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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 錬金術師専門学校へようこそ

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第10話 特急錬成

「またお世話になります。パロフルル駅長」


「さっきぶりでございますヴィヴィ殿。えーっと、そちらの方はボーイフレンドですか?」


「いいえ違います。彼は私の……」


 ヴィヴィは言い淀む。俺をなんて紹介するか悩んでいるようだ。

 確かに俺たちの関係は説明しづらい。恋人はもちろん違うし、友達というほどの関係でもない。ビジネスパートナーに似た存在だ。


 でもここは単純にこの答えで良いだろう。


「友達です」


 ヴィヴィが言いにくそうだったので俺が言う。ヴィヴィは一拍置いて「ええ、友達です」と同調した。その頬は少し赤味が増していた。ガラにもなく照れているようだ。


「ヴィヴィ殿に友達!? あのヴィヴィ殿に!!? 『友達なんて一人でなにもできない人間が作るものよ』と(おっしゃ)っていたあのヴィヴィ殿に!!」


「……パロフルル駅長! 余計なことは言わなくて結構です!!」


 ヴィヴィはさらに顔を赤くして言った。


「それではヴィヴィ殿、切符を拝見させてくださいませ」


「は、はい」


 ヴィヴィはポケットから小さな紙きれを2枚出した。俺はその紙に書いてある文章を読む。


『ネオリヴィア駅→ネオストロフィロー駅 250ベニー』


 ストロフィロー? ってたしか別の大陸にある国の名前だな。

 ベニーっていうのは錬金術師の通貨かな?


「オーケー、確認しました。それではお二人様ごあんな~い♪」


 ガシャン! と足元の地面が円形にくりぬかれ、宙に浮きだした。


「うわっ! 地面が浮いた!?」


浮動床(エレベーター)よ。恥ずかしいからいちいち驚かないでくれる?」


「無茶言うな! うおぉ!?」


 浮動床(エレベーター)とやらは急激に上昇し、俺とヴィヴィを窯の上まで運んだ。

 窯を上から覗く……オレンジ色の合金液(メタルポーション)がグツグツに煮えたぎっていた。浮動床(エレベーター)は窯の真上で静止する。


「入るわよ」


「……入るって、まさかここにか?」


「当然でしょ。ほら、ぼさっとしないで」


「悪いが俺は自殺志願者じゃ――ばっっか! 背中を叩くな! ……うわああああああああああああっっ!!!!」


 浮動床(エレベーター)より叩き落され、俺は合金液(メタルポーション)にダイブした。


 熱くは……ない。生暖かい液体の中を沈んでいく。


 なんだ? 右手の感覚がなくなっているような……、


「――っ!!?」


 右手が塵となって消えていった。

 右手だけじゃない、左足、左手、右足も順々に消えていく。服も、荷物も、全部黒い塵になっていく。


 アレ? 俺、ひょっとして死ぬのか?


 意識が暗転する……。



 ◇◆◇

 



 気が付いたら、俺は見知らぬ部屋を上から見下ろしていた。


「なん……だ?」


 薄い膜のような物が周りに張ってある。

 これは……錬成した時、錬成物が纏っていたシャボン玉とまったく同じ色だ。


 もしかして、俺はいまあの錬成物たちのように、シャボン玉に入ってプカプカ浮いているのか?


 左右に視線を逸らすと、俺以外の人間がシャボン玉に入っているのが見える。

 やっぱりそうだ。俺はシャボン玉の中に居るんだ。


 下を見る。

 〈ネオリヴィア駅〉と違って凄い人だかり。部屋も凄く広い。窯の数も10近くある。


「まさか……」


 ()()されたのか? 俺は。


 一度あの〈ネオリヴィア駅〉の窯の中で分解され、別の場所に再構築された……ということか?

 シャボン玉が地上に落ちて、ようやく俺はシャボン玉から解放される。


「どう?」


 膝をつく俺を、ヴィヴィが腕を組んで見下ろしていた。


「錬金術ってすごいでしょ?」


 ヴィヴィは自慢げに言う。


「どうしてお前が自慢げなんだ……」


 正直かなり驚いたが、ここで感情を表に出すのは癪だったので堪える。

 っていうか、


「■■■■■■、■■■■■■」

「■■■■、■■■■■■■■」


 なんだ? 耳に聞き慣れない言語が入ってくる。


「聞いたことのない言葉……ここ、もう〈リヴィア〉じゃないのか?」


 ヴィヴィはポーチから丸薬の入った小瓶を出した。


「なんだそれ?」


「この小瓶に入っているのは“コンバートポーション”を固めた物よ。これを飲めば一週間、全ての言語に対応することができる。瓶ごとあげるから、一週間ごとにちゃんと飲むことね」


 瓶を受け取り、早速1粒飲み込む。


「――それでさー、めんどくさいから錬金術で料理作ろうとしたんだけど、素材全部真っ黒になっちゃって」

「錬金術で料理するのは難しいよ。料理は普通に作った方がいいって」


 さっきまで理解できなかった言語が、理解できる。


「大丈夫なら足を動かして。この駅で乗り換えよ。次の【特急錬成】で学校の最寄り駅に着くわ」


「え……もう一回今のやつやるのか」


 体が再構築されるのは、あまり気持ちのいいものではない。何度もやるのは気が萎えるな。


「ところで、今って国で言うとどこなんだ? もしかしてもう〈アルケー〉には入ってるのか?」


「いいえ。いま居る場所は〈ストロフィロー〉という国の地下よ」


「うわぁ、山も海も国境も越えちゃってるよ」


 ヴィヴィと一緒に赤の壺の前へ。


 壺の前には俺やヴィヴィと同じ制服を身に着けた同年代の人間が多く見えた。


「……?」


 気のせいか? 俺たちが近寄るとみんな避けていっているような……。


「よそ見しないで。私から離れないように」


「お、おう。すまん」


 ヴィヴィは切符を駅員に渡す。するとまた地面が浮き上がり、俺たちは窯の上まで飛んだ。


「さて、もう一回か」


「行くわよ」


「せーのっ!」


 俺とヴィヴィは同時に壺の中へと飛び込んだ。

 そしてまた、体の分解が始まった。



 ◇◆◇



「おっと」


 またシャボン玉に包まれるかと思ったら、いきなり地に足がついた。


「どこだここ……?」


 地下ではない、窓がある。

 正面には大きな扉だ。

 豪勢な場所だな……宝石とかが当たり前のように飾ってある。


「貴殿がイロハ=シロガネか?」


 背後から男の声が聞こえた。

 振り向くと……大きな玉座に、顔がカボチャの奇妙な人型生物が座っていた。


「すまない。【特急錬成】に割り込んで貴殿だけをここに招待させてもらった」


「カボチャの化物!?」


 逃げようと距離を取ると、


「待った! 吾輩(わがはい)は怪しいカボチャではない!!」


「嘘つけ! お前は怪しいカボチャだ!」


「違う! 吾輩は優しいカボチャだ! 話を聞け!」


 ……話もせずに怪しいカボチャだと断ずるのは早いか。


 足を止め、話を聞く姿勢を見せる。


「吾輩は〈ランティス錬金学校〉校長、ジャック・O(オー)・ニュートン! 貴殿が来るのを心待ちにしていたぞ! 我が盟友アゲハ=シロガネの養子……イロハ=シロガネよ」

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