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一夜明け オルディネオにて

 オルディネオに捕らわれたソムルの住民達は今、格納庫にて結界魔法から解放された。

 周囲には銃を持った人形兵(ドールズ)を配置し逃げるような真似ができないようにしている。


「ようこそ我らオルディネオの本拠地へ。今日から君たちにはベール様のために働いてもらう。素直に言うことを聞けば命は取らないので安心したまえ。なんなら神のために働くのだから光栄に思いたまえ」


 グレイが住民たちにニヤニヤと嫌な笑みをしながら話しかける。

 もちろんそのようなことを説明されたところで住民たちはただ不安に怯えるだけだ。

 そんな中でソムルでレドの通信に応じたエイアという兵士が震えながらも大声を上げる。


「な、なにが働いてもらうだ!誰が貴様らの悪事など手伝うものか!」

「そ、そうだ!ふざけるなよ!」

「お前らの目的なんか知ったことか!」


 兵士エイアの言葉を皮切りに次々と住民たちは声を上げてオルディネオの行為を批判する。

 グレイもいつもあることのようにうんざりしながら右手をかざす。

 ローブがぐにゃりと歪めばサソリの尻尾のようになり、勢いよく伸びてエイアに巻き付き締め上げる。

 ミシミシと骨が軋む音を格納庫に響く。


「アッ、ガゥ……!?」

「貴様らの意見など聞いていない。嫌なら虫の餌にするだけだ」


 左手を挙げれば暗闇の奥からヌルリといくつもの物体が這い出てくる。

 4mほどのハサミムシの下半身とカマキリの上半身がくっついたような生物、20mはありそうな巨大なムカデが周囲を囲み、天井からは全身に目をはやした人ほどの蜘蛛たちが触れるかどうかの寸前のところ降りて威嚇をする。

 巨大な虫たちに囲まれ、住民たちは批判を止める代わりに悲鳴を上げ始める。

 

「そう騒がないでくれ。この子たちはうるさい奴が好きだぞ。ひょっと私の言うことを聞かず、ガブリ!するかもしれないぞ?」


 意地悪く笑うグレイの言葉を聞き、皆口に手を当て叫ぶのを必死に耐える。

 それが余計に面白くケラケラと腹を抱えて笑ってしまう。


「グレイ!何をやっておるか!」

「うん?おおベール様!……と、これはこれはフランツ様。それにシュバルツ」


 背後から聞こえた老人の声に振り向く。

 頭から髪の毛が完全に抜け落ちた杖を突いた腰の曲がった老人が、後ろにベールと、黒い仮面をつけフードで全身を覆い隠した170㎝ほどの彼の付き人のシュバルツを従えて立っている。

 ベールの名は嬉しそうに呼ぶのと正反対に2人に対しては幾分かトーンを下げて名を呼ぶ。


「そやつらは大事な贄だぞ!好き勝手してよいものではない!」

「分かっております。ただ反抗的であったため少々抑えつけただけです。……おい、そいつらを連れていけ」


 右手を元に戻してエイアを解放し、周囲のルドーに命令をして住民たちをどこかに連れていかせる。

 

「これでよろしいですか?」

「なんだその態度は!?オルディネオとしての自覚が無いのか!」

「落ち着いて下さいお爺様。グレイもわかっていますから」

「お前もだベール!勝手に戦場に出おって!教主に何かあってはいかんのだぞ!」

「此度のことはわがままをしてしまい申し訳ございません。ですがどうか怒りを鎮めていただけないでしょうか」


 掴みかかりそうになっていたフランツの肩にベールは手を置いて宥める。

 最初は顔を歪めていたフランツだったが少し落ち着き、フンと一歩引く。

 

「……今回だけだ」

「ありがとうございます、お爺様」


 フフッと戦っていた時とはまったく違う温和な笑みを頭を下げる。


「それでフランツ様は何用で。部屋から出ることの少ない方がこうして出てるということは何かあるのでしょう」


 齢90を超えているため、普段は一部の部屋に籠っているこの老人が態々ここまで来ているということは、そうする理由があるということだろうとグレイは考える。


「ああそうだ。今日から貴様らに仲間が増える」

「はっ?」

「仲間ですか」

「……」


 仲間という言葉にグレイは何故と思い、ベールはハァと興味なさげに頬に手を当てる。

 シュバルツはというとここまででも一言も発せず動きもせず黙ってジッと立ったままだ。


「少し人形でない奴らを増やそうと思ってたところ、我らの活動に賛同する連中を見つけてな。今出す」


 左手の指をパチンと鳴らせば背後に魔法陣が現れ、そこから60人ほどの人間が現れる。

 動きが止まったように微動だにしない人間たちに対してもう一度指を鳴らすと、一斉に動き始める。


「なんだ、俺たちは確か光を見て!?」

「ここは一体……。」

「おいあれ、デカ鎧だぜ!?」

「うおぉ、じゃあここがオルディネオの基地か!?マジで来たのかよ!」

「……なんだこいつら」


 山賊のような恰好の連中は一度きょろきょろと周りを見渡した後、ルドーを見つけるとテンションを挙げて駆け寄りべたべたと触り始める。

 この場にふさわしくない、汚らしい恰好をした真っ当でなさそうな連中にグレイは嫌そうな顔をする。

 

「ヴォラルズという犯罪者集団は知っているだろう。こいつらがそうだ」

「なるほど、道理で意地汚そうな見た目をしている」


 グレイはフンと鼻で笑う。 

 犯罪者集団ヴォラルズ。

 10年以上前から活動しており、各地で略奪や殺人を行う凶悪な犯罪者集団として指名手配をされている。

 だがグレイからしてみれば数だけいる存在という印象であり、実際に目の当たりにし間違っていなかったと己の判断を誇った。


「なんだね君?ボクたちを侮辱するのか?」


 そんなグレイの言葉が聞こえたのか、ヒョロリと線の細いくすみのある茶髪の男が不愉快そうに睨みつけてくる。


「……おやぁ?君は『怪人』グレイ・ジンではないかね?死んだと聞いていたがね?」

「そうなのか。実に当てにならない情報だ。そういう貴様は……、あ~、誰か知らんから名乗れ」

「ボクを知らない?このイーファスを?少々情報収集が足りないのでは?」

「知らんな。あいにく貴様ら程度の名前など覚えようとは思わないのでな」

「き、貴様……!」


 わざとコケにしているのだろうというのが態度で丸わかりだ。

 分かっていも我慢できず、ナイフを右手に振りかざし襲い掛かろうとして、後ろから伸びた手に止められる。


「やめろイーファス。いちいち喧嘩を買うな」

「しかしサリク!」

「争うためにオルディネオに下ったわけではない」


 3mはある頭部に2本角を持つ赤い肌の鬼のような大男、サリクが戒める。

 細い男、イーファスはそれでもと抗議するが、ギッと一睨みされると押し黙り、そそくさと後ろに下がる。


「無礼を働き失礼したなグレイ・ジン」

「分かるやつがいるようだな、部下のしつけは―――」

「今回は先に喧嘩を売ったグレイが悪いですよ?」

「ちょ、ベール様!?」


 フフンと尊大な態度をとっていたら、ベールに指摘をされる。


「事実でしょう?これから仲良くするのですから、そのようなことはやめなさい」

「こ、こいつらとですか!?」

「ダメですか?」

「あ、いえ、その、けっしてですね!」

「ブハハ!さすが教主様!もっとこのアホに言ってやってください!」

「黙れ貴様!ベール様に軽々しく喋りかけるな馬鹿者!」

「こらお二人とも!」


 動揺するグレイにイーファスが茶々を入れたせいでまた口喧嘩が始まり、それをベールが止めようとする。

 先ほどよりは馬鹿だ阿保だの単純な罵り合いなのでまだマシだろう。

 しかしその光景をサリクは気持ちの悪いものを見てしまったような目で見る。


(グレイ・ジン。11年前に一度仕事を共にした時はこんな男では無かったぞ。なんだこの変わりよう?)


 『怪人』の異名を持つ男。

 国民一人残らず殺戮し国一つ滅ぼしたこともある超がつくほどの極悪人。

 実際に会ったときは感情を母親の腹の中に置いてきたのではと思うほど無表情だった男。

 10年前に大軍を持って討たれたとも噂されていた男がこうして生きていたことも驚きだが、普通の生物のように感情豊かに、それも女相手に狼狽するなど想像できるはずがなかった。


(オルディネオに襲われるぐらいならいっそと傘下に入ったが選択を間違ったか……)

「サリク殿」

「あぁフランツ殿。申し訳ない。部下がバカ騒ぎをして」

「気にするな、手荒な方法で連れてきたのだ、あの程度問題無い」

「恐れ入ります」


 フランツはニコニコと笑顔で対応する。


「それではこの基地と君たちに今後してもらうことについて説明させてもらうがよろしいか」

「分かりました。……テメェラ!いつまでガキみてぇに騒いでやがる!!集まれ!!」


 格納庫に怒号が響く。

 子供のように騒ぎ立てていたイーファスやヴォラルズの団員達は慌ててサリクの近くまで集まる。

 

「いやはやお見事。では、と言いたいですが私はこれから別件があるので、このシュバルツに案内させます。頼んだぞシュバルツ」

「了解しました。皆様ついてきて下さい」


 仮面のせいだろう男とも女とも判別できないくぐもった声でシュバルツと呼ばれた側使えのような存在が返事をし、そそくさと後ろを確認もせず格納庫から出ていこうとするので急いで後を追う。

 ぞろぞろとヴォラルズたちが全員出たのを確認してから、フランツはハァーと息を吐き懐から煙草を取り出し一服し始める。


「お爺様、煙草は体に毒ですよ」

「オレの楽しみを取るのか」

「フランツ様の体はいいとして、なぜあのような連中を。どう見ても我々の思想に賛同していないでしょう」

「そんなの分かっとる。それなりに実力はあるからいい捨て駒にはなりそうだろ?」

「彼らは目的の対象外ということですか」

「そうだ。波長を調べたが奴ら全員、グレイと同じ人工生命体だ」

「……それにしては弱そうだが?」

「貴様より前の失敗作だ。あいつらは子供の時に親に捨てられたと思い込んでいるから事実を言うなよ。なんならお前の兄弟分なのだから仲良くしろ」

「それを知ったので、余計お断りする」

 

 ケッと吐き捨てる。

 貴様はそういうだろうなと特に気にすることも無く煙草をもう1本吸い始めようとするがベールに奪われる。


「だから駄目ですってば」

「あーハイハイ分かった今日はやめる。そういうお前も今から治療の時間だろう。部屋に戻るぞ」

「あらもうですか。じゃあグレイ、お爺様を運んであげなさい」

「虫の使用を許可いただければ」

「絶対やめろ」


 最初の頃のとは違い、どこか緩やかな空気を醸しながら格納庫を後にするのだった。







「……よくもまあ、皆さん本音を隠して接せれるなぁ」


 目立たない隅の方で作業をしていた光陽はこれでもかと違和感を感じる彼女ら彼らの関係にポツリと呟いた。


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