1話 『わぁ、おはようございます!勇者さまっ!』
気をつけているのですが説明が多くなりがちです。
もさもさです。
(---JIRIRIRIRIRIRIRI...!!)
---毎朝この音を聞く度、怠くなる。
「ん...あぁ〜」
ベッドの上で伸びをしながら毎度自然と出てしまう声を上げ、そのままの動作で枕元のいつも同じ当然のように手の届く場所にある目覚まし時計を(カチッ)止める。
「ふぁぁ、朝か...」
と、もう人生何度目かと思う欠伸混じりに自然と口に出た呟きと共に、目覚まし時計を手繰り寄せ時間を確認する。
「ん?」
---一瞬、止まる時間。
「うわぁっ! ヤバッ!!」
半開きだった瞼がカッ!と開く。それと同時に僕は少し裏返ったかのような情けない叫び声を上げて、身体に掛かっていた布団を盛大に跳ね除けながら飛び起きる。もう修正が出来無い事実の確認をもう一度パニックした脳で考えてみる。
---そう、寝坊をしたのだ。
(マジか!? なんで時間通りに鳴ってないんだよ!)
それを脳内で叫んでからの僕の行動/動作は早かった。既に予定していた起床時間から30分と少しオーバーしてたけど、人間焦ってやる気になれば色々早いものだ。僕はすぐに部屋着兼パジャマをベッドに脱ぎ捨て昨晩コーディネートしてソファに畳んで置いといた服を急いで着て仕度を始める。
(学生服ってホント便利だよな...毎日それ着るだけで良いんだから、ほんと)
ここ最近は毎朝着る服を選んでゆっくりのんびり30分以上かけて支度してたけど、昨日寝る前にやっておいた準備のおかげで随分な時間短縮にもなり15分程で済ませた。驚きの新記録樹立!!
使い方間違ってるけど【備えあれば憂いなし】と僕は都合の良い解釈をした後に、玄関でわたわたと下ろし立ての靴を履いた。
---誰も居ない部屋なのに背を向けたまま「いってきまーす」と声を出してドアを開ける。
「あぁ、また言っちゃったよ...」
数週間前に僕はこの部屋に越して来たばかりで、それまで此処より離れたところでじぃちゃんとばぁちゃんの3人で暮らしてた。まだ一緒に住んでるって感覚が抜けきれず無意識に言葉に出るけど、その度祖父母の顔が頭ん中に浮かんでくる。なんか離れてても見えない何かで繋がっているような気がして少し嬉しくなった。
状況変わらずで急いでたけど、なんか少し気持ちが落ち着いた。
ドアを閉め(バタン)鍵をかけて、端にある階段からドタバタと2階から1階へ急いで降りて最寄りの駅まで走り出す。
---大事な登校初日/入学式の朝に寝坊した、僕だった。
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「えぇっと、ああ、こっちで...その先を右!」
僕の住んでるところから駅までは徒歩10分ほどで着く距離。走ればもっと早く着くけど、まだまだ馴れない道だ。ある程度の道筋は分かっていても、時折進行方向/大体の位置の確認を声に出しながらせかせか走る。駅まで間近に迫った辺りでポケットからスマホを取り出し時刻表アプリで次の電車の時刻を確認した。
「よし!次まで後6分ある!」
次の電車まで6分後、十分に間に合う。券売機で目的地の最寄り駅までの切符を購入し、ついさっきまでの全力で走った勢いよりも大分落ち着いたが、それでも足早に改札を抜けホームまでの階段を一気に駆け上がった。
「はぁ、はぁ...マジで魔法とか瞬間移動とか使えたら便利なのにな」
ようやくホームに着き(ふぅ...)僕は息を整える。ゆっくり2回ほど深呼吸。呼吸も落ち着いて、少ししたところに電車が入ってくる。電車に乗り込み(プシュー)とドアが閉まり電車は目的地へ発進した。
(危なかったぁ...この電車に乗れてなかったら、もっと遅刻ギリギリ着くか遅刻だったよ!)
目的地の最寄り駅までは4駅、10分から15分ぐらいの時間はある。僕はリュックから入学式ご案内と記載があるA4サイズの書類や他のことが書かれている書類など数枚取り出し、ドアに持たれ掛かりながらボーッと上から順に目を通し、備考の欄で目を止める。
[入学式ご案内]
備考:本校の入学式は簡易的なものであり、入学式終了後に引き続きその場で生徒自己紹介及び、オリエンテーションを行う為、保護者の方に対しては申し訳ありませんが不参加とさせて頂きます。また当日の生徒の服装については私服でご参加頂くようにお願い致します。
「入学式、私服かぁ...」
ボーッと書類を眺めていたせいで気が緩み、ふいに呟いてしまった。周りの他人が一瞬こっちを見た。(わー、少し恥ずかしい) まぁ私服だったのが残念だという訳でも無い。そもそも僕にとってはありがたい。祖父母との生活は裕福でも貧乏でもなかったけど、入学式の為だけにスーツを買わなきゃいけないとこだった。
(もし必要になれば自分でも買えるようなホントに安いやつ買えば良い)
まぁ最後の最後まで(特にばぁちゃん)本当に学校に行くのか信用してなかった。だから入学通知が家に届いた時は、なんだかんだ安心して色々と喜んでくれたりした。じぃちゃんと2人してすごく盛り上がってた。そんなんだったから入学式に保護者は参加しなくて良いって伝えた時は、なんだか寂しそうだったなぁ。
きっとスーツも必要だって言えば何にも言わずに買ってくれたんだろうけど、既に祖父母には一人暮らしの為の引っ越し代や当面の生活費まで工面して貰ってる。やっぱり遠慮するよ。じぃちゃんとばぁちゃんは、僕が大学に進学すると思って前からコツコツ貯金してくれたお金らしい。だから今回はその言葉に甘え必要な分だけ借りることにした。
(そう、出費ばかりするのダメだ。使うなら自分達の為にお金使って欲しいよな)
---そんなことを考えていると、目的地への到着を知らせる車内アナウンスが流れた。
《次は〇〇、〇〇です。お出口は左側です。〇〇線はお乗り換えです。お客様に.....》
電車が停車しドアが開くと同時にホームへ出て改札口へ向かう人の流れに沿って僕も歩いた。改札を出て学校がある方向の出入口へ向かう。駅の出入口を出ると目の前にはオフィスビルが立ち並んでいる。今日から通う学校はここから前に見えるオフィスビルが並ぶ表通りから1本脇に入った裏通りにあるんだ。
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「えっと、前に説明会で来たときは...っと」
学校には一度行ったことがあるんだ。数ヶ月前に参加した入学説明会の時に。
僕はその時の記憶と入学式ご案内に同封されていた地図を見ながら目的地の学校へと急ぎ気味に歩き出す。
(うーん、この辺だったかなぁ?)
少し進みオフィスビルの脇の路地から裏通りに出ると景色が少し変わる。表通りは割と新しいビルだったり最近出来ただろうビルが並んでたけど、裏通りは雑居ビルが並んでいたりする。定食屋や昔ながらの商店もちらほらあったり、少しだけ下町という感じだ。
「お、あった!あのビルの2階、2階だ」
駅から急ぎ足で5分ほど歩き、僕は学校の前に着いた。スマホで時間を確認すると入学式の開始時間10分前だった。学校の入っているビルの外観は特になんの特徴もなく、ただただ古いビルって見た目だ。
多分僕が生まれる前から建ってんだろうなぁって感じ。1階にカフェっていうか祖父母が昔TVで観てた再放送の刑事ドラマに出てた【喫茶店】が入っている。
---もう一度、入学式ご案内を見る。
[入学式ご案内]
場所:本校内講堂にて
「うん? 校内講堂って...あるわけ無いじゃん!!」
思わず言葉に出てしまったけど、突っ込みを入れずにはいられない。どう考えたって、このビルの大きさで事務所と同じ階に講堂なんて大層なもんが入ってるなんてありえないんだよ。僕が前に説明会で来た時も、さほど広く無さそうな2階は全部学校の事務所だった。事務所の中に2つドアがあったけど、想像するに物置か応接室だろうなぁって感じだったから。もしかしては...いや、無いな。
「まぁ時間もギリギリだし、今更こんなとこで考えててもなぁ」
とりあえず事務所の人に講堂の場所を聞いて急ごう。最悪遅刻で途中から入学式に参加しても、道に迷いました!って後で言い訳も出来る。そんなことを考えながら喫茶店の脇にある階段を上がり2階の事務所の扉の前に僕は立つ。
【--- 学校法人 エクレツィア勇者学院 ---】
事務所の扉には学校名が印刷されたプラスティック製のプレート看板が貼ってある。入学説明会で来たときも思ったが相変わらず胡散臭い感じ。僕は騙されて変な宗教に入信しちゃったんじゃないのだろうか?と改めて思った。
意味もなく目を閉じて、もう一度目を開いて確認してみる。
「うん、変わって無い」
ともかくこれが今日から僕が通う学校だ。心の中で(よし、行くか!)と少し気合を入れ、この怪しい学校の事務所のドアを恐る恐る(ガチャ)開ける。
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「あの、おはよぅ...」
『わぁ、おはようございます!勇者さまっ!』
事務所のドアを開け、おはようございますって言いかけたとこで中に居た相手と挨拶が被った。むしろ相手の声量が僕より上なのと唐突に勇者さまっ!とか言われるし。しかもテンパって僕の挨拶が完全に中途半端な感じに。
「え、あの、えぇ?」
「あはは◎ ごめん、冗談だよ冗談」
呆気に取られた表情の僕を見て、事務の制服を着たお姉さんがニコニコ笑ってる。もう一度、目の前のお姉さんに言いそびれた挨拶を返した。
「ははは、おはようございます...なんかすみません」
「いーよいーよ♪ 最後の一人のキミが全然来ないから、お姉さん初日にバックレたんじゃないかって心配しちゃったぁ◎」
「あの、ちょっと寝坊しちゃって...HAHAHA」
---あぁ、なんだこの空気。すっかりお姉さんのペースに巻き込まれてなんか...辛い。
「あー、面白かった♪ わたしは事務の佐倉です◎」
「下の名前は響子だから、キョーコちゃんって呼んでも良いよー♪」
「キミは逢坂くんでしょ? よろしくねっ!」
テンション高いお姉さん【佐倉さん】は受付の机に両手をついて身を乗り出して(顔がすっごく近い!) 簡単に挨拶と自己紹介をしてくれた。なんか佐倉さんはキラキラって感じのオーラが眩しい人だなぁ。あと近かったから香水の香りがしてドキドキした。さっきはテンパってうまく挨拶が返せなかったけど...
「はい!逢坂正です。よろしくお願いします!」
「うんうん♪ 元気な返事でお姉さん嬉しいよ◎」
(よしっ)ちゃんと返せた。ニコニコと笑顔で僕を見てた佐倉さんが何かに気づいて、あ!という顔をした。
「ねぇ!もう入学式始まるじゃない!」
「わぁぁぁ、やば!佐倉さん講堂って、どこですか?」
「講堂はそのドアの向こう側だよ!逢坂くん、早く早く!」
---と佐倉さんが指を刺した先には、なんの変哲も無いただの事務所のドア。
「え?ここですか?」
「そだよ♪ 逢坂くん反応面白いから、もう少し話したいけど急いだ方が良いよ◎」
「でもこのドア、講堂のっぽく無いというか、本当にココで?」
「あー、もう!良いから良いから、入る入る!」
佐倉さんはとりあえず、このドアの先の部屋に入れば分かるからと急かしてくる。確かにもう時間も無いし、目の前の部屋に入るか入らないかで躊躇ってるのもなんだか馬鹿らしい。ええい、なるようになれだ。
「わかりました、わかりましたから!」
「あ、講堂入ったら席は最前列に座ってね!先に来た子も前の方にいると思うから◎」
「了解です!前の方に座れば良いんですね」
「うんうん◎ じゃあ、また後でね♪」
---僕はドアノブを回し、ドアを開け講堂(?)に移動する。
プロローグ+1話
アニメのAパートとBパートのノリで書いてみました。
※文章間の空白増やしました。