兄さん状況を知る
人々が行き交い現世の都心を思い出させるような、そんな場所の中心地に男はいた。
鼻歌交じりに露店を眺め、威勢の良い声がこの街を更に活気付ける。
「はっはー、すげぇなぁ」
「よぅそこの兄さん、買っていかないかい?」
「あぁいや俺金持ってないんで遠慮しときますわ―余計なトラブルにも巻き込まれたくないしな」
進む度声を掛けられ、その場その場で何とか切り返しあの手この手で躱していく、さすがにこの歳になると勧誘も断るのは慣れたものだ。
「キャッチよりしつけぇな、俺は早いとこカズマってのを見つけたいだけなのに」
ふと脇道を見つけた男は吸い込まれるようにその道に入って行く、人通りは少なく、ゴミは散乱し、塀の上では野良猫同士が縄張り争いをしている。
ようやく静かになったと男は呟き、建物の隙間から見える青空をただ口を開け眺めながら奥へと進む、すると体格のいい男三人がユウを取り囲む。
「おいおい兄さん、こっから先は通行料を払ってもらわないと通れないよ?」
ニヤニヤと薄ら笑みを浮かべ如何にもな脅し文句、金が欲しいなら最初から言えよと心の内で考え。
「上等だ、舐めんじゃねぜぞゴロツキ共が!」
手に持った荷物を差し出し。
「これでいいでしょうか?」
「へへ、物分かりのいい兄さんだ―通っていいぜ」
「あはは、ありがとうございます!」
三人の間を通り路地の更に奥を進む。
「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ―現地人と喧嘩なんてしてられるか、時間の無駄だ」
「ちょっと待って、これあなたのでしょ?」
振り返るとそこには少女が立っていた、まだ十代位のその少女はユウの先程差し出した荷物を手に持っており、それをこちらに突き出している。
「おぉ、さすがだなお嬢ちゃん―取り戻す手間が省けたよ」
「何? もしかしてわざと渡したの?」
「うん? あぁ、いちいちあんなの相手にしてられないからな、俺には早く会っておきたい奴もいるし」
「本当大人ってバカばっかりね」
「お嬢ちゃん、大人をバカにしちゃいけないよ? それに物を渡して争いを避けられるんだ、わざわざ痛い思いする事ないだろう?」
すでにここで子供と大人の考えの違いが如実に表れている、少女は眉を顰めユウを睨み付けると。
「ズルい大人だ、そんなんだからカズマにいいようにされるんだよ」
ユウは耳を動かしほくそ笑み、だがすぐ優しい笑顔に切り返し。
「お嬢ちゃん、カズマの知り合いかい? 実は丁度そいつに会いたくてここまで来たんだ―案内してくれないか」
「あんた―あいつを支持してないの? もしかしてあいつの回し者!」
腰に手を回し何かを取り出す、それは影の中不気味に輝く短剣だった、先程までの少女の目ではなく、戦士の狂気じみた光が宿る、ユウは考える「本気か?」と―、ふと視線を外した瞬間だった、一気に間合いを詰められ切っ先が顎を掠める。
「おいおい! いきなりそれはないんじゃないか!」
間一髪避けるが、すでに少女は次のモーションに入っていた、横一閃に薙ぎ払うような型、だがユウとて黙って殺られる訳にはいかない、しゃがみ込み次のチャンスを伺う。
手を折り畳み脇腹に納まった拳は飛び出す機会を待ち、頭上を剣が通り過ぎた瞬間、あの時と同じように上空に向かって拳が伸びる、伸びた拳は的確に少女の握り手に当たり思わず獲物を放った、すかさず襟を掴み壁に押し当て自由を奪う。
「お嬢ちゃん、いきなり酷いじゃないか、お兄さんはガッカリだよ人の話も聞かず突っ込んで来るなんて」
「ぐっ、お前何なんだ!」
「俺か? 俺はユウ―カズマにお仕置きをしに来たお兄さんだよ」
ニッコリと笑い力を緩め少女を解放する、咽返している様を見たユウは慌てて背中を擦る。
「あぁごめんよ! ちょっと力み過ぎたね! 大丈夫かい?」
「あんた、本当にカズマを倒しに来たの?」
「勿論さ嘘じゃない、だからあいつの事詳しく教えてくれないか? この世界で何をしたのか」
少女は壁に体を預けると重い口を開く。
カズマがこちらの世界に来たのは一年程前だ、最初は物珍しい漂流者として―だが徐々にカズマは本性を曝け出す、こちらに来る前に神から貰った物は魔法関係のステータスがオールカンストし、誰も扱えない最上位級の魔法をいとも簡単に使用していた事、加え現世では何かしらのいじめを受け性格が歪んでいた事、自分に逆らう者には容赦しない事。
まさに独裁者、従う者には与え、逆らう者からは全てを奪う―やがて大人達は抗う事を諦めカズマを王と認めざるを得なかったという。
「随分と性格の歪んでる奴だな、まるで三国時代の董卓だ」
「トウタク? よく分からないけど―女にもだらしないって聞いてる、好みの女だけ集めてハーレムみたいなのも作ってる、自分から入ったりしてる奴もいるらしいけど」
「ますます董卓だ、こんな世界で酒池肉林やって楽しいかねぇ」
驚きを通り越して呆れ返るユウ、立ち上がり。
「女遊びはまだ年齢的に早いぜ、カズマ君よ―能力を貰ったばかりに暴走してんだろうな、そんで多分大人を憎んでる」
「そう、大人を排除しようとしてる―あんたみたいな腑抜けが多いからってね、もう大人が世界を縛る時代は終わったんだって」
拳を握り込み節が鳴る、見上げたその瞳、とても冷たい氷なんてものじゃない―もっと魂の奥底が凍り付く様な。
「お嬢ちゃん―カズマんとこに案内してくれ」
「え? いいけど―まさかあんた」
口角が不気味に上がり。
「そのまさかだよ、さぁて―お待ちかねの、お仕置きタイムだ」