第54話 ロスト・マナ
〈四季森〉。
前回はここを通るために苦戦を強いらえた。だけど今回はアラン先生が居る。
アラン先生は俺たちが苦戦した魔物たちをあっさりと倒していった。
まずユニウルフ。
襲い掛かってきたユニウルフの首をアラン先生は鷲掴みにし、そのまま握りつぶした。
次にトレント。
アラン先生は軽やかに枝や根の攻撃を躱し、最後は鋼の腕を飛ばし、トレントの体を貫いた。
新しく見た魔物たちもアラン先生の鋼腕を前にあえなく散っていく。
「これ、俺たちが防衛に居る意味あるか?」
そうジョシュアが愚痴るのもわかる。
それほどに、アラン=フォーマックの戦闘力は異常だった。
「さぁ、着いたよ」
アラン先生が先導し、コノハ研究所へ到着する。
「お待ちしておりました」
と玄関で出迎えてくれたのはラビィさんだ。
「まずこの研究所のルールを説明いたします。外観を見てわかる通り、この研究所は三つの施設で構成されております。1つはここ、居住棟。ここから東にある別棟が研究棟、西にある建物が保管棟となります。この内、研究棟と保管棟への出入りは全面的に禁止いたします。禁を破った場合は最悪死んでもらう場合もありますので、お気をつけください」
おっかないな……。
「ではお入りください」
居住棟へ入る。
「ここ右手側にある大部屋にアラン様、イロハ様、ジョシュア様は寝泊まりしてください。左手側にある大部屋にヴィヴィ様、フラム様は泊まっていただきます。就寝時は私がヴィヴィ様の護衛をいたします」
「うん。それなら安心だ」
「冷蔵庫にある食料は自由に使ってください。お風呂や自動洗濯装置も自由に使って大丈夫です」
冷蔵庫? 洗濯装置? どっちも初耳だな。
「コノハはどこに?」
「ご主人様はリビングを抜けた先、第一錬成室の隣の書庫にいらっしゃいます。基本的にご主人様は第一錬成室か書庫にいます。最後に、ご主人様よりヴィヴィ様以外の方々も外で行動する際は必ず、常に2人以上で行動するようにとのことです」
2人行動は千面道化対策だな。
単独行動中に融合錬成をくらった場合、俺以外の人間じゃそいつが千面道化かどうか見破る術はない。俺が融合錬成をくらった場合は最悪だな。
だが2人行動ならその辺の事態は防げる。
「ご主人様に用がある際は私を通してください。ご主人様が研究所へいる間は、私は女子部屋で待機しています」
説明を終えたラビィさんは女子部屋に入る。それに追随するようにフラムも女子部屋に入るが、ヴィヴィはなぜか部屋に入ろうとしない。
「ヴィヴィちゃん、どうしたの? 入らないの?」
「ちょっとイロハ君と2人で話があるの。アラン先生、少しだけ外で彼と2人になってもいいですか?」
「手短にね」
何の用だろうか。
とりあえずヴィヴィについて外に出る。
「どうした? わざわざ2人になるってことは、お前の過去に関係した話か? それとも賢者の石関連か?」
「後者よ。イロハ君、アゲハさんの手記にあった2つ目の錬成物を覚えてるかしら?」
「えーっと、たしか……“錬絶のナイフ”だったか?」
「そう。錬絶のナイフ、アレの素材の1つに融合のマナがあるのよ」
「融合のマナ? そういや、千面道化が『僕の融合のマナ』とかなんとか言ってたな」
「ええ、彼は融合のマナを持っている。フラムさんの爆創のマナと同じで、融合のマナは天異魔財に分類されるマナよ」
「天異魔財ってのも千面道化が口にしてたな。さっぱり意味はわからなかったが」
「みんなそれぞれマナには特徴がある。鉱物の錬成に有用なマナ、植物の錬成に有用なマナ、逆にそれらの錬成が苦手なマナだったりね。天異魔財は特に尖った特徴を持つマナのことを言うわ。天異魔財に目覚めるのは100人に1人といった確率。融合のマナは天異魔財の中でもかなり希少で、恐らく1000万人に1人か、それ以上の希少さよ。千面道化はそのマナを持っている。このチャンスを逃す手は無いわ」
「奴から融合のマナを奪うってことか。でも、どうやって?」
「毛や爪に至るまでマナは宿る」
「じゃあ奴の髪の毛とか奪えばいいってわけか」
「でも髪の毛程度に宿るマナじゃ足りないわね」
ヴィヴィはストレージポーチから注射器を出した。
「血液50mlがノルマよ。この注射器なら1瞬刺すだけで抜き取れる」
「千面道化の肌にこれが刺さればいいけどな」
「傷口を狙うしかないわね」
「……難易度たけぇ」
「無理にとは言わない……自分の身を最善で考えて。この際、ハッキリと言うわ」
ヴィヴィは不安そうな顔をする。
「もしも、もしもあなたが千面道化に殺されたら……私の心は完全に壊れる」
ヴィヴィにしては珍しい、素直な弱音だった。
「私にとってあなたは、もうそれだけの存在ということよ。
――自覚して」
……千面道化、奴はグランデ伯爵が造ったキメラ。
ならば、その製造過程にヴィヴィが幼少期に開発した技術が使われている。
だから千面道化が誰かを傷つける度、ヴィヴィは責任を感じてしまうのだ。
――不公平だと思う。
本来、アイツらが抱かなきゃいけない罪悪感をヴィヴィが代わりに受けるなんて間違ってる。間違ってるだろ。
もしも奴が俺を殺したなら、ヴィヴィは罪悪感に押しつぶされる。今の言葉に嘘はないだろう。
ヴィヴィの心を守るためにも、俺はいち早く、千面道化を排除しないといけない。
「わかった。無理はしない」
そう笑顔で嘯いた。
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