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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 錬金術師専門学校へようこそ

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第13話 入学式

 学校という名の城に着いた俺たちは先生の案内に従い、巨像が立ち並ぶ広間に連れてこられた。

 生徒全員が適当に並べられたところで入学式は始まった。


 仕切り役の先生が壇上に立ち、話を始める。


「えー、進行を務めますはわたくし、副校長のレイン=シルヴィーです」


 紺色の髪の、クールそうな女性だ。腰に剣を差していて、ちょっと刺々しい雰囲気がある。

 彼女が姿を見せてからというもの、生徒がざわざわと騒ぎ出した。


「あれが剣聖レインか。魔剣“ティルヴィング”を錬成した鉱物学の天才」


「あの腰にある剣が“ティルヴィング”かな?」


「純粋な戦闘力なら校長に匹敵するらしいぜ……」


「美人だな~! あの目に見下されたい!」


「俺も作りたいな……魔剣」


 どうやら錬金術師の間では有名人みたいだ。俺の後ろに立っているジョシュアも鼻息が荒くなっている。こいつの場合はレイン副校長の見た目に対して興奮しているのだろう……。


「それではまず、我が校の校長から挨拶があります。校長、よろしくお願いします」


「ひゃい!!」


 間抜けな声と共に、あのカボチャ頭がぎこちない動きで登壇する。


……めちゃくちゃ緊張してるな。


「ほほほ本日はお日柄もよく、絶好の入学日和で……」


「校長、落ち着いてください。まずは自己紹介です」


「あ、ああ! そうだった! わ、吾輩はジャック・O・ニュートンである! 〈ランティス錬金学校〉の校長である!」


 その名を聞いた瞬間、また生徒が沸き始めた。


「錬金術師の到達点の1つ、“ユグドラシル”を錬成したジャック・O・ニュートン!」

「噂じゃ何百年と生きてるらしいぜ……」

「本当に会えるとは……!!」


 さっきの比じゃない沸きようだ。


「アレが現錬金術師のトップか。噂通りのカボチャ頭だな」


 ジョシュアがつまらそうに言った。美人以外興味ないんだろうな。

 それから緊張止まない校長が定型文を読み上げ、校長挨拶は終わった。

 校長に変わってレイン副校長が話を始める。


「続いて、新入生代表挨拶――ヴィヴィ=ロス=グランデ、前へ」


 え? 待て、聞き間違いか?

 俺の知っている人物の名がレイン副校長の口から出たのだが、


「はい」


 俺から3つほど隣の列で、ヴィヴィが返事した。

 ヴィヴィは堂々とした足取りで壇上に向かう。


 錬金術師の中でもそれなりに優秀な方なのだろうとは思っていたが、まさか新入生代表に選ばれるほどだったとは。


――しかし、


「ちっ、なんでアイツが代表なんだよ」


 嫌な声が聞こえ始めた。


「大罪人の娘が!」

「新入生代表ってどういう基準で選んでるの? ありえなくない?」

「たしか筆記と実技の合計点が一番だったやつが代表になるんだろ」

「うわぁ、萎えるわ~。せっかくテンション上がってきたのに」


 あちこちから悪口が飛んでくる。


……ヴィヴィの知り合いとして、嫌な気分になるな。


「あーらら、相変わらず嫌われてるねぇ。ヴィヴィ嬢」


 ジョシュアが言った。


「……なぁジョシュア。なんでアイツ、あんな嫌われてるんだ?」


「ん? ひょっとしてお前、外部生か?」


「そうだけど」


「なら知らなくても無理はないか。彼女の父、グランデ伯爵は大量のキメラと共に、一つの街を滅ぼした大罪人なんだよ」


 初耳だ。

 まぁ、こんな話、自分から言えるモンじゃないか。


「父親が大罪人だから嫌われてるってことか?」


「その通り。それに彼女自身、生物学には精通していると聞く。皆怖いのさ、父親と同じく彼女がキメラを作り、我々を襲わないかと」


――『……忠告しておくけど、もしあなたが穏やかに学園生活を送りたいなら、私とはなるべく関わらないことよ』


 アレはそういう意味だったのか。

 短い付き合いで言い切るのもどうかと思うが、ヴィヴィはそんな非道なことをするとは思えないけどな。


「おはようございます。新入生代表のヴィヴィ=ロス=グラン――」


「わっ!!!」


 俺の前の男子生徒がわざと大声を上げ、ヴィヴィの挨拶を邪魔した。


「静粛に!」


 レイン副校長から注意が飛ぶ。しかし、この人だかりだ。ここは列の中央、多分声の出所にレイン副校長(ほか)先生たちは気づいていない。


「くくっ! やめろってお前」


 大声を出した隣の男子生徒が笑いながら大声を出した男子の脇を小突く。


「ひひっ! もう一回良いとこで邪魔してやろっと」


 さすがに、度が過ぎてるな。


 背負ったケースを静かに手元に降ろし、小さな動作で“虹の筆”を抜く。

 そして“虹の筆”の筆先を、前の男子の足と足の間に差し込み、インクを滲みだす。硫黄の色だ。

 硫黄色のインクが水たまりを作る。


「よっしゃ、もっかい行くぞ~!」


 目の前の男子が声を上げようとした瞬間に、筆を振り上げ股間を殴った。同時に、股間をインクで濡らす。


「いてっ! なんだ!?」


 俺は素早く筆を隠す。

 目の前の男子と、その両隣がぴちゃ、ぴちゃと男子の股間から垂れる雫の音に気づき、視線を下に向けた。


「ちょ、お前……!」


「え、嘘! お、おもらししてる!?」


「違う! 違うって! もらしてなんかねぇよ!」


「でもお前、股間も濡れてるじゃねぇか……」


 騒ぎが大きくなる前にインクを消す。


「あれ? 水たまりが消えてる?」


「え? うわホントだ。なんだったんだ、今の?」


「だから言ってんだろ! もらしてないって!」


 前の3人が困惑している間に、ヴィヴィは最後の文まで到達した。


「私たち新入生一同は、人々の生活を豊かにする錬金道を歩み、精進することを誓います」


 ヴィヴィは淡々と読み上げ、さっと壇上から降りた。降りるとき、目が合った気がするが……気のせいだと信じたい。


「……お優しいねぇ」


 ジョシュアが呟いた。

 それから入学式は滞りなく進み、最後に入学式が終わったあとの日程についての話に入る。


「入学式が終わったら案内に従い、それぞれのクラスルームに向かってください。所属クラスはすでに生徒手帳に書いてあります」


 生徒手帳の中を見る。

 すると『ラタトスク組イロハ=シロガネ』と書いてあった。


 どうやら俺はラタトスク組のようだ。

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