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私は空への案内人

作者: 樹咲 良夢

久しぶりの投稿です。緊張しています。

拙い文章で、すみません…。

最後の方…すこしわからない感じになってしまいました…。

 どれだけ頑張っても、報われないのが、あたしの初恋だった。

 彼はどこかの御曹司で、人気者で、可愛い彼女だっていた。その彼女とは幼馴染で、許嫁で、仲睦まじく歩いているのを、何度も見かけた。

 そんな彼らは皆んなの憧れの的だったと言っても過言ではないし、あたしも憧れていた一人に過ぎなかった。

 第一、まともな会話を一度もしたことがないような、彼らが少女漫画の主人公達ならば、私は脇役にすらならないような、クラスメイトの絵が出てくるときに目すら描いてもらえないような、あたしはそんな奴だった。三年間クラス替えがない学校で、一応、同じ教室で共に学んだ仲間ではあるけれど…。


 そんな彼とまさか、卒業から二年経った今日、こんな形で再開してしまうなんて、思ってもみなかった。場所は白だらけの病院。色んなチューブに繋がれて、眠ったように、辛うじて生きているような彼に会うだなんて、思ってもみなかった。

 初めから報われない恋だった。むしろ ()()()から絶対に叶わない恋になったけれど、今この瞬間に、さらに、私にとって残酷な恋になってしまった。



 すこし、彼の話をするのであれば、あたしの中で彼は素晴らしい人間だった。

 誰にでも平等に優しくして、ある日はあたしがシャープペンシルの芯をテスト中に切らし、途方に暮れていた時に、先生にバレないようにそっと渡してくれて。ある日は、迷子になった男の子のお母さんを探す手伝いをしていて、ある日は、重たい荷物を抱えたおばあちゃんに声をかけて、階段を上るのを助けていた。

 しかも、彼は優しいだけではなくて、しっかり自分の意見を持ったひとだった。クラスでの議論でまとめ役をしてたり、ひとまず出来る人だった。

 そんでもって、勉強も抜群…ではなく、テストでは平均点をみて、ホッとした顔をしていたり、この世の終わりの様な顔をしていたり、勝手ながら親近感が湧いてしまうような一面もあった。きっと、それも彼の人気の要因の一つだったのだろう。

 彼なりに色んな事があって、誰もいない教室で泣きそうになっているのをうっかり見てしまった事もあるけど。彼は基本明るい人だった。


 卒業後は、実家を継ぐために、それなりの大学で経営学を学んでいたらしく、許嫁の彼女ともそれなりに仲良くしているらしい、と噂で聞いていた。結婚するのは大学卒業後だろうとか、そんなことも聞いた。本当か嘘かはしらないけど。でも、あんなに仲の良かった彼らだ。きっと本当だろう。

 あたしはと言うと、そんな彼の噂を聞いて、まだそれなりにあった恋心を小さく疼かせながら、羨ましいな、と思っていた。

 いつかきっと、人づてでまた、結婚したらしいよ、とか、子どもが生まれたらしいよ、とか聞くんだろうなとか。そんなことを思っていた。

 それで、私はそんな彼らを羨ましくは思いつつも、その幸せを心から祝えるようになっている筈だと。



 そんな、ある日のことだった。

 私は普通に朝から学校へ行き、お昼からの授業がなかったのでそのままバイトへ行って、疲れたぁなんて言いながら帰って、お母さんにバイト先のことで愚痴って、お風呂でうたた寝しながらのぼせちゃって…本当に普通の日だった。

 夜、寝てる時だった。

 なんか、熱いな、と思った。

 チリチリ、と皮膚を焼くような熱さだった。

 それで、気付いた時にはあたりは赤かった。

 逃げ場なんてなかった。

 すっごい遠くの方で、いろんな、サイレンだったり、人の声がしている気がしたけど、よくわからなかった。

 あぁ、なんで、こんなことになったかなぁ。

 今日一日、普通の日、だったのに。

 せめて、もう一目、彼を遠くからでも、見かけたかったなぁ、なんて思いながら、あー、ほんとにもう叶わない恋だなぁ、なんて思いながら。

 せめて、彼が幸せそうにしているところを、そんな話を人伝でもいいから、聞いて、よかったねと思いたかった。

 そして出来れば、私はその時、彼以外の誰かと、彼ら以上に幸せだと思えるような人生を送りたかった。

 それから、ぼんやりと目を瞑って、そこからは覚えていない。



 次に目が覚めた時、私は何故か『空への案内人』としての任務を与えられていた。俗に言う、死神とやららしいけれど。

 死んだ後なんて、世界なんて無いと思っていたけど、もしあったとしても、なんか、お花畑でるんるん、みたいな、そんなイメージだったのに。


 何があってこうなっているんだ。


 ただ、神の命令には従わざるおえないので。

『従わないと、酷いことがおきるよぅ』

 とか言われて。

 酷いことが何かは知らないけど、神さまがあんな事言っていいのか、と思った。

 あれは半ば脅迫だ。


 はじめの任務は生きてる時に住んでいた家の、近所の老犬を迎えに行った。

 げんちゃん、って愛称で皆んなに可愛がられていた。ほんとは女の子なのに。


 次は、近所のおじいちゃん。

 小学生の時とかにお庭になってた柿を取ったら死ぬほど怒られたけど、たまに会うとみかんとかくれたり、最近どうだ、とか言ってくれたりした、優しいおじいちゃんだった。


 なぜか、生きてた頃に関わっていた人とかが多かった。

 みんな、私をみた時に、にこにこ笑いながら

『あら、りんちゃん、元気だった?』

 なんて言うから、いつも泣きそうなりながら、みんなの事を空まで連れてった。



 それで、今、私の目の前には彼がいる。



 小さい子が道路に飛び出して、轢かれそうになったのを助けた時に。

 車の方も気付いて急いでブレーキを踏んだんだろう。

 子どもの方は助かったらしい。

 彼は、打ち所が悪かったようで、ずっと意識が戻ってないらしい。

 それで、私が来たってことはきっと、死んでしまうんだろう。

 死にかけているってゆうのに、なんて綺麗なんだろう。

 作り物みたいだ。

 不謹慎な事を思いながら、いつもみたいに、少しずつ薄くなっていく命の光を見つめた。

 この光を、またピカピカさせて、彼を目覚めさせてあげれたらどれだけいいだろう。

 そんな力が無いから、いつも私はこの時間が苦しい。げんちゃんのときも、おじいちゃんの時も、その他の人たちの時も、その命の光がゆっくり、ゆっくりと、消えて行くのを見ているしかできなかった。

 ただ、今日ほど、そんな無力な自分を、目の前で死にそうな人を助けれない事を、悔しい、と思った事はなかった。こんなに、苦しいと、私はすでに死んでいるはずなのに、死にそうなくらい、苦しいと思った事はなかった。

 あと少しで消えるその光を、消えてしまうその時を、せめて見逃さないように、じっと見つめる。

 そして、一度、再度、元の輝きより更に、眩しくて目を細めてしまうほど明るく光ったあとに、ふっと消えた。

 もう、本当に、消えてしまった。

 泣かないように、瞬きを沢山して、少し上を向いて誤魔化す。

 その間に、魂になった彼が、抜け殻(からだ)をすぅっと抜けた。

 目が合って、彼は不思議そうに私を見た。

 私は、今まで散々言ってきた言葉を、言うためにすっと息を吸って、これまでより緊張しながら、口を開いた。


「…真田利都(さなだりつ)様。今まで、お疲れ様でした。…これからの、貴方が暮らす場所へ、ご案内致します。」


「…どうして、…月乃(つきの)さんがいるの…?」


「…空への案内人、という仕事を、しておりますので…。」


 今までもよく聞かれた事だ。それはそうだろう。なんで?って、私もなった。…私の時は、小学校のときの担任のおじちゃん先生が迎えに来てくれた。


「…そっか。…まさか、…また会えるなんて思ってもなかったよ」


 そんな事を言われて、内心、驚いた。彼は私の事など、覚えても無いだろうと思っていたから。

 それで、少しでも覚えていてくれた事に、彼の記憶に私がまだいた事に、嬉しくなった。


「…私も驚いてしまいました。…まさか、真田さんが…次のお迎え人だなんて、思ってもいませんでしたから…。」


「そりゃそうだよね。まさか僕もこの歳で死んじゃうだなんて思ってなかったからね。」


 明るく言う彼が、少し寂しそうに、悔しそうに見えて、私まで胸がぎゅっとなった。


「…では、今から、空へと向かおうと思うのですが、よろしいでしょうか…。」


「…月乃さん、もう少しだけ、待ってもらうことは出来るかな…。たぶん、もう少ししたら家族が来る時間なんだ。最後に、一目見て行きたい。」


 あまりにも、泣きそうに、笑いながら言うから、本当はあまりこんな事してはいけないけど、「いいですよ」と、言ってしまった。



 しばらくすると、慌てた彼の両親と、初めて知ったが妹がいたそうで、彼とよく似た美少女が目を赤くして病室に入ってきた。

 遅れて、許嫁の彼女が今にも倒れそうな顔をして来た。

 皆んな、彼のことが大好きな人達で、こんな風に最後を迎えられるのは、きっと彼の人柄の良さや、今までしてきたことの結果なのだと思う。

 そんなことを思っていると、突然、彼が口を開いた。


「…月乃さん。僕はいろんな人に支えられて、生きてきたんだね…。」


「……誰も、1人では生きていけません。」


「…それもそうだね。…ただ、生きているうちに、もっとしっかり、その事に気付いてたら…何か出来たと思うんだ…。」


 どうやら彼は、後悔しているらしい。

 あんなにも、人を想って、行動出来た人が。

 こんな彼でも後悔するなら、私なんていくら後悔しても足りないな。


「…きっと、何か出来ていたから、こんな風に泣いてくれる人が、きてくれるんだと思いますよ。」


「…そうかな…。そうだと…いいな。」


「…そろそろ、お時間です。よろしいですか?」


 あまり長く居ても、良くない。できれば、もう少し、とは思うけど。


「…そうだよね…。早く逝かなきゃね。」


 悔しさや、悲しさ、寂しさが入り混じった表情をして、半分泣きそうになりながら、彼は言った。


「では、私について来てください。」


 彼は頷いて、ふっとまだ泣いている家族と彼女に向けてひとつ、「ごめんね、ありがとう。」と言ってから、私の後に続いた。


 ふわふわと空を飛びながら、大気圏を目指す。生きてるうちは宇宙につながるけど、死後は違う世界が広がっている。


「…ねぇ、月乃さん。」


「なんですか?」


「僕、月乃さんに伝えなきゃいけなかった事があるんだ。」


 えらく真剣な声で、突然そんな事を言うものだから、びっくりする。


「…なんでしょうか?」


「…高校の時、僕が教室である事があってしょぼくれてた時にさ、初めてしっかり話したの、覚えてる?」


 …あれは、しっかり話したうちに入るんだろうか…、というくらい少ない言葉しか交わしていないが、覚えてはいるので、頷く。


「あの時、驚かせてしまって、ごめんね。」




 …あの時、彼は窓の外を見ながら、黄昏ていた。

 相変わらずかっこいいな、なんて思いながら教室に入ったら、振り返った彼の頬が濡れていて。


『…月乃さんか…。』


『え、あ、はい、月乃です。』


 緊張のあまり、それしか言えなかった。

 そして、私の名前を知っていたことに驚いて、同時に嬉しくてなってしまった。


『…誰にも、言わないでね。』


『…何をですか?…私は忘れ物を取りに来ただけです…。』


 泣いてる事だと、すぐわかったから、何もできない私な、精一杯の思いやりで、そうとぼけた。それで、教室に取りに来た忘れ物を持って、すぐに踵を返した。



 それだけの事を、なんで彼は話し出したんだろう。


「実はあの時、色々と、自分を取り巻く環境に悩んでいて、思わず、情けないけど…。見られたのが、まだ月乃さんでよかった。」


「…別に、たまたまですし、逆に、申し訳ないです。」


「ううん、月乃さんがああいう返しをしてくれて、助かったんだ。ありがとう。」


「…普通なら、心配して、声をかけるべきですし、お礼を言われるようなことは…。むしろ、薄情な事をしてしまいました。」


 どんどん空へ進みながら答える。


「うーん、僕の周りに居た人たちだったら、どうしたの、とか、話聞くよ、とか、そんな風に言ってくれた気がするんだ。でも、その時の僕はそれを望んでいなかったし、そっとしてくれた月乃さんが、ある意味、優しく見えたんだよ。」


 …彼なりに、悩んでいた事はきっと、そういう、周りの人達の事も多少からんでいたのだろうな。



「実は、その頃から僕は月乃さんがとても気になって仕方がなかったんだ。」



 気になるとはどういう気になるだ…?!と、思わずびっくりして、後ろに居た彼の方に勢い良く振り返る。


「ふはははっ!そんなに、びっくりしなくても。」


「だ、だって!名前を覚えられていた事だけでもびっくりしたのに…!」


「月乃さんは、とてもステキな人だと思う。だから、きみが亡くなったと聞いて、とてもショックだった…。できれば、生きているうちに、沢山、話してみたかったと思っていたから。こうして、少しでも話が出来て、楽しかった。」


 とても爽やか笑顔でそういうので、なんだか心がむず痒くなって、前へ向き直ってまた空へ進み出すことにした。



「空は、どんなところ?」


 私の心情を知ってから、知らないでかは分からないが、話を変えてくれたことには感謝しかない。


「…私も、行ったことがないので、分からないんです。ただ、きっと素敵なところだと、思います。」


「そっか。それなら、悪くないね。」


 彼なりに、また、不安なのだろう。これからしばらく暮らすだろうところに、何があるのか、どうなるのか、誰も知らない。私も。


「月乃さんも、いつか来るのかな?」


「さぁ、どうでしょう…」


「もし、来れるなら、また、たくさん話をしたいんだ。きっと、楽しいと思うから。」


「…そうですね。また、話しましょう、いつか。」


 そうして、彼とは、空の入り口で、別れた。


 わたしは、いつ、この入り口を通るのだろうか。


 通る日がきたら、真っ先に母と、妹を探して…。きっとそこには随分前に旅立った父がいるはずだから。

 その後に、彼を見つけにいこう。

 実は彼との趣味が一つ合うことを知っている。もしかしたら彼も、知っていたかもしれない。

 お互い、生きているうちに話せなかったことを、話せるかもしれない。


 わからないけど。


 いつかここを通る、その日まで。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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