②
遠いあの日。
季節は新緑が濃くなりつつある初夏の、宵。
俺は、成人の儀を終えたばかりの十六歳だった。
「なんだよマーノ。そう固くなるな」
ニヤニヤしながらそう言う幼馴染みへ、俺はうるせえと返す。
くっそお。
俺より一歳上なだけなのに、十年はこういうところで遊んでいるような顔しやがって。
どうせ去年の今頃は、お前だってこんな感じだったくせによっ。
思いつつ俺は、さっき出された、一応は高級そうな茶葉でいれた茶をすする。
何というか……嬉しいような、恥かしいような、そわそわするような、うんざりするような、腹が立つような、重苦しいような。
そのすべてがごっちゃになったような気持ちで俺は、味もよくわからない茶を飲み干す。
今宵、俺はトルーノに連れられ、初めて娼館に来ていた。
今日、神殿で『成人の儀』を終えた。
ラクレイドでは十六歳の誕生月、正装で神殿へ行って神へ『成人しました』という報告の儀式をする。
この儀式を『成人の儀』といい、以降、ラクレイドのガキは大人として扱われることになる。
男女ともにこの儀式を行うが、一般的に言うと男の方が、これをもって一人前と見做される傾向が強い。
女は古くから十五歳での結婚が認められていて、結婚すれば大人として扱われる。
その際、神殿で『結婚の儀』を行うから改めて『成人の儀』を行うことはない。
最近はそうでもないが、昔は大体十四までに女の子の結婚相手が親によって決められ、十五になると嫁いでゆくのが一般的だった。
特に田舎の方では、女が神殿で『成人の儀』をすること自体、軽く恥だったくらいだ。
「心配しなくても、お前みたいな堅物でイロイロ初めての男の相手に相応しい、優しい娼妓のはずだよ。俺の方から亭主にちゃんとそう頼んでおいたんだ、肩の力を抜いて楽しめ」
やはりニヤニヤしながらトルーノは言う。
馬鹿野郎。
肩の力を抜いて楽しめとか言われても、そんな気になる訳がないだろうが。
ラクレイドの男は『成人の儀』を済ませた夜、年長の者に連れられて娼館へ行く。
昔からの慣わしだ。
そこで一夜を過ごして初めて本当に『大人』と認められるから、気が進まないからといって省略するなど世間が認めない。
そう。
気が進まない。
気が進まないんだ。
俺も男だし人並みにソチラの欲もあるが、金を払って……そのなんだ、こういうことをするのがその、どうもその……しっくり、こない。
しっくりこなくて気が進まない。
女々しいとでも童貞くさいとでも、何とでも言え。
しっくりこないものはしっくりこないし、気が進まないものは気が進まないんだ!
一度、遠回しにそういう意味のことをトルーノへ言ってみたことがある。
奴は真顔になると
「お前の言うこと、わからなくもないけどな。俺だって娼館で遊ぶより、愛しいと思う女と夜を過ごしたいと思ってるよ。でも、じゃあ訊くけど、恋人なり妻なりといざコトに及ぼうとした時、まったく予備知識も経験もなしに、上手く彼女を導く自信、お前にあるのか?」
……絶句するしかなかった。