第55話 散策
ヴィヴィと別れた俺は居住棟に戻り、男子部屋に入る。
男子部屋はかな~り広い。
フローリングの床に布団が3つ敷いてある。ご丁寧に本棚・クローゼット・机・椅子がそれぞれ人数分ある。大きなソファーもあり、ダーツやビリヤードなどの娯楽品も充実している。
「もうヴィヴィ嬢の用事とやらは済んだのか?」
ジョシュアはソファーでくつろいでいる。
「まぁな」
「お前……抜け駆けはなしだぞ?」
「しないよ。お前こそ、女子と1つ屋根の下だからって無茶するなよ」
「できるかよ。教員が2人も居るんだぞ」
それもそうだな。
「それより、お前居住棟まだ見て周ってないだろ?」
「ああ」
「すげーぞ。面白れぇモンがいっぱいある。案内してやるよ」
最初に案内されたのはリビング。
リビングは以前この研究所へ来た時もチラッと見たが、ちゃんとは見てなかったな。
「まずはこれだ」
ジョシュアは1メートルほどの大きさの金属の箱を指さす。
箱の上部には大きな円と、その大きな円の内に小さな円が描いてあった。丸同士の間隔が広めの二重丸だな。
前面には手形、マナドラフトがあり、マナドラフトのすぐ横にはつまみがある。つまみの周りには何やら絵が描いてある。絵の種類はハンバーガー・ポテト・黒い液体の入ったコップ(コーヒーかな?)・オレンジ色の液体が入ったコップ(オレンジジュース?)・ショートケーキ・プリンだ。
「名付けて“料理錬成器”! まずこのつまみを回して、つまみに引いてある線を欲しい物に合わせる」
ジョシュアはつまみを回し、線をハンバーガーに合わせた。
「そんで、横にある食器棚から飯なら皿・飲み物ならコップを取る。皿は大きな円に、コップなら小さな方の円に合わせて置く」
ジョシュアは皿を大きい方の円に合わせて置いた。
「最後に、マナドラフトに手を合わせる」
ジョシュアがマナドラフトに手を合わせると、一瞬で皿の上にハンバーガーが出来上がった。
「今の一瞬でこのハンバーガーを錬成したのか?」
「食堂でやってた錬金術に似たようなモンだと思う。とにかくこいつを使えば飯には困らない」
「三日三晩ハンバーガーで済ます気かよ」
「オレは別にいけるぜ。はぐっ、んぐ……うめぇ! タダでこれが食えるんだ。最高だね」
まぁ、朝飯ぐらいなら毎日ハンバーガーでもいけるか。
「よし! 次だ次」
次に案内されたのは、水蒸気に満ちた木造の部屋。
「なんだここ……蒸し暑いな」
「サウナって言うんだってよ。この蒸気の熱で体を温める風呂の一種だそうだ。男女兼用だから入る時は水着で入れってさ」
水が無い風呂……錬金術師の世界にはこんなものもあるのか。
「これも凄いぞ」
ジョシュアが次に案内したのは空洞で前面に丸い穴の空いた金属製の箱。箱の上部には筒が搭載されている。
「自動洗濯装置。ラビィさんが言ってたやつだ」
「そういやスルーしてたけど自動洗濯装置ってなんだ?」
「お前、その靴下汚れてる?」
「そりゃ、朝からずっと使ってるからな。森を歩いてるし、土だらけだぞ」
「じゃあその靴下を中に入れてみろ」
靴下を脱ぐ。
土汚れが付いており、全体的に茶色くなっている。
その靴下を洗濯装置とやらに投げ込む。2秒ほど間を置いてポチャンと音がした。
「ん? まさかコレ、底なしか?」
「ああ。この箱の中の床は穴が空いていて、穴は井戸並みに深い。底には多分、水が溜まっている」
箱の穴に顔を突っ込んで下を見る。
冷ややかな風が顔に当たる。底が見えないほど深い穴が空いていた。感覚的には井戸に似てる。
「あの靴下戻ってくるんだろうな?」
「大丈夫大丈夫! まぁ見とけって」
ジョシュアは透明なガラスの蓋で穴を塞いだ。
蓋にはマナドラフトがある。
ジョシュアがマナドラフトに手を当てると、筒からポン! と真っ白な靴下一組がシャボン玉に包まれて落ちてきた。
シャボン玉を割り、靴下をキャッチする。
水気はない。汚れも一切残ってない。新品同様の靴下だ。色も純白、キレイだ。
鼻を近づけて香りも嗅ぐ。……うん、ラベンダーのような甘い香りだ。
「手洗いで洗濯する必要がないのか。これはマジで便利だな」
「すげー快適だぜココ。俺の家より圧倒的に住みやすい。家主があんなじゃなきゃ居候したいぐらいだね」
「一字一句違わず同感だな」
ジョシュアが紹介したかった設備はこれで最後のようだ。
ジョシュアと一緒に部屋に戻る途中、
「イロハ様」
男子部屋の前に立っているラビィさんに呼び止められた。
「ご主人様がお呼びです。第一錬成室においでください」
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