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 遠いあの日。

 季節は新緑が濃くなりつつある初夏の、宵。

 俺は、成人の儀を終えたばかりの十六歳だった。



「なんだよマーノ。そう固くなるな」

 ニヤニヤしながらそう言う幼馴染み(トルーノ)へ、俺はうるせえと返す。

 くっそお。

 俺より一歳上なだけなのに、十年はこういうところで遊んでいるような顔しやがって。

 どうせ去年の今頃は、お前だってこんな感じだったくせによっ。

 思いつつ俺は、さっき出された、一応は高級そうな茶葉でいれた茶をすする。


 何というか……嬉しいような、恥かしいような、そわそわするような、うんざりするような、腹が立つような、重苦しいような。

 そのすべてがごっちゃになったような気持ちで俺は、味もよくわからない茶を飲み干す。


 今宵、俺はトルーノに連れられ、初めて娼館に来ていた。



 今日、神殿で『成人の儀』を終えた。

 ラクレイドでは十六歳の誕生月、正装で神殿へ行って神へ『成人しました』という報告の儀式をする。

 この儀式を『成人の儀』といい、以降、ラクレイドのガキは大人として扱われることになる。

 男女ともにこの儀式を行うが、一般的に言うと男の方が、これをもって一人前と見做される傾向が強い。

 女は古くから十五歳での結婚が認められていて、結婚すれば大人として扱われる。

 その際、神殿で『結婚の儀』を行うから改めて『成人の儀』を行うことはない。

 最近はそうでもないが、昔は大体十四までに女の子の結婚相手が親によって決められ、十五になると嫁いでゆくのが一般的だった。

 特に田舎の方では、女が神殿で『成人の儀』をすること自体、軽く恥だったくらいだ。

 

「心配しなくても、お前みたいな堅物でイロイロ初めての男の相手に相応しい、優しい娼妓(おんな)のはずだよ。俺の方から亭主にちゃんとそう頼んでおいたんだ、肩の力を抜いて楽しめ」

 やはりニヤニヤしながらトルーノは言う。

 馬鹿野郎。

 肩の力を抜いて楽しめとか言われても、そんな気になる訳がないだろうが。


 ラクレイドの男は『成人の儀』を済ませた夜、年長の者に連れられて娼館へ行く。

 昔からの慣わしだ。

 そこで一夜を過ごして初めて本当に『大人』と認められるから、気が進まないからといって省略するなど世間が認めない。

 そう。

 気が進まない。

 気が進まないんだ。

 俺も男だし人並みにソチラの欲もあるが、金を払って……そのなんだ、こういうことをするのがその、どうもその……しっくり、こない。

 しっくりこなくて気が進まない。

 女々しいとでも童貞くさいとでも、何とでも言え。

 しっくりこないものはしっくりこないし、気が進まないものは気が進まないんだ!


 一度、遠回しにそういう意味のことをトルーノへ言ってみたことがある。

 奴は真顔になると

「お前の言うこと、わからなくもないけどな。俺だって娼館で遊ぶより、愛しいと思う女と夜を過ごしたいと思ってるよ。でも、じゃあ訊くけど、恋人なり妻なりといざコトに及ぼうとした時、まったく予備知識も経験もなしに、上手く彼女を導く自信、お前にあるのか?」

 ……絶句するしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、しっかりしたシステムです(^^; 江戸の職人は15になると遊郭に連れて行かれるという風習はあったようですが。
[良い点] おおータイスンさんだ!お待ちしてました! ゞ(^o^ゝ)≡(/^_^)/" [一言] >まったく予備知識も経験もなしに、上手く彼女を導く自信、お前にあるのか? ぷぷぷぷぷ(笑) 初めては…
[一言] >まったく予備知識も経験もなし これはこれで幸せな気も致します (*´▽`*) ある意味素敵☆彡 駄目ですかね?
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