第49話 フォックス&ベルモンド
月曜一時間目“戦闘訓練”。
休み明け一発目の授業は木剣、木槍、木斧などを使った手合わせだった。
錬金術師は生産をメインとする職業、ゆえに戦闘能力なんて必要ないかと思うかもしれない。しかし、この一週間で起きた出来事を振り返るに、採取のためには危険な場所へ出向くこともある。魔物の素材が必要ならば魔物を狩らないといけない。錬金術師に戦闘能力は必要だ。
担当教員は入学式で司会をやっていたレイン=シルヴィー副校長だ。紺色のロングヘアーで、上半身には軍服のようなものを羽織り、下には短めのタイトスカートを履いている。誰から見ても美人だが目つきが刺々しくて怖い。
授業の場所は学校近くの砂浜だ。全員裸足である。
「こちらで指定した3人でグループを作ってもらう。今後この戦闘訓練の授業ではその3人で固まって行動してもらうからな。まずAグループ。アルル=カートラス、チドリ=アヤナギ、ミンミン=シンパルン」
レイン先生は次々と名前を呼んでいく。組み合わせの傾向を見るに、性別でグループは分けているようだ。男女混合グループはない。
ラタトスク組は30人。男子15人、女子15人で均等に分かれている。3人組なら余りは出ない。
ちなみに俺がこのクラスで認知している人物は30人中たったの5人。ヴィヴィ、フラム、ジョシュアと図書館で会ったルナとフーカの双子姉妹。男子の知り合いに至ってはジョシュアだけという始末……ゆえに訪れるピンチ。
「Eグループ、イロハ=シロガネ、フォックス=クレシェント、ベルモンド=バーテクス」
フォックス? ベルモンド? どっちも初耳だ。
名を呼ばれた人間は立ち上がる。俺と同時に立ち上がった2人、こいつらが同じグループの人間だろう。
フラムにも言ったが基本人見知りだからな。こっちから話しかけるのは難易度が高――
「よっ! 調子はどうだい? イロハ=シロガネ」
と、キツネ色の髪の男が意気揚々と話しかけてきた。
「俺がフォックスだ! よろしくな!」
「おう。よろしく」
初対面の印象は男版フラムって感じだな。元気いっぱいだ。
髪はキツネ色のポニーテール。顔にはそばかすがある。身長は低めだけど細マッチョである。
「イロハってアゲハさんの息子なんだろ? ってことは、めっちゃ強いってことじゃん。手合わせしてみたかったんだよな~」
「俺はアゲハの息子じゃなくて養子だよ。期待外れで申し訳ないが、戦闘能力は皆無だ」
「え!? そうなの!? んだよ、ガッカリだな~」
正直な奴だな。
普通そういう言葉は心の中に抑え込むもんだが。
「すまないな。そいつは良くも悪くも裏表がない」
眼鏡の黒髪の男がフォローしてきた。
こっちは高身長だが、細身だ。
「僕はベルモンド。フォックスとは幼馴染でね、まぁなんだ……こいつは戦闘狂でな、強い奴と戦いたい気持ちが特に強いんだ」
「なんでそんな奴が錬金術師の学校に?」
「錬金術師ってつえぇ奴がいっぱいいるんだよ。アゲハさんだって凄腕の剣士だったって聞くぜ」
そういえば街の不良とか一方的にボコってたなぁ、あの人。
「さて、全員グループで固まったな。それでは1人は審判をして、残りの2人で一打必殺の仕合をしろ。仕合で負けた者が審判役に回れ」
というレイン副校長の指示を受け、まずフォックスとベルモンドが仕合、俺が審判を務める。
「悪い。一打必殺の仕合ってどういうルールだ?」
「相手に一撃を与えた方が勝ちの仕合だよ。腕だろうが足だろうが武器が当たった時点で仕合終了だ」
「ほら! 早く始めようぜベルモンド!」
「やれやれ……こいつに勝てるわけがなかろうに」
嫌々ながらベルモンドは木剣を握る。フォックスは木槍を手にしている。
「そんじゃ、はじめ」
言った瞬間、フォックスの槍がベルモンドの腹を打ち抜いた。
「ごふぁ!!?」
ベルモンドはそのまま流星の如く10メートルほどぶっ飛んだ。
「しししっ! 俺の勝ち!」
「べ、ベルモンド! 大丈夫か!?」
砂に伏すベルモンドに近寄り、肩をさする。
「……いま、吹っ飛んでいる途中で、レイン副校長のパンティが見えた」
ベルモンドは震える指でレイン副校長の方を指さす。
レイン副校長は短めのタイトスカートを履いているから、下から覗き込めば確かにパンツは見えるだろう。
「間違いなく、レースの白だった……ふっ、我が人生に悔いはない」
カクン。とベルモンドは気を失った。
「安い人生だな……」
「あの刹那にパンツを見るなんて、さすがのスケベ根性だぜベルモンド」
こんな知的そうな見た目してスケベキャラかよコイツ。
ベルモンドがリタイアしたため、残りの時間俺とフォックスは見学となった。
◇◆◇
二時間目は二度目の植物錬金学だ。
「イロハ。お前、ヴィヴィ嬢の宿題やってきたか?」
隣の席のジョシュアが聞いてくる。
宿題とは『商品を2つ考えろ』というヴィヴィの指示のことだろう。
「ああ、考えてある。お前は?」
「ふふふ……ちゃんと考えてあるぜ。男性客を大幅に増やすであろう、最高の商品をな!」
不気味な笑顔を浮かべるジョシュア。ベルモンドの姿が重なる……ロクなモンじゃないだろうな。
ガタ。と扉が開かれ、植物錬金学の先生――ウツロギ先生が入ってくる。
「皆さん、静粛に。授業を始めますよ」
「――っ!!?」
俺はウツロギ先生の姿を見て、声を出さずに驚いた。
嘘だろ……どういうことだ?
動揺を悟られないようポーカーフェイスを維持しながら、俺はジョシュアの足を軽く蹴る。
「あん? どうしたイロハ」
教科書で口を隠し、
「……ジョシュア。小さい声で話してくれ。緊急事態だ」
俺の態度からただならぬ雰囲気を察して、ジョシュアは声色を落とす。
「……どうした?」
「……お前、今日武器は持ってるか?」
「……ハルバードは家だけど、ナイフは制服の下に仕込んである」
俺もクリスタルエッジは家だ。今は虹の筆しかない。
「……ジョシュア、よく聞いてくれ」
視線をウツロギ先生――否、謎の侵入者に固定したまま、俺は告げる。
「アレはウツロギ先生じゃない」
【作者からのお願い】
ここまで読んでいただきありがとうございました!
今後の作品の発展のためにも、ページ下部の星を【☆☆☆☆☆】から【★★★★★】にしてくださると嬉しいです。
低評価もきちんと受け入れますので【★☆☆☆☆】でも押してくださると今後の参考になります。
現時点の評価で構わないのでよろしくお願いします。




