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三話 決断

 仕事的な部分で雑貨屋はしばらく少し大変だったが、やがて新たな従業員の白猫が加わり、またいつも通りに戻った。

 最初は皆、黒猫を心配したが、時間が経ち、今はそれも全く関係無い事のように働いている。

 雑種猫も同じように、全く関係無い事のように働いている。


 一見、雑種猫が一番周りに関心が無いように思われ、それは間違ってもいないのだが、黒猫がいなくなった事は、雑種猫に寂しさとどうしようもない虚無感を与えた。


 雑種猫は黒猫に好意を抱いていた。

 恋心に近い気持ちもあった。

 雑種猫には友達がほとんどいなく、そもそも自分を理解できる者は、世界の中でも、人生の中でも、ごく僅かか、もしくはいないのではないかとさえ思っていた。

 そういう事を思う者は、とかく周りへ関心が持てないものである。

 いや、関心が無いというより、変に達観した諦めのようなものを持っている。

 その中には過剰な自己防衛や余計な自尊心なども入っているかもしれない。


 とにかく、そういったものを持ち合わせた雑種猫が好意や恋心を抱いたという事は、珍しく、相手を解りたい、自分を解って欲しい、解ってくれるんじゃないかと思ったのだ。

 そして、珍しくそう想った対象が突然いなくなったのである。

 雑種猫は自分の脆弱な才能と縁を呪いたくなった。

 この黒猫の一件以来、雑種猫の不眠と朝の憂鬱はいっそう激しくなった。


 雑種猫にとって黒猫の一件は、好意ある者との別れという事だけではなかった。

 雑種猫が普段から抱え続けている、心の奥にある訳のわからないものを妙に刺激した。

 夜更けに見せるギラリとした目つきは、いよいよ山猫にも劣らなくなってきた。


 相変わらず覇気なく働く雑種猫だが、なぜだかたまに妙にはしゃぐ時がある。

 雑種猫は猫嫌いである。

 どこにいても疎外感や孤独感を感じてしまう猫である。

 そんな雑種猫が今日はやけにはしゃいでいるのだ。

 そのはしゃぎは一週間続いた。

 黒猫の一件でだいぶ落ち込んだけど、この生活もまだまだいけそうだし、悪くもないなとさえはしゃぐ雑種猫は思っていた。


 しかし、このはしゃぎは、更なる落ち込みへの前兆に過ぎない。

 落ち込むのに、特別な理由やたいした原因はいらない。

 ただ落ち込むのだ。

 振り子は、右に大きく振れれば左にも大きく振れる。

 心に何かを抱えた者は、楽しく浮かれている時程、気をつけなくてはいけない。

 走っている時の転び方は歩いている時の転び方とは訳が違う。

 そして転んだ後、自分の走っていた姿を思い出し、含羞(がんしゅう)と嫌悪の想いでいっぱいになるだろう。


 案の定振り子は大きく振られ、走りながら勢いよく転んだ雑種猫。

 いよいよその虚しさは、理性の許容を脅かすぐらいに雑種猫を襲った。


 部屋で一人壁を見つめる。

 完全に時が止まったように、ぴくりとも動かない。

 生理現象でさえ面倒臭く思えた。

 まばたきすらうっとうしい。

「もうダメだ、どうでもいい」と心の中で呟き、それを確信した。


 無音の部屋の中、雑種猫はある決心をした。

 その日は少しもまどろむ事なく朝を迎えた。

 次の日、雑種猫は仕事に行かなかった。

 それから二度と、仕事には行かなかった。

 やがて雑種猫は、野良猫になった。


街をふらふら歩く。

 音や景色がやけに客観的に感じる。

 普段は気にする他の視線も、なぜか全く気にならない。

 尖った石を踏み足を少し怪我した。痛みはあるがどうでもいい。

 自分の事が自分に関係無い事のように思えた。


 何かに向かい、いや、何に向かっているのかわからないが、ただひたすら歩いている。

 やがて少し疲れて、適当に腰を下ろし、文章を書く。

 

ーーーこれは逃避かもしれないしデカダンスかもしれないが、抵抗でもあり反抗でもある。世の中は間違っている。信用もできない。しかし自分は本当に正しいのか。金さえあれば。興味があるのは真実であり本質だ。だからそれに向かって進んでいくーーー



 それから数年経ち、彼が生きているのか死んでいるのかさえ、知る者はいなかったという。

 当作品を最後までお読みいただきまして誠にありがとうございます。

 私にとっては執筆の原点となった作品です。

 今となっては、こういう作風も文章も書かなくなりましたが、これはこれで自分では思い入れもあります。

 なお、寓話あるいは童話は、また別の機会に新たに書きたいとは考えています。


 以上になります。

 よろしければ、連載中の他作品等もご覧になっていただければ幸いです。

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