第53話 禁忌の報酬
「ちょっと待った!」
「その判断は理解に苦しみますな!」
俺とコノハ先生はほぼ同時に異議の声を出した。
「「この男と組むなんてごめんです!」」
コノハ先生と声が重なる。
めちゃくちゃ不快だ。
「変装を見破れるイロハと、ホムンクルスによる人海戦術で人探しのできるコノハ先生、探索という分野でこれほどまでに素晴らしい組み合わせはないと思うがね」
「……脳みそついてるのかこのカボチャ頭は」
「……ふん、奴の頭には炭水化物とカロテンしか入ってないさ」
「悪口バンバン聞こえてるぞ~、君たち」
「まぁいいか。班と言っても、別に共に行動する縛りはないはずだ」
コノハ先生はあくまで俺と別行動をとるつもりだな。
「貴殿の言う通り強制はできない。しかし、これから吾輩がする話を聞いたならばコノハ先生は必ずイロハを利用するはずだ」
「ほう、面白い。では聞かせて頂きましょうか、そのとっておきの話とやらを」
「千面道化を逮捕・撃退・殺害、いずれかを達成した場合、〈オーロラファクトリー〉には3番通りの土地を土地代なしで借用しよう。コノハ先生には我が校が保有する禁書の一冊を貸し出すことを約束する」
「マジか!」
「つまりタダで場所を取れるってことでしょ!?」
「悪い話じゃないわね」
「だな。3番通りなら客足も期待できる」
ジョシュア、フラム、ヴィヴィ、俺が順々に声を上げる。
コノハ先生は口元を手で隠し、こめかみに汗を這わせる。
「……それはつまり、“ニコラスの魂性理論”や“パラケルススの人体法羅”、それに……アゲハ=シロガネ著書の“禁忌の目次”も対象ということですか?」
爺さんの本だと?
「うむ」
「くくくっ……なるほど。これは良い話だ」
「ちなみに期間は2週間だ。アラン先生の報酬は……なにがいいかね?」
「王都の義肢展覧会への出展資格をファクトリーに頂けたら幸いです」
「わかった、それでいこう。では諸君、話は以上だ。退出したまえ」
失礼しました。と全員が校長室を出る。
「拠点はどこにする?」
コノハ先生がアラン先生に聞く。
「君の研究所はダメかな? 〈四季森〉なら僕も最大火力で戦えるんだけど」
「そうだな。あそこならラビィも全開で戦える。拠点にするのは構わないが、勝手に俺の研究棟や保管棟を覗いたら殺すからな」
「はいはい。あとコノハさ、ずっと気になってたんだけど、校長先生に会う時ぐらいネクタイは着けなよ! マナーでしょ」
コノハ先生はワイシャツに白衣という格好だが、ネクタイは付けず、ワイシャツは着崩している。
「ネクタイとは、防寒性能も防御性能も低く、ただ首を圧迫する上に装備するのに時間がかかる人類最低の発明品のことか?」
さすがコノハ先生だ。捻くれ全開のセリフだぜ。
「そういうところ、学生の時からホント変わらないよね」
「お前も口うるさいところは治らんな」
「へぇ~、アラン先生とコノハ先生は学生時代からの友人なんですね」
フラムが発言した。
「そうだよ。他にはレインも僕らの同級生だ」
レイン副校長も……確かに、外見年齢で言えば同じくらいか。
「そうだ、レインの奴はなにをしている? 武力で言えばアイツが一番だろう」
「彼女はこういう時ユグドラシルの防衛に回されるからね、今回もそうでしょ」
「ちっ。ならばヴィヴィをユグドラシルに入れて、ヴィヴィとユグドラシルの両方をアイツに守らせればいい。そうすれば探索に人数を割ける」
よっぽど俺と2人になるのが嫌みたいだな。
「ユグドラシルの中は強力な魔物もいっぱいいるし、守る対象が2つもあるとレインでもキツイんじゃないかな。融合錬成は必殺だ、レインだって千面道化相手だと確実に勝てるとは言えない」
「そういえば、融合錬成ってどういう錬金術なんですか? 2つの肉体を1つにする錬金術っていうのはわかりましたけど、発動条件とかよくわからないんですけど」
俺の質問にアラン先生が答える。
「千面道化の手に合成陣があったでしょ? あの合成陣に触れた生物と千面道化自身を分解し混ぜ合わせ、ガワを対象に、中身を千面道化にしているんだと思うよ」
「でもアラン先生は千面道化に触れられても無事でしたよね?」
「奴が触れた部位が義肢だったからね。融合錬成は生物だけが対象、義肢じゃ反応しない」
「融合錬成で厄介なのは対象の記憶も抽出できるところだな。ウツロギさんが吸収されたことで、〈ランティス〉の地理や三級以下機密事項は奴に知られていることだろう」
コノハ先生が補足する。
相手の記憶も奪えるのか。
それであそこまで自然にウツロギ先生の演技をできていたんだな。
「俺は今夜までに必要な物を準備し、拠点も整備しておく。全員、着替えや日用品を持って18時から19時の間に俺の研究所に集合しろ。今日から千面道化を殺すまで、俺の研究所で暮らしてもらう」
そう言い残してコノハ先生は階段を下っていった。
「君たちは教室に戻って、三時間目の授業を受けなさい。もう昼休みが終わる」
「うげ、通常通り授業を進行するのかよ。教室ぶっ壊れてるのに」
「ここは錬金術師の学校だよ? もう教室は直ってるよ。あと、今は非常事態だから多分自習だろうね」
アラン先生とも別れる。
教室に戻る。
アラン先生の言う通り、完璧に教室は修繕されていた。
それから三時間目が始まるが……、
「申し訳ありませんが三時間目の錬金術歴史学は自習とします」
歳のいった老婆先生はそう告げると教室を出ていった。忙しそうな足取りだった。千面道化のせいで学校全体がどこかせわしない。
三時間目、ホームルームが過ぎ、放課後。
アラン先生が近づいてくる。
「それじゃみんな、家に荷物を取りに行こうか」
「アラン先生は荷物の準備終わったんですか?」
俺が聞く。
「うん。僕は三時間目受け持ちがなかったから、その間に家に着替えとかは取りに行けた。ヴィヴィちゃん、悪いけど今日から暫くは僕と一緒に行動してもらうよ」
「わかりました。アラン先生が護衛についてくれるのなら安心です」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
俺たちはアラン先生と共に11番通りに行き、各々荷物をまとめた後、全員で〈四季森〉に入った。
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