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ソムルの戦い、ヴァイスとの会遇

 ソムルは標高1300mの山に囲まれた800人ほどのソレルヴァン北部にある小さな町である。

 特筆するような資源があるわけでは無く地形関係などで昔から戦略的経済的に価値のない場所と言われているが、そのおかげで長い混乱期でも戦火にさらされず、この世界でもっとも平和な場所と評されることもあった。

 だが今、その町にオルディネオのルドーが4機、あちこちに銃弾を撃ち込む。

 建物は破壊され火の手が次々と上がり夜の街を赤く染めていく中、住人たちは急いで避難用のシェルターへと駆け込む。


「早く急いで!」

「皆さん落ち着いて地下のシェルターへ退避をしてください!」

「ちくしょうが……」


 戦争とはほとんどかかわりが無く、配備されている兵器も歩兵用の銃火器を除けば戦車がたったの10台のみ、そもそも戦える者も民間人がたまに訓練するぐらい。

 街が破壊されても彼らではマトモに反撃するなど出来るはずもなく、シェルターに人々を退避させるぐらいしか方法が無かった。

 救援要請を送ったものの、果たして彼らが来るまでに町が残っているのだろうか。住民に不安と恐怖が充満していく。

 そんな人々のことなど知る由もない、知ったとしても何の意味もないルドーを操作する人形兵(ドールズ)達は命令されたまま町を破壊していく。


「……?接近反応?」


 レーダーが遠方より高速で移動してくる物体の反応をとらえた。

 味方ならばワープ空間を通じて現れる。ゆえに敵で間違いない。

 そう判断した4機は敵がやってくる方角に機体を向けて迎撃の体勢を取った瞬間、1300メートルある山の上半分が弾け飛んだ。

 あえて山を破壊したのかと身を守るが、山の破片はこちらまでは届かなかった。

 代わりに1機の目の前に件の物体、リュウオーが無茶苦茶な回転をしつつ超高速で突っ込んできた。


 ところで、リュウオーの機体装甲に使われているプロトガージュウム合金はその名の通りガージュウム合金の試作品で、頑丈さや耐久性、熱量兵器への耐性などはガージュウム合金よりもずっと上の合金である。

 欠点として製造費用がガージュウム合金の7倍、重さが9倍にもなってしまう。

 ゴウエンゴーやセイロウガなどは約1,200tであるのに対し、リュウオーは約10,8000t以上にもなっている。

 比べてルドーに使われている装甲はガージュウム合金より少し劣る合金であると同時にかなり軽く、その重量は約700tほどでリュウオーと比較した場合おおよそ15倍もの差だ。

 そんなルドーにマッハ42で飛んできた1万トンのものすごく頑丈な物体がぶつかるとどうなるかは明らかだ。


 反応が遅れてリュウオーと衝突したルドーは原形を留めることなくバラバラになってはじけ飛んだ。

 リュウオーは止まることなく目の前の山にぶつかり、その衝撃で町一帯を覆うほどの土煙が舞う。

 ついに現れた目標に対してルドーは見えなくともリュウオーがいるだろう方へすぐさまマシンガンを放つ。

 何かに当たったような金属音が鳴るが、土煙がこれでもかと舞っているせいでどうなったのかが分からない。

 残りの3機は確認のためは横に並んで慎重に前に進ませたとき、青いプラズマ弾が次々と迫ってきた。

 両脇の2機は横に飛び退いて回避するが、反応できなかった真ん中の1機はプラズマ弾をまともに受けて倒れ伏す。

 砂煙が晴れると腕部連射砲を構えた無傷のリュウオーが立っていた。


「ど、どうだ、このヤロ……、オベェ!」

『ミツヒロ、大丈夫デスカ?』

「そりゃ、あんな速度で、山に突っ込、めばそうなるでしょうが……」


 超高速でソムルまで駆け付けたはいいが目の前の山をうまく回避できず衝突、そのまま機体が回転しまくった状態でなんとか先制攻撃を行えたが、光広は我慢できず吐いてしまった。

 AIのロンが用意したエチケット袋に嘔吐物を吐き出している間に、この手の事にはなんだかんだ慣れているレドは気分を落ち着かせモニターに映し出された街や攻撃を続ける敵の状況を把握しつつ町の人と通信を取ろうとする。


「こ、こちらソレルヴァンの者だけど誰かいるかい……」

≪こちらソムルのエイアと申します! 救援感謝します!……大丈夫ですか?≫

「お見苦しいところを見せてごめんねぇ。これより戦闘を開始しますが住民たちの避難はどうなってます?」

≪住民は全員シェルターへ避難しております!ご武運を!≫

「お任せあれ。じゃあミツヒロ君、無理せずいくよ!」

「ふぅ、ふぅ……。りょ、了解です!」


 出すもの出し切った光広が息を整えて機体を臨戦態勢へと移す。

 一方のルドー達はマシンガンが意味が無いことを察し、剣を構えると赤い炎が剣を包む。

 リグン達が戦っていた機体と同じヒートブレードを手に、こちらへと向かってくる。


「灼熱鋼のか!あれは食らうとどうなるか不明だから近づけないで!」

「了解!腕部連射砲、龍尾砲!」

『腕部350mmプラズマ連射砲、900mm龍尾プラズマ砲用意』


 腕を構えなおし、また尻尾を肩より上まで伸ばし先端部分を開いて同じく砲口を展開する。


「攻撃開始!」

『発射』


 合図とともにそれぞれから狙いを澄ましてルドーへ放つ。

 当たればルドーの装甲では耐えきれない攻撃だが、横へ素早く移動したり身を低くしつつ回避をするなど、少しずつであるがこちらへと近づいてくる。

 その動きの良さは先程リグン達が戦っていた相手と同じタイプであると思われる。


「不味いか!?」

「まだ点じゃ当てらないか!?範囲攻撃できそうなのあったよね!?」

「口部火炎砲なら!ロン用意!」

『了解』


 攻撃をあえて左側のルドーに集中させ牽制しながら口部へエネルギーを溜め始める。

 左側のルドーは集中された攻撃に近づくのが困難になるが、右側のルドーは攻撃が緩んだためか速度を上げて急接近をしてくる。


「来たぞ!」

「チャージは!?」

『スデニ完了。タイミングハオ任セシマス』

「任された!火炎砲、発射ぁ!!」


 ルドーが60メートルの距離まで接近し剣を振り上げたタイミングで頭部を向けて口部から赤い火炎放射を放つ。

 400万度以上の高温が直撃してしまったルドーは火炎砲の勢いに押し戻されながらあっという間にドロドロに溶かされていき跡形もなく消え去った。


「いよっしゃどうだ―――」

「横ぉ!」

「えっ?」


 喜ぶのもつかの間、ロンが押さえていた残り1機に至近距離まで近づかれヒートブレードを横なぎで斬りかかってきていた。

 マズイと思っても反応が遅れてしまったために剣は胴体に直撃してしまう。が、鈍い音が響くだけで胴体には傷がつかず、逆に剣にひびが入る。

 人形兵(ドールズ)もまさか灼熱鋼が通用しないことに焦るがこのまま引き下がるわけにもいかないためせめて体勢を崩させようと盾を自身の前に掲げて勢いをつけて体当たりをかます。

 しかしリュウオーは一切びくともしない。重量差がありすぎることを知らないがために起きた事で、だから隙となってしまう。


「龍炎拳!!」


 拳に赤い炎を纏わせ勢いよく横に振りぬく。

 それでも何と反応し剣で防ごうと試すがそのまま剣もろとも切断され溶かされた機体はそれぞれゆっくりと左右に倒れた。

 振り抜きすぐさま連射砲を構えなおし、どこかに敵が潜んでいないか警戒をする。 

 そのまましばらく待ち続けて数分。特に敵も出てくる様子もないため構えを解いて、一息つく。


「……ぷはぁ~~。た、倒したぁ……」

「いやこれ最後の攻撃が防げたかた良かったけど、危うく死ぬところだったかもしれないからね!」

「す、すみません……」

「今度は倒しても気を抜かないように」

「了解です」

≪親父、聞こえるか!≫


 戦闘指揮所から通信用衛星を介してクリムが声をかけてきたため応対する。


「クリムどうした」

≪リグ爺たちの方また増援が結構来ちまって、悪いけどそっちに行くのもう少しかかりそうだ!≫

「げぇ、本当にぃ?大盤振る舞いだね敵さん」


 嫌な報告だ。もしこっちに増援が来たらと考えるとうんざりしてしまう。


「報告ありがとうクリムちゃん」

「こっちにも来るかもしれない、このままここを戦場にできないからすこし離れた場所に―――」

『ミツヒロ、レド様!ワープ反応デス!』

「追加かッ!?」


 悪い考えが当たってしまう。

 いつ敵が出てきてもいいようにプラズマ砲を構えなおす。

 ワープ空間が発生するも、そこから出てきたのはルドーがたったの1機だけ。武器らしきものは腰に携えた2本の剣のみだ。

 ただ機体カラーが白く、頭部には金色の羽飾りが装飾されている。

 明らかに今までの敵とは違うというが一目でわかるが、それがどうしたとばかりに先制のプラズマ砲を一斉に発射する。

 だが相手は避ける動作を一切見せず、無防備のまま突っ立ったままだ。

 何を馬鹿な、そう思ったのもつかの間。

 直撃したプラズマ砲はルドーの装甲にダメージを与えられず弾かれてしまったのだ。。

 その光景は見ていた者すべてにとって驚くべきものだった。


「なんで!?さっきまでは効いてたのに!?」

「明らかにまずい!飛んで離れろ!!」


 レドの指示に従い射撃を続けながら空中へ退避しようとする。

 だがこのルドーは先程まで戦っていた機体とは比較にならない速度で攻撃をかいくぐりリュウオーの懐に潜り込む。

 その動きに驚く間もなく胴体に敵の左拳を叩き込まれる。

 どんな攻撃にもびくともしなかったリュウオーの機体全体を衝撃が襲い後ろへ吹っ飛ばされて岩山へ激突する。


「「ウワアアッ!!!」」

≪ミツ、親父!?≫


 衝撃を緩和しきれず悲鳴を上げてしまう。

 機体は無事ではあったためどうにか体勢を立て直す。


「だ、大丈夫だよクリム。ミツヒロ君も大丈夫?」

「なんとか……」

≪おいなんだよあいつ!?リュウオーがぶっ飛ばされだぞ!?≫

≪操縦者が違えば"強化(フォルズ)"の質も違ってくる、つまり使徒機(アポストラー)の強さも変わる、だがこれは……!≫


 次の攻撃に備えどうにか構えるが、相手は追撃のチャンスがあったにも関わらずまったく微動だにせずただこちらをじっと見つめるように機体の真正面を向けているだけ。

 それだけの余裕を持っている相手だという事は理解できた。相手の一挙手一投足を見逃さないように全神経集中させ見据える。

 そのままどちらも行動を起こさないまま2分ほど過ぎようとした時、ルドーの胸部が開く。

 コックピットからは戦場に似つかわしくない白い修道服を着た少女が金色の髪をかき上げながらゆっくりと現れた。

 

「なんだ!?」


 とても戦場に赴く格好で無い、見た感じとても若い少女が出てきたことに驚く。


「龍の機体に乗っている者、聞こえますか?」


 コックピットに少女の呼びかける声が聞こえる。目の前の彼女の手には通信機器のようなものが握られている。

 あれを使ってこちらに交信を試みているのだろう。

 

「レドさんどうします!?」

「怪しさ満点だけど、まっとうに意思を持った人間が現れたんだ。せっかくだから相手してやろう」


 罠の可能性も考えられるが今回のオルディネオ側の情報がほとんどないこちらにとっては情報がちょっとでも得られる可能性があるならあえて誘いに乗ってしまおう。

 ここはレドに交信を任せて光広は様子を見ることにする。

 

「聞こえてるよお嬢さん」

「それは良かった。答えてくれなければ悲しみに暮れそうでした」

「あらそう。それで君はオルディネオの関係者でよろしいのかな?」

「もちろん。本日はこの場を借りてご挨拶をと思い参上いたしました」

「わおそれはそれは。ふざけんなと言いたいけど今回はぜひともお願いしようかなぁ」

「どうもありがとうございます」


 なんで挑発するように言うのさとレドの発言にひやひやするが、少女は特に気にすることも無く恭しくお辞儀をしてから名乗りを上げた。


「教団オルディネオの現教主にしてヴァセ・ヴァイスが嫡子、ベール・ヴァイスと申します。以後お見知りおきを」

≪ヴァイスって!?≫

≪馬鹿な!?ヴァイスの子がいたというのか!?≫


 30年前にオルディネオが起こした争乱の首謀者であるヴァイスの名を聞いていた全員が驚きの声を上げる。


「娘って本当かい?彼の血縁をどれだけ探しても見つからなったのに?」

「皆様に見つからない場所におりましたおかげで残党狩りから逃れられたのですよ」

「あらそうなの。それで、準備できたから表舞台に出てきたってことかい?」

「いいえ、本当はもう少しゆっくりするはずがコウヨウが使徒機(アポストラー)とヴィシュタイトを製造したと小耳にはさみまし―――」

「なっ、お前らやっぱり父さんの失踪に関わってんか!?」

「ちょっとミツヒロ君!」


 父親の名前が出てきたことに光広が反応し相手に問いただそうとする。

 それを聞いたベールはやっぱりといった表情を浮かべて返事を返す。


「君らじゃ無駄だ、と言われてたのでもしやと思っておりましたが、彼の子ですか。親子そろって大変な合いましたねミツヒロ君」

「そんなことどうでもいい!お前ら父さんをどうした!なんかやらかしたら承知しねえぞ!!」

「ご安心ください。彼は何事も無く無事ですよ」

「信用できると思うか!?」

「あら信じれませんか?でしたらちょっと勝負します?」

「勝負?」

「そうです」


 あらあらといった態度で頬に手を当てて少し思案した後、左手を挙げる。

 それに合わせてベールの乗っているルドーが剣を持つと地面にこすりつけて1周して、地面に機体を中心にした直径100mも無い円を引く。


「円の外側に私を出せたらあたなの勝ち、というのはどうです?」


 目を細めて小さく笑う。

 ほとんど移動もできないような円でしなかいというのに自信満々で小馬鹿にした態度にカチンと来る。


「上等だ追い出してやらぁ!!火炎砲!!」

『口部火炎砲、発射』


 一切の躊躇もなく火炎砲を発射する。

 とはいえさすがに光広も本当に消し炭にする気はなく回避するだろうと一応考えたうえでの攻撃である。

 

「"竜巻(トルナーデ)"」


 しかしすでに機体に乗り込んだ彼女は素早く魔法陣を作り唱えるとリュウオーも引きずり込まれそうな天にも届く勢いの巨大な竜巻が発生し、炎はすべてそれに巻き込まれ炎の竜巻へと変化していく。

 その竜巻はベールが腕を払うような動作を行うと炎を纏った竜巻がリュウオーへと直進していく。

 急いで火炎砲を止め横に飛びギリギリのところで回避した竜巻はそのまま岩山を破壊しながら進んだのち消滅する。

 射撃武装は駄目だと判断し龍炎拳を発動させて接近し頭部をめがけて攻撃を仕掛けるが、2本のヒートブレードに阻まれる。

 再度頭部を狙ったり、肩部を狙って攻撃を繰り返すも、軽々と弾かれる。


「この!」


 ならばと地面を踏みつけ土を舞い上がらせ、わずかだが互いを見えなくする。

 その壁から左右より龍炎拳が迫ってくる。

 ベールはこれを剣で防ぐために構えようとして、左側の視界の端に隠れるように動く物体を捉え、左手の剣を放してからもう片方の剣で龍炎拳を弾く。

 弾いたと同時に背後から東部めがけて高速で迫ってきていた物体、先端にプラズマの刃を発生させていたリュウオーの尻尾を左手で素早く掴み取る。

 

「ヤバッ!?」

「あら、射撃以外も出来るの、ですね!」


 尻尾を掴んだままルドーを回転させてリュウオーを振り回し、4度ほど回転してから上空に放り投げる。

 放物線を描いてあわや地面に激突、というところでなんとか態勢を立て直しすぐさま攻撃を再開しようとするが。


「"魔弾(マージ・バル)"」


 ルドーの周囲にいくつもの魔法陣が生成され、数メートルはある魔力の弾丸が次々と放たれる。

 直感であれはマズイと判断し射線上から逃れるよう走って回避をする。

 数度か腕部砲を放ち撃ち落すも腕部砲以上の速度で放たれる攻撃にだんだん反撃できなくなり、低空に飛びすぐさま背後にに回るも魔法陣の向きに関係なく"魔弾(マージ・バル)"は放てるようで結局近づくこともできず、逃げに徹さなければならなくなる。

 

「バカスカバカスカと!」

「このまま回避だけしてもジリ貧だよ!全力転進するかい!?それとも拳飛ばす!?」

「拳は弾かれますからリグンさん達が来るまでどうにか……、いっそ突撃します!?」

「ぶつける気!?」

「円から出すだけなら!向こうだって受け止めようとは思わないでしょう!」

「それはそうか、と言えるかどうかわかんないけど……」


 出てきたタイミングから考えて相手はこちらの行動を観察していただろう。 

 なら山を吹き飛ばしたような体当たりを受け止めるような無謀はしないだろう。

 回避されたとしても最悪その勢いで距離を取るのもアリだ。


「なら"魔弾(マージ・バル)"は僕がどうにかするからタイミングよろしく!」

「了解!」


 レドが文字を描き魔法陣を作る。

 距離が離れているため魔力を多く籠めて発動する。


「"砂塵竜巻(サーブル・トルナーデ)"!!」

 

 ルドーの足元に魔法陣が現れ、砂塵を含んだ竜巻が渦巻く。

 風速120m/sの風が周りのがれきなどを次々と巻き込み、魔弾の魔法陣をいくつかかき消す。

 そちらはどうでもいいがさすがに少し機体がふらつくため、腰を落とし動かされないようにする。

 

(なかなかですが、これで吹き飛ばされるとでも……!?)


 リュウオーから多量の魔力が迸るのを感じる。

 あの時の拡散砲かと考えるがアレは使用中動きが止まっていたが、こちらは今も"魔弾(マージ・バル)"を避けるために移動を続けている。

 ならば何をするのかと期待を込めて待つ。


「レドさん行きますよ!出力全開、突撃ぃ!!」


 腕を機体までクロスさせ、スケイル・ブースターの出力を最大まで上げ、さらに強化魔法と飛行魔法を上乗せする。

 瞬時にマッハ42まで到達し、一直線に"魔弾(マージ・バル)"をかいくぐりながらルドーへ迫る。


「オォラアァ!!」 

「フハハハハッ!」


 それでもなおベールは面白そうに高笑いをする。

 激突音。

 甲高い音と同時に大地が波打ち、なんとか残っていた建物も完全に崩れ落ちる。

 衝撃波は空の雲を突き抜け、通信衛星にまで到達する。

  

≪おいどうなった!?≫

≪ノイズがひどくて確認できません!少々お待ちを!≫


 戦いを見守っていた戦闘指揮所では衝撃のせいか映像にノイズが入り結果が見えない。

 どうなったのか急ぎ映像を回復させようと対処する。

 

≪映像回復します!≫

≪……なっ!?≫


 映像が回復し現状が映し出される。

 無傷のルドーがリュウオーの腕を捉えている。

 リュウオーは今もなおブースターを噴かせスピードを維持しているがルドーを一歩も後退させれられず、ただ機体を揺らすだけだ。


「嘘だろっ……!」

「良い、凄く良いですねぇ」


 微笑みを浮かべてから、がら空きの胴体に蹴りを入れる。

 リュウオーの勢いを完全に殺し後方へ翻り宙を舞う。

 光広は意識が飛びそうになりながらもこのままでは引けないと何と意識を保ち再び突撃を仕掛けようとし、空を覆いつくす巨大な魔法陣が目に入る。

 

「"天の災いの光ディザストルー・リューミエーレ"」


 左手を振り下ろすと同時に40キロ四方を白い光が幾重も降り注ぎ、町を、リュウオーを呑み込んでいく。

 光は山々を砕きかけらも残すことなく消滅させていき、人が住んでいた跡も消え去っていく。

 1分間もの間降り注いだ眩い光がおさまる頃には、周囲一帯は最初から平地であったかのようになっており、そこに何かが存在した痕跡など無かったかのように作り替えた。

 ベールのルドーはその中で静かに佇む。


「終わりましたかベール様」


 隣に黒いルドーに乗ったグレイが降り立つ。

 手には魔力で出来た灰色の四角い物体を握っている。


「そちらも終わりましたか」

「えぇ。住民全員、拘束用結界魔法で封じ込めております」

「お疲れ魔です」

「滅相もございません。……ところで奴は、消し去ったのでしょうか」

「そうです、と言いたかったのですが」

 

 目の前の地面に"浮遊魔法(フロウテ)"を使う。

 地面のその下より、リュウオーがゆっくりと姿を見せる。

 機体には焼け焦げた痕がちらほらとあるが、それ以外は五体満足の状態である。


「あれを食らってこの程度で済んだと!?」


 ベールの魔法ですら軽微の損傷で済ませたことに、さすがに驚嘆を隠せない。


「直前で今まで以上の膨大な魔力を感じました。おそらく強化魔法を防御に重点を置き全魔力を注いで防いだのでしょう」

「だからといえど……」

「私の想定以上であったということです」


 敵の能力に深く関心をしている時、リュウオーのコックピットでは少しの間気を失っていたレドが目を覚ます。


「どうなった……。ミツヒロ君、大丈夫か!?」

「……」

「おい、おい!?」


 ベルトを外して光広に駆け寄り肩を揺らすが反応がない

 まさかと思い脈に手を当てるが問題なく動いている。

 息もしているようだが、いくら声をかけても返事が無いのを見るに気を失っているようだ。


「息はある。魔力を感じない。魔力を一度に使い過ぎた?」

『レド様、聞コエマスカ?』

「ロン!今どういう状況!?」 

『光広様ノバイタルハ正常デス。マタ依然トシテ敵ハ健在』

「……らしいね」


 目線をモニターに移せば、何食わぬ顔でこちらを浮かせる白いルドーといつから居たのかその後ろの黒いルドーが目に入る。


「機体は動かせる?」

『稼働ハ可能デスガ、内部ニダメージアリ、武装使用不可』

「それはまぁ、最悪だねぇ」


 聞きたくなかった報告。

 最悪の現状に半ば諦めかけるが、せめて光広はどうにかしないと思案していると、敵から通信が入ってくる。


「聞こえますか。生きていれば返事をしてください」

「おかげさまで一応」

「あらあなたですか。ミツヒロ君はどうしました?」

「ちょっと話せないから僕が代わりに対応するよ」

「では彼にお伝えを。申したようにコウヨウは無事です。今は私たちの拠点で使途機の開発を中心に働いてもらっています。協力している理由は、なんとなく察しがついているでしょう」


 とどめを刺されるのではと危惧をしていたため、まさか光陽のことを話始めるとは思わず、つい呆気にとられる。


「なんで……」

「先ほどの突進で5キロほど後退しました。あなた方の勝ちです。それで何も無しは駄目でしょう」

「存外律儀なことで、余裕綽々だねぇ」

「誉め言葉として受け取ります。では私たちはこれにて。ミツヒロ君にはいずれまたと。帰りますよグレイ」

「御意」

「……あぁそうそう。クリムさんにもまた会いましょうとお伝えください」

「はっ?待てどういう意味―――」


 2機のルドーがゆっくりと浮上する。そのタイミングで上空にワープ空間が発生し、2機はそちらに向かっていく。

 最後に聞き捨てならない言葉を言われたレドは意味を確かめるために止めようとするが機体は動かせないため、ワープ空間の中へと消えていくのをただ見る事しかできなかった。

 消えたと同時に別のワープ空間が発生し、そこからゴウエンゴーとセイロウガが武器を構えながら飛び出し、グリフォスもそれに続いてくる。

 

「くおらおどれぇボケェ!……敵どこじゃい!?」

「一歩遅かったようですな……。ケガはないですかお二人とも!?」

「僕は大丈夫だけど、ミツヒロ君が気絶しちゃってる。悪いけど機体運んでくる?」

「おぅ分かった!揺れるが我慢せぇよ!すまんがわしらは戻るからこっちは頼めるか!?」

「了解!」


 その場をグリフォスのパイロットに任せ、ゴウエンゴーとセイロウガがリュウオーの腕をもって飛行しワープ空間の方へと移動する。

 レドはスーツを緩めて大きく息を吐いてから光広に目をやる。

 いまだ目を覚まさずにいる彼に、自分たちや町がどうなったのかを伝えるのかと思うと気が重くなる。


「完敗か、クソッタレ……」


 握った拳でコックピット内を軽く叩き、どうしようない不甲斐なさのはけ口を少しだけ漏らすしかなかった。 

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