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アールモニー国境の戦い

 レンガを中心とした石造りの建物や塔が立ち並ぶ3大国家の1つ、アールモニー。

 その国境から僅か30㎞の地点の小さな町が近くにある場所にワープ空間からオルディネオの使徒機(アポストラー)、黒鎧のルドーが次々と転移をしてくる。

 数はすでに50機はいるのだが、どういうわけか1機も動く気配をみせない。

 そんな立ち尽くすだけのルドーの軍団を遠方よりプレーリュの偵察部隊は静観していた。


「あいつらなんで動こうとしないんでしょう」

「オルディネオのおかしな行動は今に始まったことではないが、確かに国境まですぐそこ、それでなくとも町がすぐそばにあるのに何故なにもせん?」


 これまでは出現すれば必ず人のいる場所をめざし突き進む奴らが何故か今回は何もしようとしないことに不自然さを感じる。 

 オルディネオの兵士は人形兵(ドールズ)と呼ばれる人造兵士で基本的に設定された行動しかしない。

 いつもは様子見など一切せず現れたらすぐに侵攻をする相手になぜ態々待機命令をさせるのだろうか。

 何かを待っているのだろうかといぶかしんでいると、ルドーの軍団が転移してくる場所からずれた場所に新たな空間の歪みが発生する。

 そこから4本腕の緑色の機体と人狼の青色の機体、ゴウエンゴーとセイロウガが現れた。

 ゴウエンゴーは手に1200㎜レールガンを2丁持ち、サブアームを兼ねた背部ウェポンラックに砲身を収縮した同一のレールガン4丁を背負う。

 対してセイロウガはマニュピレータを真っ直ぐな短い5本の刃がついた手甲で覆っている以外は武器を一切持っていない。


「リグンだ。2機とも目的地に無事移動したぞ」

「黒鎧たち、映像通り本当に動いていませんね。どうしたんでありましょうか」


 リグンは脳内に直接送られる映像で、ルーブはモニター越しに状況を実際に確認し、いつでも動けるように構える。

 そこにアールモニーの偵察部隊から通信が入る。


≪リグン大佐にルーブ・ソウさんですか!≫

「じゃからもう大佐じゃ―――」

「今は気にしないでくださいよ。その通りです。そちらはアールモニーの部隊でよろしいでしょうか?」

≪そうです!奴らが現れたので一番近くにいた我々が確認のため偵察をしていたところです!≫

「そちらで黒鎧や他の何かが行動している様子は確認できましたか?」

≪いえ、現時点では何も―――≫

「いや、やっと反応したようじゃぞ」


 沈黙を保っていたルドーがやっと動き始め、それぞれ手に持った武器を構え始める。


「我々を待っていた!?」

「かもな。そい訳じゃから流れ弾が来るじゃろうし早ぅ退避せぇ!」

≪申し訳ない!あとは頼みます!≫

「任されて!ではリグン殿援護を頼みます!」

「おう!」


 ルドー達が一斉に電磁加速式400mmマシンガンを発射する。

 いの一番に飛び出したセイロウガはその弾丸の中を巨体に似合わない軽やかに搔い潜り一番近くにいたルドーに蹴りを放つ。

 大きくバランスを崩したルドーへゴウエンゴーのレールガンの弾丸を直撃させる。

 しかし破壊された味方に気を捉われることなく最も近くにいた機体がすぐさまセイロウガへ銃撃を放とうをするが。


「クローブレード!」


 手甲の刃が赤熱し赤いプラズマが纏うと同時に伸び、その勢いのまま敵の胸部を突き刺す。

 ルドーは味方がやられたことに構いもせず銃撃を始める。しかし攻撃した時にはすでにセイロウガはその場におらず、どこにと確認をする間もなく機体の後方に現れたかと思うと横に5等分に切り裂かれる。その背に向けて攻撃をしようとするが、それよりも早くセイロウガに至近距離まで近づかれ硬直してしまう。


「セイヤーッ!!」


 当然そんな隙を見逃すはずもなく、なます斬りであっさりと片付ける。その速さを捉えることなく破壊される中必死に反撃をしようとする。

 だが動きをわずかに止めた敵にゴウエンゴーがレールガンの砲弾を確実に命中させていく。

 それを阻止しようと銃撃しながら距離を詰めてくる機体もいたがレールガンの砲撃を回避しきれず倒されていく。

 50機以上いたルドーは数分もかからず残り8体となる。


「今回はさっくりと終わりそうでありますね!」

「まだ見てぇじゃぞ」


 ルーブはあまりの楽さにすでに終わった気分でいたがリグンの言葉になんでと首をかしげるが機体にワープ空間発生を知らせる警告音が鳴る。

 出現したワープ空間からまたもルドーが40機ほど現れる。

 今までと違うのは持っている武器がマシンガンではなく回転式弾倉のグレネードランチャーのようなものをなっている。

 うち半分は機体の頭部に黄色い羽飾りが追加されている。


「今までのと違う。新機体―――」

「先手必勝!!」

「おい馬鹿!」


 リグンが止めるよりも早く先程と同じようにクローブレードで切り裂こうとする。しかし新たに現れたルドーはそれを素早く後退することで躱してしまう。

 あれっ?と困惑するが相手がランチャーをこちらに構えているのに気づき、咄嗟に機体に内蔵している収納用魔道具から大型の盾を出現させ機体を覆い隠す、と同時に着弾。マシンガンの弾に容易に耐えるはずの盾が僅か数発でバラバラにされてしまうが、セイロウガの損傷は免れた。


「ウソォン!?」

「距離を取れルーブ!」


 ルーブを逃がすためにレールガンの連射速度を上げて弾幕を張る。しかしこれまでと比べて最小限の動きで回避される。それでも足止めはできている。

 セイロウガも小型のレールガンを呼び出し連射しながら退避する。


「リグン殿こいつら!」

「分かっとるよ。いつもの『お人形』より出来は良いようじゃ」


 これまで自分たちが戦ってきた黒鎧どもより性能が違う。相手も本気を出してきたということだろう。

 もとよりいつか起こり得る可能性が今出てきた。ただそれだけの話でやることは変わらない。

 構えなおし羽根付きのルドーに砲撃する。剣を抜きつつ回避し接近してくるルドーに、他も牽制しつつハルバードを魔法で出し、攻撃範囲に入ってきたところにプラズマの刃を横から振るうが、ルドーの剣も赤熱し刃を赤いプラズマが覆えばハルバートを受け止める。

 

「灼熱鋼か!」


 今までただの切れ味のいい剣でしかなかった武器にこちらと同じ、エネルギーを流すことで超高温になる合金が使用されていることにいよいよ敵が本気になってきたことを知る。

 1合、2合、3合と打ち合うがどちらも決定打に一歩届かない。

 ならば無理やり体勢を崩させようとレールガンを地面に向け発射しようとするが、それを察したように他のルドーがランチャーを放ち、これは機体にダメージを負う可能性が高いと判断し射撃をやめ後方に飛び退く。

 なかなか悪くない動きだと、技術の進歩に敵ながらも素直に称賛する。


「避けんなお馬鹿~~!!弱虫~~!!!!」


 ルーブの方はどうなっているか見れば、こちらは消耗でも狙っているのか、セイロウガに攻撃をせず、ただただ回避に専念している。

 羽根付きでもたまに攻撃をする機体もあるがそういった機体は瞬時に切り裂かれているため、一瞬足を止めて餌食になるより機体のエネルギーと魔力消費を狙ったこの行動は妥当な判断だろう。

 おまけに速さにそれなりに自信のあったのに掠りもしないことにいら立ちを隠せず動きに雑さが目立ち始めるのでそういう意味でも面倒だ。


「落ち着けルーブ。雑にやっても無駄に消耗をするだけじゃ」

「分かってますとも!!」


 ルーブを落ち着かせようとしていると通信が入る。

 現地部隊ではなく機体格納庫に隣接している戦闘指揮所からレドが交信してきたようだ。


≪2人とも聞こえるか!?ワープ―――≫

≪リグ爺ぃ!ルー姉ぇ!大丈夫か!?まだ戦えそうか!?≫

≪ちょっとクリムちゃん割り込みはだめだって!?≫

「安心しろ姫ちゃん、攻撃は受けとらん」

「でもこう回避されるの腹立ちます!」


 四方の敵からの攻撃をさばきつつ返答する。


≪僕の判断ミスだ!今グリフォス隊に準備させてるけどワープのエネルギーチャージにあと25分かかる!なんとか耐えてくれ!≫


 現在3国間で試験運用されているワープ装置は距離が遠ければ遠いほど必要なエネルギーが多くなる。

 格納庫からこの国境までの距離はおおよそ1万5000キロもあるせいでどうしても時間がかかってしまう。

 それもあるがレドはそれ以前に相手の行動の不審さとグリフォスⅡの調整関係もあり2機だけ先行させた結果、押されてしまっていることに悔やむ。

 

≪無理してでも数機随伴させるべきだった!ごめん……!≫

「なんじゃそんなことか。大丈夫じゃよ」


 周囲や上空から完全に囲まれたにも関わらずにハハハと朗らかに笑う。

 それはレドを安心させるための行為、などではない。


「慣れた」


 ニッと笑みで答えて、レールガンを構えると砲口の前に魔法陣を生成する。

 何かを仕掛ける気だとルドー達は警戒した瞬間に弾丸を放ち魔法陣をすり抜ける、ことはなく。

 魔法陣に触れた瞬間に弾丸が消え去る。

 何が、そう判断するよりも早くルドーの背部から砲弾が貫き、ゆっくりと前に倒れる。

 

「"物体転送(アスポルト)"よし。ではレールガン出力最大!」


 残りの腕にもレールガンを出現させ砲身をさらに伸ばし構える。

 同時にウェポンラックも含むすべての武器の砲口前に物体転送の魔法陣を発生させる。

 何をしようとしているのか察し、ルドー達は止めとうとし―――。


「"刃鞭(ラムフェン)"!」


 半分に別れる。

 見れば2キロも離れた位置にいるはずのセイロウガのクローブレードによるものだ。

 異常なほどの長さまで伸び、鞭のようにしなっている。

 ワウルフ族の得意とする攻撃魔法である。

 

「どうですかってんだ!そしてお返しの"暴風刃鞭(ウラガ・ラムフェン)"!!」


 そしてそれの派生魔法を発動する。

 詠唱と同時に刃が中心から2つに割れ計20本の刃になり、セイロウガを中心に無軌道な動きで周囲で暴れ始め、その状態のまま移動をする。

 意思を持っているようで思考も減ったくれもない暴力じみた攻撃をなんとか回避しようとするが縦横無尽に、通り過ぎたと思えば翻して迫ってくる。

 刃の大嵐ともいうべき攻撃に足からもがれる機体、縦に切り裂かれる機体、全身を貫かれてから裂かれる機体と、もし対象が生物なら見せられないような光景を作り出していく。

 その無茶苦茶なやり方に意識を奪われるルドーはゴウエンゴーへの注意がそれてしまう。


「発射!」


 当然それを見逃さず、ゴウエンゴーの武装を一斉に連射する。

 弾はすべて魔法陣に吸い込まれ、まったく別の場所から現れる。

 反応できなかった機体は四方から砲弾を浴びることとなり砕け散る。何とか反応できた機体は移動をしつつ攻撃をするが、放った弾丸も目の前に現れた攻撃にすべて撃ち落される。

 ならばと飛行魔法で高速に飛び狙いを定まらせないようにしようとするが、まるでこちらの進む先がわかっているかのように弾が現れ、自分から吸い込まれる形で撃墜される。


「慣れたと言うたぞ」

「ウォライ!……ようし終わり!」

 

 残った1体を数センチ単位の小さい物体に変える。

 センサーで周囲を調べ、残った敵がいないことを確認する。

 一時苦戦こそしたものの、損害をほぼゼロで終えることができた。


「……ふぅ。なんとかなったか」

「いやぁ完勝ございましたな!ちょっと性能を上げた程度で勝てるなでございます!ワハハ!!」

「おめぇな……」


 途中で喚いていたくせに調子のいい、という言葉は呑み込み一息つくのだった。

 


 ◆



「いよっしゃあやったぁ!」

「良かった、なんとかなって」


 ソレルヴァンの戦闘指揮所で戦いを見守っていたクリムは勝利を喜び、レドは胸をなでおろす。


「無事終わってよかったですね」

「まったくだ。不安が残るからと君を待機させたが、羽根つきにすぐ対応できなかっただろうな」

「あんな早くは無理だったと思います」


 一緒に様子を見ていたジュール国王の言葉に光広は同意する。

 もしものためにパイロットスーツを着て出撃できるようにしてはいたが、果たして自分があの羽根つきの黒鎧とどこまで戦えたのかと思うと、味方の足を引っ張る可能性が高かっただろう。

 そういう意味では出なくてよかったといえる。


「他に黒鎧が出現報告ある?」

「今のところはありません」

「なら今回は羽根つきの稼働実験だったのかなぁ」

「態々こちらを待っていたからな。実戦のデータ収集、可能なら撃破といったところか」

「じゃああたしら相手に経験値与えたってことか?」

「でも来なかったら暴れただろうし」

《おぉい。話し合いももいいがわしらはよ帰らせろ》

「あっ、ごめんリグン。チャージまであと19分かかるからもうちょっと待って―――」


 ひと段落ついたと気を抜いて会話をしている時だった。


「国王様!ソムルにオルディネオが出現報告あり!数は4!!」

「なんだと!?」

「……4機?」

「ソムルってどこですか!?」

「北方の山に囲まれた8000人ほどの小さい町だよ!軍事力なんてたいしていない所だぞ!?」


 終わったと思っていたところでの知らせにみな焦る。

 ここからソムルの町は3000㎞ほどの距離でワープ装置のチャージ時間もそこまでかからないが、リグンやルーブが戻るにはあと13分必要なのだ。


「リグ爺、ルー姉ぇ!どうにかすぐこっちに戻れない!?」

《戻ってチャージ待ってより直接飛んでゆくんは!?》

《私たちの最高速度って時速25000キロぐらいですから30分ぐらいかか―――ちょっとマジでありますか!?》

《なん……ちっ、すまんが敵がまた来た!》

「このタイミングとは…!」


 リグン達もどうにか駆けつけられないかと思案するが、ルドーが再びワープ空間より現れて攻撃をしてくる。

 そちらに敵が出てきた以上、2人が駆けつけるわけにはいかなくなった。

 光広は今の状況で動けるのが自分だけではと思い、ジュール国王へと進言しようとする。


「国王陛下!俺に行かせ―――!」

「は~いストップ」


 その前にレドに止められてしまう。


「な、何ですかレドさん!」

「何ですかじゃないよ。まさか行くつもりかい」

「だって見捨てられないですよ!」

「気持ちは分かるけど、小さな町とは言え4機は少ない。罠の可能性が十分ある。例えば、出撃してないリュウオーをおびき出すとか」

「そうなら出れば奴らを引き付けられます!」

「こっちは増援を送れない。君一人で長時間相手することになるよ。なんなら着いた瞬間大量の増援で襲ってくるかもよ?それでも大丈夫?」

「リュウオーの装甲、計算上黒鎧の武装では破壊不能なんですよね!」

「プロトガージュウムは通常のより5倍頑丈だけど、過信はできないよ」

「それでもリュウオーの性能を信じます!ヤバくなったらすぐに逃げます!お願いします!」


 必死に頭を下げる。

 自分は戦える方法があるのに、戦う力もほとんどない国を見過ごすなどどうしてもできなかった。

 少しの間、静かになった指揮所であったが、ふぅとレドはため息をはいて言う。


「まあ状況が状況だ、許可しよう」

「! あ、ありがとうございます!!」

「よしっ、決まったんなら早速出撃準備―――」

「早速じゃないでしょ馬鹿娘」

「ぐえっ!?」


 光広の出撃が決まった瞬間、駆け出そうとするクリムの首根っこをつかむ。

 どうやらまだ同乗することをあきらめていないようだ。


「しれっと乗り込もうとするな。僕が代わりに行くから」

「……ちっ」

「おいこら」

「お前たちな……、まったく。ミツヒロ君、こんなバカだかよろしく頼む」

「は、はい!」

「危険感じたら無理はすんなよミツ!死んだりしたら承知しないぞ!あと親父も」

「ありがとうクリムちゃん。それでは行ってきます!」

「あれ?僕はあと扱い?ねぇちょっとなんで僕が先じゃないのねぇ!?」



 ◆



「なんでクリムが僕より君を心配するのさぁ!?」

「あれはレドさんを信頼してる証ですってば!」


 格納庫に移動しリュウオーのコックピットに乗り、レドが後ろからいろいろ聞いてくるのを流しつつシステムを起動していく。

 機体の準備はすぐに完了したが、ガージによればワープ装置については一度転移空間の設定やリグン側とは別のエネルギーの調整をしないといけないので、あと11分ほど時間がかかってしまうとのことだ。

 今はとにかく急ぎたいと考えた光広は機体AIのロンにあることを尋ねる。


「ロン!」

≪何デショウカ?≫

「今の俺で出せる最高速度ってどれくらいになりそう!?」

≪強化魔法、飛行魔法、光子推進ヲ合セレバ直進限定ナラ時速50000km、マッハナラ約42デス≫

「よしそれなら!」


 何やら妙なことを考えていると光広に後ろのシートに座っているレドは不安を覚える。


「あのぉミツヒロ君?速度とか聞いてるけど、まさか―――」

「ガージさん!ワープは使わないで行きます!」

≪はあ!?何言ってんだネ!?≫

「計算上こいつぶっ飛ばしす方が到着は速いです!」

≪なるほどネ!なら思いきりやれ!幸運を祈る!≫

「ダメでしょガージ?ねぇミツヒロ君、ここはおとなしくワープの方をだね―――」


 ここまで来て何をしようとしているのか分かったレドは止めようとする。

 だがすでに光広はリュウオーを格納庫から出して上空高くまで浮かび、ソムルのある方角に向けてから魔力を集中させ始める。

 つまり、そういうことである。


「ねぇ待って考え直そうまだ慣れてないのにそれは無茶という―――」

「スケイル・ブースター最大出力!"強化(フォルズ)"、"飛行(ヴァーレス)"発動!行きますよレドさん!舌噛まないでくださいね!」

「考え直そういくらG軽減できてもそんな速度耐えれるわけなアアアアアアア!!!???」


 力業による最短到着。

 レバーを力いっぱい握り歯を食いしばりながら吹っ飛んでいくのだった。



 ◆



 一方オルディネオの本拠地の格納庫では、白い修道服に身を包んだベールがそわそわした様子で全身白く塗られ頭部に金色の羽根飾りがついたルドーのコックピットでハッチを開けたままシートに座ってなにかを待っている。

 そのもとへグレイが浮遊して近づき、質問をする。


「ベール様、やはりここで待つ必要はないのでは?」

「ごめんなさい。でも待ちきれないもので」

「そうですか」

「早く出ないかしら。せっかくお爺様にご無理させたのですから」


 楽しい場所に連れてってもらえるような子供のようにワクワクしながら報告が来るのを待つ彼女の様子に、そうさせる要因への嫉妬が深まるが表に出して不快な気分にさせるわけにはいかないので我慢をする。

 その時コックピットの赤いランプが光る。


「来ました!?」


 ルドーのモニターを作動させる。モニターには空中を凄まじいスピードで飛行する物体、リュウオーがソムルの方角へとぶっ飛んでいく姿が映し出される。

 

「まあ、随分と愉快な方法を選んだのですね!」

「あの速度、こちらの想定以上ですな」

「素晴らしいことではないですか!さあグレイ、準備をお願いします」

「御意!」


 左手を胸の前に当てて敬礼をしてから、その場を離れ別のルドーをもとへ移動する。それを見届けてからハッチを閉じ、機体の作動準備を始める。


「さて、彼女みたいな楽しい相手だといいのですがね」


 かつて自分を楽しませてくれた女性を思い出しながら、これからの事に期待が高めるのであった。

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