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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 色彩能力者と千面道化

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第45話 授業開始!

 花蝶の月38日。俺の国の日付で言うなら4月8日。

 正直、この国へ来てからもう一か月ぐらいは()っている気分だが、まだ一週間しか経っていないのだから驚きだ。それだけ濃密な一週間だった。


 今日から本格的に授業が始まる。


 昨日の夜、教科書をまだ買っていないことを思い出し、パーティーを抜け出して慌てて〈ブックファクトリー〉で『キメラ図鑑』やら『鉱物錬金学Ⅰ』やらわけのわからない本を買い集めた。教科書についてはヴィヴィの責任もある。アイツが教科書リストを俺に渡し損ねていたのだ。その点について責めても『色々あって忘れていたのだからしょうがないでしょ!』と逆ギレしてくるのだから腹が立つ。


 教科書をストレージポーチに詰め込んで準備完了。空は快晴、春の風が通り抜ける11番通りを軽い足取りで歩いていく。ただの勉強は好きではないが、錬金術の勉強なら別腹というものだ。正直、楽しみだな。



 ◇◆◇



 朝のホームルーム。

 基本、アラン先生が連絡事項を伝える時間だ。所要時間は10分。


「皆さん、今日から授業が始まります。どの教科も大切ですが、特に鉱物錬金学・植物錬金学・生物錬金学の三教科は重要ですので、よく授業を聞くように」


 時間割を確認したが、確かにその三科目は授業の割合が多かった。

 それからアラン先生は他愛ない世間話をして、ホームルームを締めくくった。アラン先生が出て行ったあとで生徒たちは授業の準備を始める。


 時間割を確認。

 今日の一時間目は生物錬金学キメラ科(略称:キメラ学)となっている。


「なぁヴィヴィ。生物錬金学キメラ科とただの生物錬金学はどう違うんだ?」


 隣の席のヴィヴィに聞く。


「生物錬金学は生物全般を対象とした授業で、キメラ学は生物の中でもキメラに限定した授業よ」


 生物全体を広く浅く学ぶのが生物錬金学で、キメラ学はキメラに限定する代わりに深く掘り下げる……ってことかな。


「悪いな。多分これからも授業のことで色々と聞くことになる」


「別にいいわよ。遠慮なく聞きなさい。あなたをここへ呼んだのは私なのだから、私にはあなたの面倒を見る責任があるわ」


「……そんなこと言って、最初は俺のこと遠ざけようとしたじゃないか」


「ま、前とは状況が違うでしょ!」


 ヴィヴィの声が高ぶってきた。これ以上なにか言うとまた逆ギレされそうだな。


「うげっ! マジかよ……」


 右隣の席、ジョシュアから落胆の声が聞こえた。 

 続いてフラム、ヴィヴィが同様に驚きの声を漏らす。全員、視線は教室の前方――一時間目の担当教員に向いている。


「嘘だろ……」


 思わず、俺も声を出してしまった。

 なぜならとても嫌味な人物がそこにはいたからだ。



「私語を慎め。この授業内で俺の許可なく喋ることは許さん」



 一時間目キメラ学――担当教員、コノハ=シロガネ。コノハ先生の隣には例の如くメイドのラビィさんが居る。


「うわぁ、最悪だぜ……」


 ジョシュアが俺の席の方に身を寄せて、小さな声で言う。


「そういえばあの人、一応肩書き教師だったな。そりゃ、授業も受け持ってるか」


 と俺はガッカリ全開の声で呟く。


「ホムンクルスも生物学の一部……か」


「……けっ、やってらんねぇぜ。眠っちまおう」


 そう言ってジョシュアが居眠りモーションを取ると、


「イロハ=シロガネ、ジョシュア=ベン=クロスフォース、減点1」


 と名指しで言われた。


「私語は減点1、居眠りは減点2だ。減点が10になったら強制的に退学処分とする」


「「なっ!?」」


 ジョシュアは机を叩き、立ち上がる。


「ふざけんな! 事前の説明もなしにそんな横暴が許されるわけねぇだろ!」

「ジョシュア=ベン=クロスフォース、減点1。これでお前の持ち点はあと8だ」

「ぐっ……! この……!!」


 ジョシュアは何とか怒りを飲み込み、席についた。


「それでは授業を始める。キメラ学Ⅰの12ページ、図鑑の8ページを開け」


 こうして最初の授業が始まった。最悪の滑り出しと言わざるを得ない。

 それから黙々と授業は進んでいった。ずーっと座学だ。


 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、コノハ先生は手に持った教科書を閉じた。


「今日の授業はここまで」


 コノハ先生が扉を開き、廊下に出たところでラタトスク組の生徒たちは一斉にため息を漏らした。


「必要最低限って感じだな。つまらない授業だった」

「説明はわかりやすかったじゃない」


 ヴィヴィはコノハ先生の授業が肌に合ったようだ。

 フラムは授業が終わった瞬間、顔を上げたまま寝ている。涎を垂らしてだらしない寝顔だ……女子の自覚がないのだろう。


 ジョシュアは最初は文句を言っていたものの、授業自身は真面目に聞いていたように見える。


 あっという間に10分休みは終わり、二時間目がやってくる。

 教室にやって来たのは――


「さっきぶりだねみんな。鉱物錬金学の担当を務めるのは僕だよ」


 アラン先生だった。

 クラス中で安堵のため息が漏れた。


「いきなり座学もつまらないだろうし、今日は錬金術の実習をしよう」


 二時間目の授業では全員に重い紙袋が配られた。

 紙袋の中を覗くと、石が入っていた。石が紙袋いっぱいに詰めてあった。

 どれも何の変哲もない、俺の国にも普通にある石だ。


「この配った石を錬金術で加工して、石像を作ってください。どんな石像でもいいですよ。動物でも人間でも、好きに作ってみてください」


 教室の前の水道で合金液(メタルポーション)を小型錬金窯に入れて、席に戻る。全員がまばらに石像の錬成を始める。


「へへへ! 完璧な出来だぜ……!」


 ジョシュアは早速石像を錬成した。

 全裸の女性の石像だ。普通に良い出来だ。あんなガタガタの家を作っていた人間には思えない。これが妄想の力か……。


「錬金術師にとってもっとも必要な能力はイメージ力と言っても過言ではありません。目の前の石の構成物質、どういう材質でどれくらいの重量かをしっかりと確かめ、完成形の姿形・重量を細部までイメージしましょう」


 石像か。これは俺に利があるな。

 美術の勉強の過程で多くの石像を見てきた。造形勝負なら錬金術師相手でも負けない。


「自信あり、って顔ね」


 ヴィヴィが挑発的な顔で言ってくる。


「どっちがアラン先生を唸らせる石像を作れるか、勝負するか?」


「いいわよ」


 仮にも美術家として負けられん。

 窯に20個近くの石を突っ込む。


 イメージ……イメージ……鎧や剣を身に着けた老騎士の石像のイメージだ。

 石にはそれぞれ色がある。その多種多様な色を頭の中で整え、まとめ上げる。


 よし、OK。いける。


 マナドラフトに手を合わせ、錬成を始める。

 シャボン玉に包まれて落ちてくる石像を手に取る。

 イメージ通りだ。ヴィヴィの方を見る。ヴィヴィは神秘的な女神像を作っていた。俺の石像に負けず劣らず美しい出来だ。

 ヴィヴィも俺の石像を見る。


「くっ……! やるわね」


 と悔しそうな顔をした。

 正直、両者の石像の出来は互角。


「へぇ。2人とも凄く良い出来だね」


 アラン先生は俺とヴィヴィの石像を交互に見る。


「アラン先生、どちらの石像の完成度が高いと思いますか?」


「そうだね~。イロハ君の石像は力強さを感じるし、いま作ったのにまるで古代から存在しているような厳かな空気を感じる。ヴィヴィさんの石像は女性らしい柔らかい体つきが細かく再現されていて、神々しさを感じるほど美麗だ。甲乙つけがたいね……」


 その時、ゴォン!! とヴィヴィの前の席で爆発音がした。


「え? フラムさん?」


 アラン先生がヴィヴィの前の席、フラムの方を見る。

 フラムは黒こげの顔で振り向き、「えへへ……」と頭を掻いた。


「あの、フラムさん? 僕は石像を作ってと言ったんだけど……」

「はい! 立派な石像()()ができました!」


 フラム=セイラ―は錬成するものすべてが爆弾となる。石像爆弾を作って、爆発させたのだろう。

 ある意味、このクラスで一番アラン先生を唸らせたのはフラムであった。

【作者からのお願い】

ここまで読んでいただきありがとうございました!

今後の作品の発展のためにも、ページ下部の星を【☆☆☆☆☆】から【★★★★★】にしてくださると嬉しいです。

低評価もきちんと受け入れますので【★☆☆☆☆】でも押してくださると今後の参考になります。

現時点の評価で構わないので何卒よろしくお願いします。

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