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異世界イデアルト Ⅰ

ベッドと衣装ダンスがそれぞれ一つ置いてある無機質な部屋に男女がいる。

 一人は白いネグリジェを着た腰まで届く金色の髪と白い肌で耳が長く尖っている170㎝ほどの年若い少女。もう一人は黒いローブで全身をすっぽりと覆っている200㎝はありそうな右目に眼帯をした灰色の肌の男だ。


「なるほど、これが彼がひそかに造っていた物ですか」

「引き出した情報通りですね」


 女性が緑の目でしげしげとリュウオーの全身が写されていた四角い映像端末を見る。


「ルドーが送ってきた戦闘映像を鮮明にしたものです」

「なぜ戦闘に?」

「どうもソレルヴァンの使徒機(アポストラー)がいたため戦闘となった模様で、その間にこの龍人型が出現。確実に捕獲するために増援を送ったものの逆に返り討ちに……」


 報告をする男性は非常に忌々しそうな顔で報告する。

 女性はやれやれといった態度で男性の頬に優しく手を添える。


「グレイ、そのような顔をしないでください。予想外のことは常に起こるもの。彼の機体であるにも関わらず甘く見た私にも責任はあります」

「ですがベール様! これは私の不手際が招いた―――」


 女性、ベールの言葉に動揺した男性、グレイはそのようなことはないと言おうとするが、唇に指を当てて遮る。


「私が許します。なに、それだけの存在と判明したのです。次に生かせると考えなさい」


 諭すように慈愛にあふれる優しい笑顔で微笑む。男はただ静かに涙を流し、片膝をついて恭しく頭を垂れる。

 大袈裟ですよと笑う女性。

 再び映像に目をやる。

 こちらの武装による攻撃が一切通用せず、逆に相手はこちらをを一方的に蹂躙しているが、その動きは訓練されたものとは思えないぎこちなさを感じる。


(この使徒機(アポストラー)に乗っているのは素人でしょうか。しかし武器は問題なく使用している。機体は知っているが操縦はまともにやったことないのでしょうか)

「興味が湧きますね」

「……?興味ですか?」

「えぇ。一体どこのどなたが動かしたのやら」


 映像を見続けながら彼女は無邪気にほほ笑んだ。



 ◆



 ゴウエンゴーという機体の後をふわふわゆっくりと飛行しながらついていきしばらく。

 ずっと木とかの自然物しか映ってなかったモニターに、明らかな人工物が映される。一軒家が立ち並び、商店街らしき大通りがある。建物も見た目は木造建築だったり、石造りで出来てたりといろいろある。映画で見る昔のヨーロッパの建物に似ている。

 中にはそれに紛れたかのように10階建てのビルがぽつりぽつりと建っている。こっちはコンクリで出来ているように見える。

 しかし、それよりも目が行ってしまうものがどでかく映っていた。


「でっけぇ城……」


 ぐるりと城壁と水で囲まれた中に馬鹿でかい石造りの荘厳な城が建っている。

 400mの高さはありそうで、見た目は雑誌に載ってたモンサンミシェル?とかいうのに似てる。

 

「あれはソレルヴァン城だ。昔からあるこの国の象徴だ」

「ソレルヴァン?」

「ああ。巨神様の1柱であったソレルヴァン様が住まわれていた場所だからその名がつけられているんだ」

「巨神様、ね……」


 また新しい単語が出てくる。

 今更ながらだがアニメとかで見た異世界転移で間違いのかな?

 それしか考えられない。普通に考えてロボットを使った戦争が地球で起こってるならニュースにならないわけがない。

 それにと、ちらりモニターの下に目をやる。

 街の住人らしい方々がロボットを見るために上を見上げている。ただその姿が、俺と同じ人間だろう人以外にも、2本足で直立した服着た狼みたいなのだったり、人の上半身に蜘蛛の下半身っていうのだったり。


「ファンタジー世界かぁ……」

「2人とも、そろそろ格納庫だ。着陸準備しとれ」


 ゴウエンゴーのパイロットのリグ爺さんという人から指示が出る。

 城を通りすぎて少し町から離れた場所に結構な高さのある倉庫のような建物が見えてきた。

 入口だろう場所の近くで誘導員らしい人が手を振っている。そこに降りろということなのだろう。

 ゴウエンゴーはその場所にほとんど音を立てずゆっくりと着陸する。

 同じようにリュウオーをどうにか着陸させようとするが、力加減を間違えて地面が舞ったのではないかという揺らし、誘導員の方が飛び跳ねて尻餅をついてしまう。

 すぐに立ち上がったところ幸いけがはなさそうだけど……。

 

「……初めてじゃからの、しゃあない」

「気をつけろよ本当」

「すみません……」


 ご迷惑をかけてしまいお恥ずかしい。

 

「そいじゃ中に入ったら壁にそって機体を止めてくれ」

「分かりました」


 機体の尻尾を収納してから今まで同じように先導されながら格納庫の中に入っていく。

 多くの人や機械が集まって作業をしているようだが、俺たちが入ってくるとこちらに視線を次々と向けてくる。

 人と言ってもさっき外で見たように俺に近い見た目のだけでなく、腕が4つある人や、俺の腰ほどあるかどうかの小人や一つ目の巨人、背中に翼を生やして飛んでいる人。

 パワーアシストスーツを着ている人や大きい8本足の蜘蛛と人を足したぽいロボットに乗ってる人もいる。

 壁には使徒機アポストラーが使用するための巨大な銃や剣が架けてある。

 いろいろと目に行くがなによりも、格納庫の奥にある機体に目が行く。

 ゴウエンゴーより少し小さい、青いロボットが立てられている。

 全体的に細めで、手の部分の鋭く尖った爪は刃物のようで、頭部は鋭い犬歯が2本飛び出た狼の頭に見える。

 整備をしているのか足場で囲われている。

 その機体の向かい側の空いている場所にゴウエンゴーを停める。


「あんな感じで停めればいいのか」

「そうそう。ほらあそこに空きがあるからそこ停めとけ」


 クリムちゃんの指刺したほうにスペースがあったのでゆっくりと向きを変えながら調整をしてスペースになんとか立たせる。

 停めるのはこれでいいのかな。

 あとは機体を降りればいいのかとふと前を向くと、ゴウエンゴーのコックピットハッチを開けたリグ爺さんがそのまま飛び降りるのを目撃する。

 えっ!?と驚いたが何事もなく着地をしてスタスタと近くにいる作業員の人に話しかけに行った。 


「……あの、まさかと思うけどああしないとダメなの?」

「いやいやいや、さすがに昇降台車を使うって。あれはリグ爺がめんどくさがりなだけ」

「さすがにそうだよね……」


 あれは真似できないから安心した。

 じゃあ台車が来るまで待とうとハッチを開ける準備をしようとしたら、それより先に座席の一部がカシュッと音とたてて開く。

 何かと覗くと、黄色い簡素な腕輪が入っている。

 後ろで「なんだこれ」とクリムちゃんのつぶやく声が聞こえたので、どうも後ろも同じ物が出てきたらしい。

 確かにこれは何だろうと思っていると電子音声が話しかけてくる。


『ソチラヲオ使イクダサイ。念ジレバ機体ヘノ搭乗及ビ降機ガ可能トナリマス。タダシ搭乗ニ関シテハ半径15m以内デ無イト意味ガアリマセン』


 それはまた便利なことで。

 手に取ってみるとそれなりに大きい。

 とりあえず左腕に通してみると、手首のあたりでシュッと小さくなり、ぴったりとくっついた。違和感のような物も一切感じない。

 言われた通りに機体から降りるイメージをしてみる。そうするとまたも浮遊感を感じた後、コックピットから出てリュウオーの足元に立っていた。すぐ後に隣にクリムちゃんも現れる。 

 

「なかなか便利じゃない」

「あれ、姫様いついらしてたんですか。それと……、隣の男性は?」


 降りたすぐのタイミングで台車を持ってきていた男性の作業員に声を掛けられる。

 不審者を見る目でじっと見てくる。

 これはいけないすぐに答えを返そう。


「アイム、ノット、エネミー!!」

「……お前、もしかして私の時もそれ言ってたのか?」


 クリムちゃんの呆れる声が聞こえる。

 ……いやさすがに自分でもなんでこれ出ちゃったのかなと、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「こいつはこの使徒機(アポストラー)のパイロットで私たちの協力者だ」

「そうでしたか。そうとは知らず不躾にみてしまいすみません」

「いえお気になさらず」

「しかし姫様のお知り合いというのはどのような―――」

「悪いがまずレドに合わせようと思うからそれは後でな」

「リグン大佐」

「じゃからもう大佐じゃないちゅうとるじゃろうが」


 作業員の後ろからリグ爺さんが声をかけてくる。

 ポリポリと頬をかきながら、敬礼をする整備員の人に訂正する。

 ……しかしモニター越しでも大きいのはわかってたけど、直に見ると本当にすごい。

 肩まで伸びている白い髪、厳つい皺のある顔。見上げる必要があるほど巨大で筋骨隆々な4本腕の体。

 今まで味あったことがない凄い威圧感を感じる

 そんな人がゆっくりと俺の前まで歩いてきて、右手を差し出してくる。

 

「面倒かけたな。リグン・リミドじゃ。よろしゅう」

「あ、その、こちらこそ。日生光広と言います。どうぞよろしく」


 思ったよりも優しく握られた手をしっかりと握り返して挨拶を交わす。

 ちょっと怖そうと思ったけど、リグ爺さん、じゃなくてリグンさん普通にいい人っぽい。

 ただ俺が名乗った瞬間、周りの人たちがざわつき始める。


「いまヒナセって言ったか?」

「じゃああの子はコウヨウさんの」

「確かに面影はある。特にあの悪人面」

「ならこの使徒機(アポストラー)は」

「マジで?なんで黙ってたのよもう!」


 なんだろう。注目されて落ち着かない。

 というか誰だ悪人面言ったの?


「そんなすぐに親父に報告するのか」

「じゃな。姫ちゃんにも今回の件であれこれゆうことがあるからの」


 どうやら誰か、話的にクリムちゃんのお父さん、レドさんに会うことになるようだ。

 じゃあリュウオーはあそこに置いたままってことか。

 ちらりとリュウオーを見てどうなるのか心配になるが、それに気づいたのかクリムちゃんが安心しろと一言声をかけてくれた。

 それを信じて歩き始めた2人の後ろをついていく。

 人とすれ違いながら格納庫を進んでいき、赤いドアの前で立ち止まる。

 読めないが何か英語の筆記体に似た文字とその下に赤い龍の紋章がついている。

 途中いくつかあったドアと比べるとだいぶ違うので特別な部屋というのがわかる。


「入るぞレド」

「ん~、どうぞ~」


 男性の返事が聞こえる。ドアを開けて入室するリグンさんの後に俺もクリムちゃんも続く。

 中はそれなりに広く、壁は棚のようになっておりびっしりと本や薬品、茶葉の缶なんかがずらりと並んでいる。他には簡素な丸いテーブルとベッドが1つおいてあるぐらいだ。

 パソコンのような物が置いてある木の机に白衣に身を包んだ人が座っている。

 前も後ろも関係なく伸ばしまくった赤い髪のせいで顔の部分が全く見えないけど、この人がクリムちゃんの父親のレドさんって人かな?

 疑問に思っているとその人は一瞥もせずに喋り始める。


「やあリグン聞いたよ戦闘をしてきたんだって?ごめんねうちの子を連れてくるだけの仕事がこんなことになっちゃってところでガージがまた君が銃をぶん投げたとか言ってたけど本当?それはよくないよあれを造るのは一朝一夕じゃないんだよクリムもお帰り駄目だぞ一人で勝手な行動しちゃこのご時世何があるか分からないんだから悪いオルディネオの連中にさらわれるかもしれないんだぞ一応王族の一人なんだからそのあたりを考えて行動しないとそれと――――」


 お?お?


「だいたい前々から思ってたんだけどクリムはもう少しお淑やかになったほうがいいよ13にもなって男の子のように元気にやんちゃするもんじゃないよいやそれがダメとは言わないけどあとその恰好もだよ僕はスカートとかワンピースとか着てほしいしそういうかわいい写真撮ってうちの娘かわいすぎるでしょと自慢したいんだよなのにリグンや兵士に銃や戦闘に役立つことばっかり教えてもらってそんな恰好しちゃってせめてこの前僕が買ってきた純白のワンピースを着てお父様って上目遣いで言ってもらわないと―――」

「親父ちょっとストップ!」


 喋りまくっていたレドさんに対してクリムちゃんがたまらず叫ぶ。

 さすがにその人も悪いと思ったのか「ごめんごめん」と言いながらこちらの向かいなおした。と思ったら動きを止めてこっちを見つめてくる。

 な、なんだ?


「コウヨウ?いつ帰ってきてたの?どうしちゃったの随分と若作りして。それに背も伸びたんじゃない?」


 なんか間違われてる。


「馬鹿。こいつはコウヨウじゃねぇ。どう見りゃそうなるんじゃ」

「いやいやこの人を殺めてそうな目つきは……ん?」


 不思議に思ってか一気に近づいてきて、前髪を掻き分けてジっと見つめてくる。

 髪で見えなかったけど、むっちゃくちゃダンディーな顔だ。紫煙をくゆらす姿がめっちゃ似合いそう。

 そんな顔に見つめられてるせいか妙に恥ずかしくなっちゃう……。


「なんで顔赤くしてんだ?」


 気にしないで。


「確かにコウヨウじゃないね。随分なそっくりさん。何者なの?」

「コウヨウの息子だよ。訳あってここにいる」

「へぇ~子供。こりゃよく似てる」

「……ほかに反応があるだろ」


 いつもこんな感じでマイペースなんだろう。

 あら~といった態度のレドさんにクリムちゃんとリグンさんがそろってため息をついている。

 

「ごめんね間違えて。僕はレド・マーカーゾン。クリムの父親だよ、よろしく」

「こちらこそ。日生光広、日生光陽の次男です、よろしくお願いします」

「おお次男の方だね彼からは元気のある良い子と聞いてるよ~いやはやしかしまさか子供までこっちに来ちゃうとはそれもこのタイミングでこれは偶然か―――」

「親父」

「ごめんってばもう。して僕にどうしろと」

「こいつに『ここ』とコウヨウの事を説明しようと思うてな。そいでお前の所じゃ」

「なるほど納得。それならさっそく、と言いたいけど、まずはご挨拶」


 椅子から立ち上がったレドさんは、俺に手を差し伸べながら、歓迎の挨拶をする。


「ようこそミツヒロ君。僕らの世界、『イデアルト』へ」


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