第48話 千面道化
深い深い地下深く。
そこにキメラ達が住む都市があった。
地下都市〈ダストフォール〉。
頭が猫の人型生物が、翼の生えた蛇が、メドゥーサ、ドラゴンといった怪物が混在する。
都市の中心にある城〈ティアバンク〉の謁見の間にて、その男は玉座に座っていた。
銀色の髪の男……アルヴィ=ロス=グランデ。又の名をグランデ伯爵。
謁見の間に、1人の男が入ってくる。温和そうな20歳ほどの男だ。
「グランデ伯爵。ただいま戻りました」
「来たか。千面道化よ」
千面道化と呼ばれた男は1人の男を抱えている。
口と手足を縛られたその男は〈ランティス錬金学校〉の教員の1人――ウツロギ=グリーンペイ。イロハが所属するラタトスク組の植物錬金学担当の教師である。
「その者は誰だ?」
「母さんのクラスの植物錬金学担当の教員です。〈ランティス〉郊外で植物採取をしているところを見つけたので、サクッと攫ってきました」
「ふむ、その者の面を借りるのか」
「はい」
千面道化は右手に描いた合成陣をウツロギの顔に当てる。瞬間、白い炎がウツロギと千面道化を燃やしだした。
「んーっ! んーっ!?」
ウツロギは取り乱すが、右手からは逃れられない。
「心配はいりませんよ、ウツロギさん。僕とあなたはこれから溶け合うです。溶けて解けて融けて……一緒になるんですよ。悲しいことじゃありません。あなたは僕の胎で生き続ける」
千面道化とウツロギは白い焔と化し、混ざり合う。
白い炎は結集し――ウツロギの肉体となった。
「ふーっ。この人の体重いですねー。運動不足だなぁ」
肉体はウツロギだ。だが、中身は違う。
「融合錬成。合成陣で触れた相手の体と自らの体を分解し、自らの肉体と相手の肉体を練り合わせ、再構築する必殺の錬金術……これほど複雑な錬金術を一瞬で成すとは、さすがは我が四大傑作の1人だな」
「今さら褒められてもうれしくないですよ。伯爵」
「その姿ならば、〈ランティス〉に忍び込めるだろう」
「ええ。僕の変装がバレたことはありません。というか、変装と言うより変身? 変体? 合体? まぁなんでもいいか」
「では頼んだぞ、千面道化よ。我が娘をここへ連れてこい。来たる混沌のために……」
「わかってますよ。僕も母さんに会うのは楽しみです」
「くれぐれも油断はするな。〈ランティス〉は才能の宝庫、お前の正体を見破れる者も居るかもしれない」
「だから大丈夫ですって。この体はウツロギそのものですから。それに記憶中枢も取り込んでいるので、この男の記憶もちゃんとあります。演技も完璧にこなせますよ」
「ふっ、そうだったな」
ウツロギの器を得た千面道化は部屋を出て行く。
1人部屋に残されたグランデ伯爵は窓から空を見上げる。
地下都市〈ダストフォール〉の天井には鎖に繋がれた巨大な卵がある。卵の亀裂から発せられる紫の光が〈ダストフォール〉を照らしている。この卵がこの地下都市において太陽の役割を担っているのだ。
グランデ伯爵はその漆黒の卵を見て、口角を上げる。
「ヴィヴィ……お前ならば必ず、あの卵を孵化させることができる」
グランデ伯爵は卵に手を伸ばす。
「錬金術師などという悪鬼はびこるこの世界、〈アルケー〉を……否、〈ユグドラシル〉を滅ぼす破壊竜、ニーズヘッグの卵を……お前ならば、私の最高傑作であるお前ならば! ――必ず!!」
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