始まり Ⅲ
この部屋を見つけたのは偶然だった。
行方不明になった『彼』が時折通っていたという家。
ここに何か手掛かりがないかと探していた時に裏庭の一部の場所に違和感を感じ調べると、下に降りる梯子を見つけた。
わざわざ隠すほどなのだから何かあるだろうと、くすねてきた銃を構えながらゆっくり慎重に下りていく。
しらばく放置されている証拠のほこりが積もった長い梯子を下りた先に扉があり、それを開けると薄暗い空間が広がっていた。
広々とした場所だなと思っていると、何かが動く気配を感じた。
(誰かいる?)
何者だろうか?同じようにこの場所に気づいた者か、しかし梯子はほこりがたまっていて最近誰か使った様子はなかった。
震える体を深呼吸して落ち着かせ、目を凝らす。何者かは手にライトのようなものを持っているため、ある程度だが姿を確認することが出来る。
背丈は180㎝ほどありそうなそれなりに鍛えられた体にツンツンとした短めの茶色い髪。
絶対とは言えないがおそらく男性だろう。
薄明りではあるが、見た感じは武器のようなものを持っているようには見えない。もっとも、『この世界』で何も持ってないなどなんの意味も無いが。
(どうする、応援呼ぶか?)
応援を呼ぶべき。それが一番正しい。今自分たちが欲しい情報を持っている存在かもしれない。
しかし、もしその間にここを去られてしまってはどうしようもなくなってしまう。
(……ええいまどろっこしい!男ならいざとなれば玉蹴ってやりゃいいのよ!!)
慣れない行動と焦り。それらにより彼女は一人で接触することを選んだ。
結果論になるが、それは正しい選択であった。
◆
轟音、というか爆音のようなものが部屋を満たし、揺らす。
立っていられないほどの揺れに慌ててしゃがんで頭に手を置く。少女も同じような行動をとっていた。
しかしなんだこの揺れ!?地震というには明らかに爆発音のような音がしてたし!?
「まさか奴らか!?」
「奴ら?この爆発音、だれが起こしたか知ってるの!?」
「多分だけど!なら目的はあれかもしれない!」
何かを知っているんだろう彼女は、俺の後ろの方を指さす。
後ろにあるのはリュウオーらしき物体だけだ。
「これが目的?これってただの張りぼてとかじゃ―――」
「……機体の近くにワープ装置がある。ならコックピットにいけるかも……。あんた、悪いけどここで待ってろ!」
「え、待てって、ちょっと!?」
こちらは意味が一切分からないまま少女は立ち上がりリュウオーの方へ駆け出す。
何をするんだろとみていると、リュウオーの足元近くにある円柱に触れる。するとわずかに少女の体が淡い赤い光に包まれたかと思うと、目の前から突然いなくなった。
なにいまの?消えた、のか?
なんだよ今日はわけわからん!?父さんの行方不明からどんどん状況がてんてこ舞いになっていくんだけど!?
ドォン……!!
「おわっ!?」
再びの爆音にまたも部屋が揺れる。
さっきここにいろとか言われたけど、本当に大丈夫か!?爆撃でも受けてるのか!?何が起きてるんだよ!?
どうする?このままじっとしるべきか?この部屋崩れたりしないか?
出口らしい扉はあるからそこから出れば、と考えたが、外がどうなってるのか分からないのにでるのなんて危険すぎる。
そもそも、あの子はリュウオーが目的かもしれないって言ってたけど、なんでこれを?
アニメの中では地球最高の合金と魔法による強化でただの核爆発程度ならものともしない防御力を誇ってるけど、所詮はアニメの話で―――。
「……まさか?」
さっき、魔法とか言ってたし、目の前からいきなり消えたりしてた。
俺の耳に着けてるイヤリングも魔法道具だ、なんて言ってた。
まさか?本当にそんなことが?
「……っ」
気が付いたら、さっき少女が触れていた円柱状のもののところまで来ていた。
俺の腰ぐらいの高さまであるそれの一番先にボタンがある。これを押せば、少女が言っていたようにリュウオーのコックピットまでいけるのだろうか。
怖さはあるが、それでもどうしても確かめたくなり、覚悟を決めてボタンを押す。
一瞬、体に妙な感覚を感じると同時に景色が一瞬で変わる。
「―――これはどう!?」
『起動不可。当機ハ日生光陽及ビソノ関係者ノミニ起動可能デス』
「だああ!? なんでこんな設定にしたんだよ!?」
2mぐらいの灰色の空間で、いつの間にか椅子に座った体勢になっていた。
一部分だけ開いているのでそこから光が入ってきている。
本当に移動しちゃったよ……。
少し視線を動かすと、少し斜め下で、昔テレビで見たような戦闘機のコックピットにありそうな椅子に座って少女がホログラム式のキーボードをたたきながら叫んでいた。どうもこれを動かそうとして失敗しているらしい。ガンガン蹴ってるとことからかなりイラついているらしい。
「あ、あの、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、これ動かして外にいるだろうクソどもをぶちの……えっ!?なんであんたここにいるの!? 待ってろって言ったはずだぞ!?」
みかねて声をかけると、少女は慌ててこちらを振り返り、鬼の形相で睨みつけてくる。
「いやさ、あそこにいるのすごく不安で!?ところでこれ造ったの父さんって本当!?」
「あいつのよく来た場所に使徒機があるならそうに決まってる!それより早く出てけよ!」
「出てけってどうやって出るの!?だいたいさっき機械音で父さんかその関係者しか起動できないとか」
「だからどうにか動かそうとしてるんじゃない、のっ!」
『起動不可。当機ハ日生光陽及ビソノ関係者ノミニ起動可能デス』
「もうおおお!!!」
またの失敗に叫び髪を掻き毟る。
それからも何度かあれこれと試してみるが、どうしてもうまくいかず、なんどもダメと告げられる。
何度もリトライするが起動をする様子はない。
それほどまでリュウオーを動かしたい理由があるんだろうか?
「あ、あの、これそんなに動かしたいの?」
「だからそのためにどうにかできないか試してるんだよ!」
「だったら、これさっきの機械音声が正しいなら、俺なら起動くらい出来るけど、それじゃダメなのか?」
「どうせあのバカ起動させた奴以外では操縦できない仕組みにしてる!あいつはそういうやつだ!そうなったらあんたは確実に戦いに巻き込まれるぞ!」
戦い?これを動かしたらそんな厄介なのに巻き込まれるの?
父さん一体何をやらかしたんだ!?
再び少女が試し始めるがだけどやっぱり失敗してしまう。それでも懸命になんども試す。
……いまだに状況は呑み込めないがなんかこのまま見てるだけてのもな……。
「やっぱり起動するだけなら、俺がやればできるんじゃないかな?」
「お前話し聞いていたか!?」
「いやさすがに父さんはそんな面倒なことするはずないだろう。パソコンや携帯にパスコードを掛けない人だぞ?」
少女の横に移動して席の周りを確認する。操縦桿の間、キーボードの出ている下に手を置けそうなぐらいの赤く丸い機械がセットされている。
アニメにも同じ場所に似たような物があって、ここに手を置いたら操縦者の確認をして起動するって流れだったから、同じようにすればいけるよな?
「というわけでちょっと失礼!」
「あっ、こら、何持ち上げ―――わひゃ!?」
少女を持ち上げて椅子から動かす。小柄で軽いから結構楽に動かすことが出来た。
横であれこれ文句を言ってくるが、受け流してすぐに椅子に座る。
……いざ座ると、緊張するな。
とはいえここで変わっていうのはカッコ悪いので一度深呼吸をして心を落ち着かせ、覚悟を決め手を認証用の機械らしき場所に右手を置く。
そして、ブスリと指に痛みが―――。
「痛ぇええええ!!!オオアアァウゥ!!!!」
思わず手を引っ込めちゃったよ!?
手のひらを見ると、どの指先にもさっきまで無かった赤いぶつぶつが出来ている。
なんでこんなふざけた作りにしてんの!?こんなのアニメに無かったよ!お馬鹿じゃないの!?
「お、おい、だ、大丈夫か?」
少女に心配されるほどの声出しちゃったじゃないか。本当にもう恥ずかしい……。
大丈夫だよと片手で上げて伝えていると、周りが明るくなっていく。
これは起動成功か?
少女の方を見ると、安堵したようなど表情で辺りを見渡していた。
成功ってことでいいのか?
『遺伝子情報、日生光陽ノ親族ト確認。メッセージノ再生ヲ行イマス』
機械音声のアナウンスが流れ、何が始まるのかと数秒待っていると、聞きなれた声が耳に入ってきた。
≪やっほー。聞こえてるかな?≫
「父さん!!」
「えっ、コウヨウ!?」
間違いない、これ父さんの声だ!
≪これが再生されてるなら、リュウオーが起動しているけど僕はその場にいないってことだよね?≫
確かにそうだけど、なんでそんな前提のものを録音してあるんだ?
≪今そこにいるのが光士郎か光広のどっちかは分かんないけど、とりあえず先に謝る。ごめんね、僕のせいで面倒事に巻き込んで。
本当は言いたいことが山ほどあるんだけど、諸事情によりリュウオーについて簡潔に話すね。これは知っての通り―――≫
父さんがいろいろと説明を始めようとしたところで少女が肩をたたいてくる。
「おい、コウヨウの奴はなんて!?何か重要なこと言ってない!?」
「えっ?」
どうしたんだ。まるで言葉が分からないみたいな言い方し……、そういえば、今俺が普通に話せてるのイヤリングのおかげとか言ってたっけ?
じゃあ今聞こえている父さんの音声はこの子には分からないのか。
それなら、とイヤリングの片方を外して少女に差し出す。意図が伝わったのか、すぐに右耳に着けてくれた。これでこの子にも聞こえるようになったのかな。
≪―――メと同じようなもんだと思っていい。思考制御で動くようになってる。操作の感覚は僕が開発したゲームと全く同じだから動かすだけなら問題無いはずだ。ただ安全性も考慮して武装使用は操縦桿のトリガーを引くか音声での指示が必要だ。あと今更かもしれないけど、アニメのように魔力を流すことできるよ。≫
魔力。父さんの言葉からも出てくるとは……。
それになんだかこの父さんの音声は、どこか焦ってるというか、本当に申し訳なさそうな感じだ。
いっつも問題を起こしても軽い感じで済ませてる人が、普段しないような声でしゃべるなんてを取るなんて一大事だぞ。
≪他にもいろいろあるんだけど、あとは内蔵のマニュアルでも引っ張って見てね。それと最後に。……もしクリム・マーカーゾンという女の子に出会ったら、君は何も悪くないと伝えて≫
「クリム?……ひょっとして、クリム・マーカーゾン?」
「……ああ。コウヨウの奴……」
少女、クリムちゃんは複雑そうな顔でうつむく。
この子と父さんはどういう関係だったんだ?何かが原因で、この子は自分のせいで父さんが巻き込まれたと思ってるってこと?
ちょっとそのあたりを聞いていた方がいいかな?
≪あっ、それとこれ重要なことなんだけど、機体は起動させた人間の生体情報が無ければ動かないように設定させているから気を付けて。頑張ってくれ≫
「「はっ?」」
聞き捨てならない言葉を最後に、ブツリと音声は途切れた。
「ほら言っただろうあいつはそういうことする奴だって!」
「だってマジでやってるなんて思わなかったんだよ!?家に鍵かけないし、車の中に鍵は置きぱなっしにするし、そういうの無頓着だと思ってたんだよ!!」
「確かに私生活駄目な人間だけど、こういうのにはあれこれ凝るタイプだぞ!息子なら知ってるだろう!?」
「悪いけど機械関係に関しちゃそこまで詳しくないんだよ!こんな面倒くさいことする人とはさすがに知らな―――」
『機体システムノ正常ヲ確認イタシマシタ』
クリムちゃんと言い合っていたら機械音声に割り込まれた。
機械に言うことじゃないが空気を読んでほしい。
『コレヨリワープヲ開始致シマス』
「ワープ?」
「え、なっ!?外に出る気なのか!?おいすぐにベルト着けろ!」
クリムちゃんの方は何か察したのか、いつの間にか後ろの席に座ってしっかり両肩と腰のあたりにシートベルトを着用していた。俺も急いで同じようにする。
でもワープってことはさっきこの中に来た時と同じようなことをこの機体でやるわけ!?てか外って確か爆発音とか凄いしてたはずだけど、出て大丈夫なの!?
そんな疑問に誰かが答えることも無く。
『ワープ開始』
淡々と流される音声と同時に、体から一瞬何かが使われるような感覚を感じる。
浮遊感を感じた直後、青い空と3つの太陽が映し出された。