機兵団襲来
生まれてから3日前まで過ごしてきた第8コロニーから南西に30㎞程離れた平原にいた。
食料はどれ程切り詰めても残り4日分。
どうにか生活圏を確保しなければ、間違いなく餓死してしまうだろうというのに、いまだ故郷の見える範囲から離れることが出来ないでいた。
廃墟で缶詰めでも見つけることは出来ないだろうか。
そんな楽観的な事を考える空腹でうまく働いていない頭に、陽気で、しかし恐ろしいメロディーが入り込んでくる。
咄嗟に近くの岩影に身を潜める。
猟犬と呼ばれる機体。
人の形を模した機械。
まだ、機械の反乱が世間に知られるより前。
ある機械は一帯にガスが漏れていると市民を学校に、ある機械はイベントがあると親子を公園に集めた。
そこで行われたのは殺戮。
当然だ。武器も持たずに金属の体を持つ殺人機に敵うはずもない。
突然の事に腰を抜かした老人は叩き潰され、恋人を囮に逃げた男は、生きながら四肢をもがれ、愛する我が子を守ろうとした母親は、守ろうとした命ごと貫かれた。
惨劇の後、動くものは1つたりとも無かったという。
現在の機兵団のなかでの役割は斥候。
不幸中の幸いに猟犬の人間を探知する性能は高くない。
カメラで捉える限り何処までも追うが、見失えば追跡を止める。
このまま隠れていればやり過ごせるはずだ。
こちらを馬鹿にしているようにすら聞こえる陽気なメロディーが徐々に近づき岩を挟んですぐ隣に聞こえる。
存在がバレてしまいそうな程心臓が脈動する。
1分が1時間にも感じる緊張の中で怯えているといつの間にか恐ろしいメロディーは遠くへ離れていっていた。
刺すような緊張から解放され、必死に空気を吸い込んでは吐く。
しかし、生き延びた喜びを噛み締める間もなく次の恐怖がやって来る。
そう、猟犬は斥候部隊。
ならば次にやって来るのは主要部隊。
狩人と呼ばれる戦闘用の機体。
人型ではあるものの約5mもの体長を持ち、飛行能力を備えている
(マズイ・・・!)
狩人は熱源探知で人間を探し出す。
恐怖に捕らわれた体は自らの意思とは関係なく走り出していた。
追ってきている。
息をきらしながら走る自分に後ろを振り返る余裕はない。
だけど間違いなく追ってきている。
一定の大きさで聞こえてくるブースターの音がその考えの正しさを証明していた。
一瞬の事だった。
膝まである草に隠れた石に躓き転倒する。
頭はすぐさま起き上がり走り続けろと命令を飛ばす。
しかし体はガクガクと震え力が入らなかった。
太陽を背に此方に銃を向ける狩人の姿に神々しさすら感じる。
死にたくない・・・!
まだ、死ぬのは嫌だ・・・!
銃声がした。
何処に当たったかは分からない。恐ろしくて目をつぶってしまったから。
一瞬、浮遊感を感じ、俺は落ちていた。
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2235/5/5 12:05
A棟第2ブロックに電源が入ったことを確認。
何者かが侵入したようだ。
いや、誰が侵入してこようが構わない。
私を連れ出してくれるのならば。
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