表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

運び屋ケイン5 ~怪物との戦い~

掲載日:2019/12/04

プルプルプルプル…。


小型飛行艇リトルホープ号の夢8型エンジンが、語りかけてきます。


「ねえ、ケイン。 聞いてる?」


「ああ、聞いてるよ。」


後部座席に座っている少女が、頬を膨らませます。


「じゃあ、さっき何て言ったか言ってよ!」


少女は、リトルホープ号へ乗ってから、家族への愚痴をずっと喋っていました。

ケインも最初のうち真面目に話を聞いていたのですが、さすがに耐えられなくなり、少女を無視。

“今日も良い音してるね!”と、心の中で、夢8型エンジンと会話していたのです。

少女の言葉など覚えている筈もありません。

ケインは、少し考えると…。


「確か…、『ねえ、ケイン。 聞いてる?』だと思うけど…。」


少女の怒りが頂点に達します。


「あ×Aぞ○Zが、△ご□げ…!!!」


言葉に出来ない罵声が続きます。


「はあぁぁぁーーーっ…。」


ケインは、長い長い溜め息をつきました…。


ケインは、運び屋。

頼まれた荷物を指定された日時に、指定された場所まで運ぶ仕事。


今回、荷物の届け先は、リゾッタ島。

南国の島です。

荷物の名前は、マリーン。

スコット家、12人兄妹の上から4番目の娘。

現在スコット一家は、豪華客船ブルームーンで、家族旅行の真っ最中。

船嫌いのマリーンは、乗船前に逃げ出したのです。


船が出港後、マリーンが居ない事に気付いたスコット夫妻は、ケインの両親を頼ります。

ケインの実家は、スコット家の近所。

ケイン自身もスコット家とは付き合いがあり、家族全員と面識があります。


両親は、休暇で帰省していたケインに、マリーンを捜すよう命じました。

実家のソファーで、ゴロゴロしていたケインは、大きな溜め息をつくとマリーン捜しに出かけます。


マリーンは、直ぐに見つかりました。

スコット家へ行くと、玄関前で膝を抱えていたのです。

鍵が無く、家に入れなかったマリーン。

その姿を見たケインは、笑いました。

ホッとした表情を見せたマリーンが、頬を膨らませます。

ケインは、ゴメンゴメンと謝りました。


ケインは、スコット夫妻から、リゾッタ島行きの船に乗せるよう、頼まれた事を話します。

マリーンは、船は酔うから嫌だと、頑として聞きません。


「はあぁーーっ…。」


ケインは溜め息をつくと、じゃ飛行艇で送って行くと言ったのでした…。


リゾッタ島が見えてきました。

さすがに疲れたのでしょう、マリーンの罵声が止んでいます。


「ねえケイン…、帰りも迎えに来てくれるよね…?」


罵声が止んだのは、お願いをする為、だったようです。

ケインは無言。

今日乗せたのは、両親にマリーンの事を頼まれたから…。

せっかくの休暇をこれ以上マリーンの為に使う気にはなりません。

ケインは家で、ゴロゴロしたいのです。

ケインは、マリーンの連続お願い攻撃を無視したまま、港を目指します…。


(んっ!?)


ケインは異変を感じます。

ブルームーンが、まだ到着していないのです。

予定通りなら、1時間前に到着している筈なのに…。

また港の人々が、何やら騒いでいます。


「マリーン! 着水する。

舌を噛まないようにな!!」


ケインの指示で、マリーンの連続お願い攻撃が止みました。

リトルホープ号は、高度を下げると着水し、ゆっくりと港に近付きます。


リトルホープ号に気付いた作業員が近付いてきました。

ケインは、作業員に尋ねます。


「ブルームーンに何か、あったのか?」


「行方不明なんだ!

今、動かせる船を全部出して捜索中だ!」


「えっ!?」


作業員の言葉に、マリーンが不安げな声を上げました。


「分かった! 俺も捜してみよう!!」


ケインは、アクセルペダルを踏み込むとスピードを上げ、離水しました。


「マリーン!

君は、左側を見ていてくれ。

俺は右側を見る。」


ケインの言葉にマリーンは、分かったと頷きました。


捜索を始めて1時間…。

マリーンが声を上げます。


「ケイン! 見つけた!

あれ、絶対そうだよ!!」


豆粒のような大きさですが、ブルームーンに間違いないようです。

ケインは、ブルームーンへ向けスピードを上げます。


ブルームーンは、襲われていました。

巨大怪物クラーケン…。

このタコのような怪物は、触手をブルームーンに巻きつけ、海中へ引きずり込もうとしています。

ブルームーンの無線アンテナが、触手により破壊されていました。

これでは、何処にも連絡出来ません。


ケインは、ブルームーンの周りを旋回して様子を見ます。

後部座席では、マリーンが身を乗り出して、家族の名前を叫んでいました…。


しばらく観察した結果、ブルームーンが大きすぎて、海中へは、引きずり込めそうにない事が分かりました。

このままクラーケンが、諦めるのを待てば、問題は解決と、ケインは、ほっと一安心。

状況を報告する為、リゾッタ島へ引き返す旨を、マリーンに告げます。


「駄目ーーっ!!」


マリーンが、絶叫しました。

ケインは、後部座席を振り返ります。

マリーンは、泣いていました。


「怪物を退治して…、みんなを助けて…。

お願い…、何でも言うこと聞くから…。」


ケインが、武器が無いから攻撃出来ない。

あの様子なら大丈夫だと、説明してもマリーンは、首を横に振ります。


「もし、もう一匹…、あの怪物が出てきたら…。

みんな死んじゃう…。」


マリーンは、両手で顔を押さえると泣きじゃくります。

確かに可能性として無い事は、ありませんが…。

ケインは、溜め息をつくと覚悟を決めました。


「マリーン!

シートベルトをきつく締めとけ!!

攻撃は1回だけ、失敗したらリゾッタ島へ引き返す。

行くぞ!!」


ケインは、アクセルペダルを踏み込み、急上昇を始めます。

空高く舞い上がったリトルホープ号は、反転すると一気に急降下。

見る見る海面が近付いてきます。

クラーケンと目が合いました。

ケインは、操縦桿を引くと同時に、座席横のレバーを引きます。


ガコン!


翼の付け根に付いている左右のフロートが切り離されました。

フロートは、クラーケンの目を直撃します。

クラーケンが身じろぎしました。

ダメージは、ほとんど無いようです。


と、ブルームーンに絡み付いていた触手が離れていきます。

クラーケンは、海の底に潜って行きました…。


「ケイン、やったね!

ありがとう!!」


マリーンは大喜び。

ケインは、ダメージを与えた感が、無かった事を悩んでいました。


(フロートで、逃げたのか…?

諦めて、逃げたのか…?)


と、ブルームーンを見ると甲板に人が溢れ、リトルホープ号に手を振っています。

ケインは、マリーンに指示してメモを書かせます。

そしてメモを通信筒に入れ、ブルームーンの甲板へ投下しました。


通信筒は円筒の入れ物、後部に数本のリボンが付いていて、空気抵抗によりスピードが出ないようになっています。

通信筒が、乗員の手に渡りました。

ケインは、ブルームーンの周囲をゆっくり旋回します。

家族を見つけたマリーンは、手を振って無事を喜んでいました。


しばらくして、ブルームーンの汽笛が2回鳴りました。

ケインは、ブルームーンの状態を知る為、メモで汽笛の回数を指示していたのです。


1回=航行不能。

2回=引き返す。

3回=リゾッタ島へ向かう。


ケインは、了解の合図で翼を振るとリゾッタ島へ向かいます。

来たときの倍近いスピード。

ケインは、早急に報告する事を考え、スピードアップの為、フロートを無くしたのです。


リゾッタ島へ到着するまでの間に、ケインはマリーンにメモを書かせます。

ブルームーンが無事である事。

そして現在位置、引き返すことになった事など…。

メモを書き終えたマリーンが、疑問を覚えます。


「ねえ、ケイン。

着水して、直に話せば良いんじゃないの?」


ケインは、ポリポリと頭をかきました。


「フロートが無いと少しの波で、バランスを崩すんだよ。

だから、島の後は、俺の家へ向かう。

で、フロートを取り付けてから、君を家へ送って行く事になる…。」


「ちょっと待って…、今からだと日が暮れるんじゃない?

夜の飛行は、無理な筈だから…。

私…、お泊りするの…?」


一人暮らしの独身男性宅へ行くと知った、マリーンの頬が染まります。

マリーンの言葉を聞いたケインは、しまった!と、ばかりに、アクセルペダルを踏み込みました。

ケインは、そこまで考えていなかったのです。


ババババババババ…。


ケインは、最高速度でリトルホープ号を飛ばします。


(このスピードならギリギリ、日が暮れる前に…。)


後部座席では、マリーンが、あらぬ妄想に浸っていました。


「ケインったら…、私の『何でも言うこと聞くから…。』って、言葉を真に受けて…。

でも、約束だから…。

うん! ケインだった良いよ…。

だめだめ、そんな事…。

イヤーン!!」


ケインは、苦笑いを浮かべると、夢8型エンジンに語りかけます。


「夢ぱっさん、無理させるが、頑張ってくれ!

お互い、明日から、ゆっくりしよう!!」


果たして、ケインの運命は…、マリーンの運命は…。

2人を乗せたリトルホープ号は、オーバーヒートの危険をはらみながらも、猛烈なスピードで、飛び去って行きました……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ