第47話 ハウスファクトリー
月と違って〈アルケー〉の曜日は外の世界と同じだ。
月・火・水・木・金・土・日。土曜と日曜は授業は休みである。
今日は土曜日。休日だ。
待ち合わせ場所である1番通りジャック像(カボチャ校長の銅像)の元へ向かう。
すでに銅像の前には私服姿のヴィヴィとフラムが待っていた。銅像の前に行きたいが……躊躇われる。
ヴィヴィもフラムも今日はミニスカートで、上半身も薄着だ。ヴィヴィは太ももまであるニーソックスを着用し、露出を抑えているがフラムは生足を晒している。
周囲の目線が2人に集中し、ナンパ予備軍が大量にできている。どいつもこいつも髪を整え、誰からナンパに行くかアイコンタクトしている。
ヴィヴィは犯罪者の父を持つため、基本的に〈アルケー〉では嫌われているはずだが……あの見た目だからな。そんな経歴を差し引いても目を引き付ける魅力がある。
あんなところにこの冴えない男代表の俺が突っ込むのか。せめてジョシュアがいれば迷いなく突っ込めるのだが。ジョシュアが来るまで待とうかな、と考えたところで、
「あ、イロハだ! おーい!」
フラムに見つかった。
仕方なく銅像の前に行く。舌打ちの雨が降り注いでくる……。
「おっはよー! 今日も鉄みたいに冷たい眼をしてるねっ!」
「初っ端から酷くないか?」
どうもこの前の打ち上げの買い物あたりから、フラムが毒舌を隠さなくなってきた気がする。
「おはようございます、団長」
「私より遅く到着するなんて部下失格ね」
「集合時間の10分前だから妥当なタイムだろ。それとお前の部下になったつもりはない」
そして集合時間より遅れること10分。
「おーっす。お待たせ~」
「もー、遅いよジョシュア!」
「……ジョシュア君、時間は厳守でお願い」
可愛らしく頬を膨らませて怒るフラムと、冷たく鋭い目つきで怒るヴィヴィ。
「朝は弱くてな~。ヴィヴィ嬢かフラム嬢が起こしに来てくれりゃ、遅刻することもないんだぜ」
「わかったわ。次からはイロハ君に起こし役を担ってもらう」
「オッケー。そん時はフラム、爆弾を貸してくれるか?」
「おいコラ、どんな方法で起こす気だよ!」
何はともあれ全員が揃ったので不動産屋もとい〈ハウスファクトリー〉に行く。
〈ハウスファクトリー〉は家具の売買から土地の管理、建設等々多岐に渡って活動するファクトリーだ。その本部は1番通りに大きく陣取っている。〈ハウスファクトリー〉の本部は自分たちの建設技術をアピールするかのような壮大で芸術的な神殿だ。
〈ハウスファクトリー〉本部の中に入ると、窓口が20個程あった。
俺達は空いている窓口に行き、用意された椅子に座る。
「いらっしゃいませ。こちらでは土地に関しての相談を承ります」
女子生徒が応対する。
制服のサブカラーが黄色……二年生か。最近知ったが、サブカラーが黒だと四年生、青だと三年生、黄色だと二年生、赤だと一年生らしい。
「私たちのファクトリーで新しく店を出すのですが、どこか都合の良い場所は空いていませんか?」
「そうですね……まず予算はいくらほどですか?」
「予算? 土地を借りるのにお金が必要なのですか?」
「住居と違い、ファクトリーで店を出す場合は月ごとに土地代を回収しています。基本1番通りから順に土地代は高く、番号が大きい通りの土地ほど安くなります。これは通りの番号が大きくなるほど人通りが少なくなるためです」
「1番通りでいくらぐらいですか?」
「月300万ゴルドです」
「300万!?」
この学校に来た際に配られた金が10万ゴルドだったか。
最悪赤字になることも考えると、絶対無理だな。
「実際、店を開いたら月にどれぐらい稼げるんだろうね?」
「今の状態じゃちょっと読めないわね。黒字になるかもわからない」
ヴィヴィの言う通りだ。
俺たちは経営に関して完全な素人。初っ端から大きく黒字を出せるとは思えない。
こういう時、普通なら顧問の先生が一時的に金を出してくれたり、ある程度の見積もりを計算してくれると思うのだが……コノハ先生にそれは期待できない。
「そういや、ファクトリーには学校から運営費や研究費が支給されるはずだろ? それはいくらぐらいなんだ?」
アラン先生の話を聞くに、そこまでの額は期待できないだろうが……、
「アラン先生に聞いたけれど、基本的に支給金はそのファクトリーの成績に依存するそうよ。何の実績もない場合は団員1人につき1万ゴルド」
「4人で4万ゴルドか。全然だな」
「ええ。なんにせよ、月300万ゴルドはリスクが大きすぎるわ」
「でもよ、あまりケチると客が全然いない場所に店を開くことになるぜ。1番通りと9番通りじゃ人の数じゃ10倍近く違うからな」
ジョシュアの発言は正しい。
1番通りから9番通りが商業地区なのだが、7番通りから9番通りはあまり活気がない。せめて6番通りが最低ライン。
「5番通りだとどれくらいの値段ですか?」
ヴィヴィが聞く。
「大体月に100万ゴルドというところでしょうか」
それでも100万ゴルドか。高いな……。
「ちなみに9番通りだと?」
俺が聞く。
「25万ゴルドですね」
9番通りなら金銭的には余裕だな。
「わかりました。一度持ち帰って話し合います。対応ありがとうございました」
ヴィヴィが会釈する。
「いえいえ、またのご来店をお待ちしております」
俺よりたった1つしか年上じゃないのに、大人顔負けの応対だな。
〈ハウスファクトリー〉を出て、近くの喫茶店で会議を開く。
「どうすんだ? 9番通りなら余裕だろうけど、客足は少ない。先は短いぜ」
ジョシュアが言う。
「欲を言えば1番通りだけど……月300万ゴルドは高すぎるわ。5番通りがギリギリのところね。オーロラフルーツの種が樹に育って、どれぐらいの実ができるかを見てから判断した方がよさそう」
「ヴィヴィの家の庭で育ててるんだったな。あとどれぐらいで実はできそうだ?」
「オーロラフルーツの樹の成長は早い。恐らく実を成すのは花蝶の月50日ぐらい」
早すぎるだろ。
まぁ、錬金術師の世界の樹木だ。俺の常識で考えるだけ無駄か。
「そういえば、開店の日ってもう決めてあるの?」
「来月の頭、水魚の月1日に開くつもり」
それまでに土地を押さえないといけないわけか。
いや内装や外装を整理する時間も欲しいから、一週間は猶予が欲しいか。例え錬金術でパパッと色々作れるにしてもな。
「今日のところは解散にするわ。それと、この土日で商品案を1人2つずつ考えてきて」
「ファクトリーで出す商品ってことだよな?」
「そうよ。オーロラフルーツ関連の商品だけじゃ品数が少なすぎる。オーロラフルーツは看板商品だけど、その売り上げだけじゃたかが知れてる。なにかプラスアルファが必要よ」
仰る通り。
しかしここが難しい所だよな……コノハ先生が言っていたように、食材にせよ雑貨にせよ、すでにそれぞれの分野の専門店があるからな。
「では、ここで解散とします。お疲れ様」
すっかり団長として仕切り役が板についてきたヴィヴィであった。
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