん……。
「フォックス! ここは……」
「口出し無用だぜ」
フォックスは勢いよく飛び出す。
「さっきは反射で避けちゃったけどね、君の槍じゃ僕は貫けな――」
フォックスが槍を突きだそうとした時、槍の矛先に炎が灯った。
その炎を視認した瞬間、千面道化は防御をやめ、回避を選んだ。
千面道化の腕を炎が掠める。千面道化の腕は小さく火傷した。
「やっぱりねぇ!」
フォックスは笑みを浮かべる。
「斬撃は効かなかった癖に、爆弾の熱波にはダメージを受けてたからな。お前、熱に弱いんだろ?」
「……ブレイズメタルか」
ブレイズメタル、マナを込めることで熱を発生させる金属か。〈モデルファクトリー〉で見たモノより鮮やかな色をしている。新鮮なブレイズメタルはああいう色なのか。
「お前対策にベルモンドに作ってもらった特注品だ。これで条件は五分だぜ」
「本当に五分かな?」
今度は千面道化から仕掛ける。
千面道化を迎え討とうとフォックスは槍の連続突きを繰り出す。しかし千面道化は軽いフットワークで槍撃を躱し、自身の手の間合いまで距離を詰めた。
千面道化は両手の合成陣を押し付けようと掌底による連打を出す。フォックスは槍の柄で防御したり、避けることで連打を捌き切る。
「ぐっ!」
だが、千面道化の両手に集中し過ぎたフォックスは腹に蹴りを喰らった。怯んだフォックスに向かって千面道化は右拳を振りかぶる。フォックスは千面道化の拳を槍の柄で受けるが、受けきれず、槍は折れ、フォックスの顔面に拳が当たる。
ごきゅ!! と鈍い音が鳴り、
フォックスは大きく吹き飛び、道端のゴミ箱に突っ込んだ。
「僕は融合錬成で多くの人間の記憶、経験を抽出した。中には拳法家や柔道家、剣士や槍士も居たんだよ。例え君の攻撃が僕に効こうとも、例え融合錬成がなくとも、僕の有利は変わらない」
「だっはっはぁ! やっべー。コイツ、マジ強いな。逃げるぞイロハ。武器なきゃさすがに無謀だ」
鼻血を流し、よろけつつもフォックスは立ち上がる。
「いいや、もう大丈夫だよ。フォックス」
ゴオォン! と天より飛来したメイドさんが千面道化の背に膝蹴りをくらわせ、そのまま地面に押し込めた。
「ごはっ!?」
ラビィさんはバク転して、主人の側に戻る。
「お初にお目にかかる。千面道化」
千面道化は血を吐きながらも笑顔で立ち上がる。
「コノハ=シロガネ……こんなすぐに2人目の神樹の守護者に会えるとは。あと5人でコンプリートですよ」
「ラビィ、殺せ」
「承知しました」
ラビィさんは地面に指を突っ込み、巨大な岩塊を持ち上げる。
岩塊を千面道化に向けて投げる。
「さすがはホムンクルス。馬鹿力だね」
千面道化は大きく飛び上がる。近くの一軒家よりも高くだ。
だが、その跳躍が最高点に達した瞬間に、コノハ先生が千面道化に向かって缶詰を投げた。
「これは……!?」
ドオオォン!!!!! という激しい轟音と共に、缶詰が爆発した。
黒煙が空を覆う。
「熱に弱いという情報はヴィヴィより聞いている」
そう言ってコノハ先生はほくそ笑む。
この爆発の規模じゃまず無事じゃないはず。例え生きていても虫の息だろう。
「出てくるぞ!」
フォックスが言う。
黒煙から、影が1つ飛び出す。全員がそれに視線を奪われた。
煙から飛び出してきたのは……右腕、千面道化の右腕だった。
「腕!?」
一瞬の動揺、一瞬の視線誘導。その一瞬の隙に、誰かがすぐ近くに着地した。
俺がその着地した人物を視界に収めたのは、すでにそいつがラビィさんとの距離を20メートルまで詰めた時だった。
「ラビィ! C級以下の武装の使用を許可する!」
コノハ先生が叫ぶ。
ラビィさんは両手の袖から十口に及ぶ銃口を出し、銃弾を千面道化に浴びせた。銃弾は千面道化の喉を撃ち抜き、腹を撃ち抜き、全身に穴を空けるも、千面道化は止まらない。
無防な特攻だ。完全に防御を捨てている。
「まずい……!」
アイツにとってもう致命傷すらどうでもいいんだ。
――融合錬成を使えば、新品の体を用意できる。
「ラビィさん!!」
「頂くよ、君の体」
千面道化の左手が、ラビィさんの顔を掴んだ。
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