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兄さん異世界に立つ

 目を開けば男は薄気味悪い森の中にいた、辺りからは獣の鳴き声や木々が囁く音しか聞こえない。


 静かに空気を吸い込み。


「ふむ、とりあえず呼吸は出来るか―空気中の大気成分は地球のそれか近い構成という事、だがそれ以前に」


 冷静に状況を整理していく、呼吸可、重力も通常、体の調子も頗る良い―だが問題があるとすれば。


「言葉が通じるかどうかだな、初めての別世界だ、最初の壁と言ってもいい―はぁ、しかしなぁ」


 男が顔を下に向ける。


「なぜ俺は全裸なのだ! 服くらいそのままでもいいだろうが! ターミ〇ーターかよ!」


 男の悲痛な叫びが森の中で木霊する。


 宛てもなくトボトボと森の中を全裸の男が歩いている、これが現世ならば見つかれば即逮捕だろう、体のいい大きな葉を見つけると徐に腰に巻き付け何とかパンツ代わりにはしたが。


「すぅすぅして気持ち悪いな、だが無いよりはマシか―いきなりのファーストコンタクトが全裸の男だったらこの世界の住民に不安を抱かせ兼ねないからな」


 顎に手を伸ばし、綺麗に形の整えてある髭を撫でる、何とも自信に満ちた表情だ、全裸でなければ普通の年上お兄さん位にしか見えないのに―。


「そろそろこの世界の住民第一号に出会いたい訳だが、森の中じゃそう簡単に―お?」


 高く伸びた木々の間から見えた灰色の煙、それはここに人がいると知らせるように空に伸びていた。


「よっしゃ! 一先ず発見! 早速ファーストコンタクトといこうか!」


 煙に誘われるように森の中を駆ける男―勿論全裸に葉っぱ一枚で。




 煙を垂れ流していたのは一軒のログハウスのような小屋だった、その小屋の周りは綺麗に手入れされ雑草も僅かしかなく、大きな切り株には斧が一本突き刺さっている、窓があるようだが中の状況は確認できない。


「ここまで来たはいいが―どう切り込むか、流石にこの恰好じゃ不審者だしな、うぅむ」


 茂みの中に座り込み必死にアタックの仕方を脳内でイメージしている。


「やっぱここは派手に登場、いやいや返り討ちに合うかもしれない―行き倒れ風か? しかしそれではあまりにも露骨すぎるし」


 首を傾げ眉を顰め脳内の細胞を総動員し作戦を考えている時だった、小屋の方から扉が開く音が聞こえた、四つん這いになるような体勢で茂みの中から様子を伺う、そこには親子らしき一組の姿、外に出たのは大柄の男で家の中にはまだ幼い少女が確認できる。


「家族、か―益々不利だ! あんな幼い少女の前にこんな格好で出れるかよ!」


 頭を抱え自分の今の現状を把握しての決断だ、ここは話かけるなら父親らしき人物の方だろう、だが。


「やべぇよ、あの人超怖えよ―何であんなデカいんだよ、くっそ言葉も通じるかわかんねぇし」


 その時後ろの方で音がし更に草が掻き分けられ座っている男の頭上から影を落とす。


 恐る恐る振り向くと、大柄な男が目だけをこちらに向け、その表情はまるで何人も殺ってそうな強面だった、引き攣った笑顔で右手を上げ。


「ハ、ハロー、元気ですか? 俺はユウと申しまして決して怪しい者では無くてですね」


 顔面蒼白、汗が滝の様に流れ上げた右手は激しく動揺している。


 ずいっと顔を近付けて来た大男はユウの頭を掴むと、ドスの利いた低い声で。


「お前―俺の家の周りで何してんだ? しかもそんな恰好で」


 ユウは驚く、まさか言葉が通じるとは―と、思わず立ち上がり。


「うおおお! 言葉が分かる! おっとそれどころじゃねぇな―いや実はですね」


 ユウは男に事情を説明する、何故ここに来たのか、どういった目的なのか、男は黙って話を聞き続けた―、勿論お灸を据えに来た事は上手く誤魔化しながら。




「なるほどな、それでこっちに来た際服まで無くなっちまったと」

「そうなんですよ、でもほらお子さんいらっしゃるでしょう? さすがにこんな恰好じゃ教育上よろしくないと思いまして、ここで一人悩んでた訳ですよ」

「事情は分かった、つまりお前さんもカズマ様と同じって訳だな」


 カズマ、それがこの世界に飛んできた少年の名だ、ユウはその名前を脳に焼き付けると。


「あのそれでですね、そのカズマってのは何処に?」

「様を付けろ様を、あの方は今王都にいらっしゃるはずだ、お前さんも同じ転移者ならすぐにでも謁見が可能だろう、しかしなぁ」


「え? 何でしょう?」ユウは男に舐めるように眺められる、すると。


「まずはその恰好をどうにかしろ、葉っぱ一枚で謁見なぞ聞いた事ないわ」


 照れくさそうに頭を掻きながら「仰る通りで」男は首を小屋の方に傾げるとずかずかと歩いて行く、付いて来いと言わんばかりに。


 静かに小屋の入口に立つと慎重に中を見渡す、どうやらあの幼女は今は別な部屋にいるようだ、軽く息を吐き出し安心した時。


「葉っぱ一枚のお兄ちゃんがいるー、お尻丸出しだぁ」


 臀部を叩かれ驚き奇声を発し机の陰にしゃがみ込むといつの間にかユウの後方にその幼女はいた、思わず「忍者か君は!」何とも捻りの無いツッコミだ。


「ほら、これを着ろいつまでも全裸のままじゃ示しがつかないだろう、同じ転移者なんだから」

「同じかどうかは俺の目で判断します」

「うん? 何か言ったか?」

「あぁいやいや、そうですよねカズマ―様に失礼ですよね」


 苦笑いを浮かべ貰った服を着込む、意外と着てみるとそんなに差はなかった。


「俺のお古で悪いな、だがあんたなら丁度いいだろ?」


 それなら納得だと頷きながら装着を終える、鏡が無いので確認できないが恐らく言うなれば。


「村人Aって所か―、ははは」



 良くしてもらった家族に別れを告げ、そこそこ均された道を歩いて行く、少々の食料を渡されたユウは思わず溢す。


「こっちの世界の人間って何か優しいんだな―、向こうじゃ見て見ぬふり決め込む連中のが多いってのに―服も貰って食い物まで、本当にありがとう、おっさん!」


 一緒に貰った地図を広げ、教えてくれた方角を確認する、王都までは幾つものルートがあるがユウは。


「この世界の情勢やら色々情報を手に入れたいからな―、こっちのデカい街を通るルートで行くか、カズマって奴の評判も聞いておきたい所だし、良い子だといいんだけどなぁ―生意気だったらどうすっかなぁ、まぁそん時はそん時で考えりゃいいか」


 空を仰ぎ見ながらいつの間にか街道を歩いている、まずは情報収集の為東方にある大きな街を目指して。


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