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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 錬金術師専門学校へようこそ

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第37話 シャインアクア③

 洞窟の入口にはすでにモンキートロールの姿はなかった。


「ひとまず安心だな」

「一応、“風神丸”はあなたが持ってなさい」

「あいさいさー」


 丸まった“風神丸”を手に、恐る恐る洞窟から出る。

 周囲を確認するが、魔物の姿はない。

 そのまま渓谷を戻っていく。


「大丈夫そうだな」

「油断は禁物よ」


 渓谷の出口までくるが、魔物の姿はない。


「待って」


 ヴィヴィは顔を青くして、川の向こう側を指さした。

 慌てて川の向こう側を見るが、なにもない。魔物の姿もなにも。ただの道だ。


――だけど、なんだろう。違和感がある……。


「デッドリークラブがいないわ……!」


 心臓が凍り付いた。


 そうだ、あそこにはバカでかい蟹が居たはず――


「どこに!?」


 ザバァン!!! と川から大きな水しぶきを上げ、紫の巨体が飛び出した。

 巨体は俺たちのすぐ目の前に着地する。


「さっきの猿野郎とのいざこざで、目を覚ましたのか……!」

「イロハ君!」


 俺は“風神丸”を展開し、すぐさま乗り込む。ヴィヴィもすぐに乗り込み、全速で発進させる。


「うおおおおおおおおおっっ!!」


 デッドリークラブのガサガサガサガサ!! という足音がドンドン近づいてくる。

 駄目だ、追いつかれる。空に逃げるしかない!


 “風神丸”の高度を急上昇させ、デッドリークラブの追撃を躱す。


 そのまま樹海の安全地帯を目指して飛ぶ。

 瞬間、森の中で多くの光が散った。夜空に浮かぶ星々のように、森中が煌めいたのだ。


 煌めいた場所から雷、炎、水、風の塊が飛んでくる。


「魔物の遠距離攻撃か!! クソ!!」


 “空挺レース”で培った回避能力を活かし、攻撃を躱していく。


「や、やるじゃない!」


 危機的状況だからか、ヴィヴィは心底嬉しそうな声で言った。


「“空挺レース”の経験は無駄にならなかったみたいだな……!」


 あともう少しで橋の場所まで戻れる――というところで、剃刀のような風が“風神丸”を切り裂いた。


「うおっ!!」


 “風神丸”に穴が空いた。そのせいか、コントロールが効かなくなった。 


「徐々に高度が落ちてる!!」

「頼む、もうちょいもってくれ……!」


 グラグラの足場の中、なんとか樹海の安全地帯の真上まで戻る。しかし、そこまで行ったところで“風神丸”に空いた穴が広がり、ついには真っ二つに破れた。


 “風神丸”から飛行能力が失われる。


「ヴィヴィ!!」


「イロハ君……!」


 俺はヴィヴィを抱きかかえ、森に落下する。枝がクッションになり、落下ダメージを防げると踏んだからだ。


 幾多の枝に当たりながら、俺は地面に落下した。


「いってぇ!!」 


 全身傷だらけ、でも骨にまでダメージは届いて無さそうだ。動けるには動ける。

 俺はヴィヴィを胸から離す。


「ヴィヴィ……無事か?」


 ヴィヴィは苦い顔をして、右足首を掴んでいた。


「変なところに枝をぶつけたみたい……」


 ヴィヴィの右足首は大きく腫れている。


「……置いていきなさい」


 ヴィヴィは顔を背けて言う。


「ふざけるな。乗れよ」


 俺はヴィヴィに背中を向ける。


「無理よ。その傷で、私を背負って帰るのは……」


「だからってこんな樹海の真ん中に、女子を置いて帰れるか」


「……」


 ヴィヴィは俺の背中に体を預けた。


「――ぐっ!?」


 背中の切り傷が、痛む。

 それでもなんとか踏ん張り、立ち上がる。


 一歩、一歩、ゆっくりと進めていく。


 夜が明け、空は明るくなっていた。


「イロハ君……やっぱり」

「うるせぇ!」


 怒りを込めて言い放った。

 歩く度、ヴィヴィと接地している傷が痛む。激痛が走るごとに、意識が遠のいていく。


 でも絶対にここで、ヴィヴィを見捨てはしない。絶対に……!


「――溺れている友達が居たら、助けに飛び込むんだ。例えそれで自分が溺れてもな……」


「なにを、言ってるの……?」


 極限状態だからか、俺の頭の中に走馬灯のように、人生の記憶が過った。

 俺の、昔の、罪の記憶だ。


「可愛がっていたペットを、火に突っ込むような真似もしない。恩人が病気で倒れたら、果物と花を持って見舞いに行くんだ……」


 頭に、爺さんの顔が浮かぶ。


「――家族が死んだら、ちゃんと泣く!」


 気合を入れるために、大声を出す。痛みを紛らわせるために、大声で吠える。



「俺は、誰よりも『人らしく』生きてやるんだよ!!!!」



 『人らしく生きる』。

 それがイロハ=シロガネの命題だ。


「さっきから、なにを言ってるわけ……?」


「お前にはお前の罪があるように、俺には俺の罪があるという話だ!!」


 くそ、駄目だ。意識が……。


「いた! ジョシュア! こっちだよ!!」


 知った声が正面から聞こえた。


「テメェ、この野郎イロハ! 集合時間になっても来ねぇし、家にも居ねぇからまさかと思って来てみりゃ――って、なんだ、その怪我!?」


 フラムとジョシュアだ。2人がいる。

 そこで安心しきった俺は、膝の力を抜き、地面に倒れ込んだ。

【作者からのお願い】

ここまで読んでいただきありがとうございました!

今後の作品の発展のためにも、ページ下部の星を【☆☆☆☆☆】から【★★★★★】にしてくださると嬉しいです。

低評価もきちんと受け入れますので【★☆☆☆☆】でも押してくださると今後の参考になります。

現時点の評価で構わないのでよろしくお願いします。

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