第52話 最強チーム結成?
千面道化がジョシュアをぶっ飛ばした時に、クラスメイトの半数以上が教室から外に出た。
ゆえに侵入者が千面道化と名乗った時、その場にいた生徒の数は13人。その13人をアラン先生は空き教室に呼び出した。
「悪いけど、千面道化については他言禁止でお願いね」
アラン先生の顔は深刻そのものだ。
「なぜでしょうか? 学校全体……いや、この街全体に知らせ、警戒を強化するべきです」
とヴィヴィが言う。
もっともな意見だが、アラン先生の判断の意図もわかる。
「誰にでも化けられる相手だよ? 情報を共有すれば街全体が疑心暗鬼に陥るのは容易に想像できる。その結果、住民が住民を疑い殺す、魔女狩りのような事態に発展してもおかしくない」
「そうだな。アイツならそう誘導することも容易だろう」
ジョシュアがアラン先生の意見に乗る。
「実際、〈ハルゲンド〉という街でそういう事件があったはずだ」
「ジョシュア君、詳しいね」
「一般常識の範疇だよ」
一般常識、ね。
俺は千面道化という名前すらはじめて聞いたけどな。
「校長はこれから少数精鋭のチームを編成し、千面道化の後を追うようだ。校長に任せておけば千面道化が捕まるのも時間の問題だよ」
そう言ってアラン先生はニコッと笑った。
張り詰めた空気がアラン先生の笑顔のおかげで少しだけほぐれた。
「今回の騒動については表向きは千面道化のことを隠し、『ウツロギ先生が誤って錯乱作用のある薬物を飲み、暴走した』……ということにする。誰かになにを聞かれてもそう辻褄を合わせてほしい」
ちょっとウツロギ先生が可哀そうだが、仕方ないか。
「……本物のウツロギ先生は、どうなったのでしょうか?」
ヴィヴィが不安そうな顔で問う。
アラン先生は無言で首を横に振った。
「融合錬成は2つの肉体を合わせ、1つにする。だが魂は片方しか残らないのが原則だ」
つまり、ウツロギ先生の魂は死んだということだ。
ヴィヴィは……俯いた。
わかる。わかるよヴィヴィ……お前の考えていることは。慰めの言葉を言ってやりたいが、それが余計にお前を追い詰めることもわかっている。
千面道化……早めに排除しないと、ヴィヴィの心がもたないな。
「うわ!」
フラムが声を荒げる。
「な、なにアレ……コウモリの羽が生えた、カボチャ?」
まさしくフラムの言葉通り。
教室に羽の生えたカボチャが飛んできた。
「大丈夫。これはジャック校長の伝令機、ヴァンプ・ジャックだ」
伝令機? 伝書バトみたいなものかな。
〔緊急指令! 緊急指令!〕
伝令機は高い声で騒ぎ出す。
〔〈オーロラファクトリー〉全員集合! 〈オーロラファクトリー〉全員集合! アラン=フォーマックと一緒に至急校長室までいらっしゃ~い!〕
俺、ヴィヴィ、フラム、ジョシュアは顔を合わせる。
このタイミングでなんで〈オーロラファクトリー〉を集めるのか、全然意味がわからん。
それはアラン先生も同じで戸惑っている。
「……とりあえず行ってみるしかないね」
俺たち〈オーロラファクトリー〉とアラン先生という面子で校舎の最上階にある校長室を目指す。
「校長室か~、入るの初めてだぜ」
「私も私も! っていうか入った事ある人の方が珍しいでしょ」
「現代最高の錬金術師の部屋、楽しみね」
「別に特別なモンはなかったぞ。ただ派手な装飾がしてあっただけだ」
「あら? イロハ君、校長室に入ったことあるの?」
「まぁな」
「おしゃべりはそこまで。着いたよ」
豪華絢爛な大扉の前で俺たちは立ち止まる。
「ジャック校長! アラン=フォーマックです! ただいま参りました!」
アラン先生が叫び気味に言うと、大扉がひとりでにゴゴゴゴと開きだした。
久しぶりの校長室を目で捉える。
うん、以前見た時と変わらない。宝石などの高級品が惜しみなく使われた部屋だ。ジャック校長は玉座でふんぞり返っている。
……以前と違うのは、真っ暗な眼をした男がいることぐらいだな。
「コノハ?」
アラン先生がその名を口にする。
コノハ=シロガネ。〈オーロラファクトリー〉顧問の姿がそこにはあった。コノハ先生は俺たちを見つけると、小さく舌打ちした。奴の影にはラビィさんも居る。
「そっかぁ……〈オーロラファクトリー〉全員集合って言ってたもんね」
フラムの言葉で俺も気づく。
そういえば、アイツも一応〈オーロラファクトリー〉のメンバーだったな……。
「入りたまえ」
ジャック校長の言葉を受け、俺たちはアラン先生を筆頭に部屋に入る。
全員が部屋の中に入ると扉はひとりでに閉じた。
「貴殿らを呼んだのは他でもない、例の千面道化の件について、頼みたいことがあるのだ」
俺たちは一列に並ぶ。
「貴殿ら〈オーロラファクトリー〉とアラン先生で千面道化対策部隊を編成する」
「な、なんですって……!」
真っ先に否定の声を上げたのはアラン先生だ。
「コノハと僕はわかります! でも生徒をこの件に関わらせるのは反対です!」
「同感ですね。俺とアランの2人で事足りる問題です」
「本当にそうかね?」
ジャック校長はチラッと俺の方を見て、またすぐに先生方に視線を寄せた。
「貴殿ら2人に千面道化の変装を見破る手段はないだろう」
「まさか……イロハ君の眼を利用する気ですか?」
「その通り」
「そんな! 危険すぎます!!」
「……俺は構いませんよ」
話に割り込み、発言する。
「俺なら奴の変装は一目でわかる。俺以外に奴の変装を見破る手立てがないのなら、力を貸します」
「イロハ君! 危険よ!」
ヴィヴィが制止してくる。
「……これ以上、被害を大きくするわけにはいかない。そうだろ? ヴィヴィ」
「――っ!? あなたは……」
「ここはやらせてくれ」
ヴィヴィは俺の目をまっすぐと見つめ、「わかったわ」と観念したように目を伏せた。
「協力感謝する、イロハよ。では話を次に進めよう。千面道化、奴の言動を聞く限り、奴は『母さん』とやらを攫いに来たようだ。その『母さん』とは恐らくヴィヴィ、貴殿だろう」
「……私もそうだと思います」
「ゆえに、今回は千面道化を探し出す『探索班』と、ヴィヴィを守る『防衛班』で班分けし、行動してもらう。防衛班はアラン先生をリーダーに、フラム、ジョシュア、そしてヴィヴィの4名で編成する」
ちょ……っと待て。
防衛班がその4人なら、探索班は必然的に――
「探索班はコノハ先生とイロハ、貴殿ら2人に任せる。無論、リーダーはコノハ先生だ」
【作者からのお願い】
ここまで読んでいただきありがとうございました!
今後の作品の発展のためにも、ページ下部の星を【☆☆☆☆☆】から【★★★★★】にしてくださると嬉しいです。
低評価もきちんと受け入れますので【★☆☆☆☆】でも押してくださると今後の参考になります。
現時点の評価で構わないのでよろしくお願いします。




