一夜明け 光広たち
ソムル国での戦闘から一夜明けた朝。
他の貴族や議員などとの会合がある程度落ちついたため、国王の自室で執務用の机を挟んで王とレド、リグン、ルーブが集まり今回の戦闘の話をしている。
「本当にあの少女はヴァセ・ヴァイスの娘だと思うか」
マーカーゾン王がヴァイスの娘と名乗った少女の言葉について真偽を問う。
「わしらの知る限り結婚どころか親密な女性の話すら無かった人にいきなり子供がおった言われても信じれん。そこらの娘にそう偽らせとるだけじゃろう」
ヴァセ・ヴァイスという人物は女性関係の浮いた話は全く無く、縁談を勧められても全て断っていたほどだった。前の戦争中に手に入れた時の情報ですら女性関係については影も形も無かったという。
なのに今になってその娘を名乗る人物が都合よく現れるなどおかしいとリグンは考える。
「自分は赤の他人ではなく、親族の誰かの子供がそう名乗っていると思います」
「しかし、ヴァイスの親族はもうおらんはずじゃろう?」
前の戦争のあと、オルディネオの残党討伐、および神輿として利用される可能性のあるヴァセ・ヴァイスの血縁の調査が全国規模で数年の間は行われたため、オルディネオの残党はいなくなったとされた。
またヴァイスの血縁については確認できた限り年老いた彼の母親だけであり、結局他には見つけることは出来ず、その母親も病気でとてもではないがまともな生活を送れるような体ではなく、16年前に病院で息を引き取っている。
「それにそいじゃとヴァセ・ヴァイスの娘だから協力しとるゆう奴らがいたとして、それがバレたら厄介事になるかもしれん。んなリスクを背負うもんかね」
「それは承知の上で、今のオルディネオを維持するためにやってるかもしれません」
いくつか自分の思うことをあーだこーだと話し合う二人をよそに、レドはさきほどから腕を組んでずっと黙ったままだ。
珍しい事もあるものだと王が思っているとポツリとレドは呟いた。
「エネス族の虐殺」
小さいながらもはっきりと部屋に聞こえた言葉に議論をしていた二人も話を止めてレドの方を向く。
「覚えてる? 10年前、プレーリュの国境付近にある森にあるエネスの集落が壊滅した事件」
「ああ、当時騒がれた事件だからな」
エネス族。
耳が長い事以外は人間によく似た見た目をした種族で各地に少数が集まって森に集落を作り生活をしている。
魔法と身体能力のどちらも優れた存在であるが、自分たちこそもっともと優秀な存在と考え他種族との交流を汚れた行為として拒むような性格でもある。
自分たちの生活圏内に他の種族が近づかないよう様々な魔法を用いり、下手に関わろうとすれば容赦なく攻撃してくることでも知られる。
そんな彼らの集落が何かに襲われ住民が虐殺される事件が発生した。
剣や銃弾、あるいは何かの生物に食いちぎられたような遺体があちらこちらに散乱していたが、結局何があったのか分からずじまいのままである。
「あの森、ヴァセ・ヴァイスが森林浴のためによく訪れていたって話があってね。で、あのベールって子の耳がエネスみたいに妙に長いから、ひょっとしてね?」
「それはさすがに無いだろう。同種以外との会話すら汚れると考えるエネスだぞ?」
「例外もいないわけじゃないでしょ?」
「アルテは参考にならん。仮に関係があったとしても住人に生き残りは無く森も都市建設のために開拓されている。今からでは調査もままならんだろうさ」
「だよねぇ……」
あくまで思いついただけのことだったためしつこく食い下がることもなく話を終える。
しかしレドにはどうしても関係があるような気がしてならなかった。
(やっぱり最低限でもあの事件について調べよう)
無駄にならないことを祈りつつ、3人と今後についての議論を続けていくのであった。
◆
「親父さんレールガンはどう改良します!?」
「収納魔法での装弾数を増やせ!」
「ガージさん粘着剤搭載のミサイルが届きました!」
「グリフォス用のと使徒機用で別々にあるから資料見て搭載しろ!ワープ装置の方はどうだ!?」
「改良の方は順調に!それとアールモニーから核融合炉があと2時間で到着するとの連絡がありました!」
「到着次第すぐに装置に取り付けしろ!計算上エネルギーチャージが20分短縮できるから出来るだけ急げ!人が足りなきゃ声かけろ! ……こらそこ疲れがひどいならちゃんと休め!」
その頃、格納庫では晩からずっと、使徒機の修理補給、武器の調整などを行うためにあちらこちらで整備員たちが作業に追われており、その中でガージはしきりに指示を飛ばしつつ報告を受けていた。
仰向けに置かれたゴウエンゴーとセイロウガはどちらも目立った外傷はない。ただ今回はいつもとは違う敵を相手にしていたのでより念入りの整備を指示しておく。
一方でリュウオーは装甲を外し内部機構の修復を行っている。内部はプラズマ変換炉や光子変換炉が使用できなくなっているため急ぎ修理が必要だ。
比べて装甲表面にあちこちに焼けた痕は出来てはいたが僅かな時間で無くなっていた。ナノマシンにより簡易の自己修復機能によるものだろう。
(内部にダメージはあったがそれでも原形をしっかりと保つとは)
改めて日生光陽という男の無茶苦茶ぶりに呆れ、同時にそんな男が敵側にいることへ恐れを抱いてしまう。
「またあっちこっち忙しいね」
「ん?おお嬢ちゃんか」
「お疲れ様。はいジエレンティー」
クリムが飲み物を手渡しながら話しかけてくる。
周りでも他の人達が整備中の人たちに飲み物を渡している。
多くの人が長時間作業に集中して何も口に含んでいなかったので喜んで受け取っていた。
「ここまで騒々しい状況っていつぶり?」
「初めて使徒機が使われて、急いでこっちのを戦闘用に改造した日以来だな。敵さんも前より厄介になってきたうえにボスが出てきたんだ。ここいらでテコ入れしとかんとな」
「ベール・ヴァイス、やっぱり異常なのか?」
「戦士で無い俺でも分かるもしリュウオーと同性能の機体にでも乗ってこられた日にゃどうなるか……」
ガージの言葉にクリムも同意する。
あれはリグンやルーブがあの場にいたとしても簡単に倒せないタイプだ。
それにおそらく全力を出してすらない。クリムにはそんな気がしていた。
「まあそれに対抗できるように鍛えていくしかないか……。ところで、ミツは?」
「……帰ってから出てきたところは見てない。まだ中にいるかもしれん」
「まだって……、あの中で一夜過ごしたのか?」
レドがコックピットから降りようとした際にもう少し中にいたいというのでそのままにしたとのことだったが、まさかずっといるとは思っていなかった。
光広にとって本格的な実戦で惨敗、守ろうとしていた人たちをまんまと連れ去られてしまった。
最初の戦闘でこれはつらい。だから帰ってきてもコックピットの残ったと聞いたとき、レドたちもいったん一人にさせてほうがいいだろうと考えてそのままにしたんだろう。
だがさすがにここまで長時間いるのを放置しておくわけにはいかない。
「ちょっと行ってくるよ」
「やっぱり、そろそろ出したほうが良かったか?」
「いつまでもこのままじゃあな。ちょっくら引っぱたいて気分転換をさせねえとな」
リュウオーに近づいてコックピットに入るよう念じる。
左腕に付けている腕輪が反応してすぐさまコックピットの中へと移動した。
さてと、と光広の声を掛けようとしたが、モニターにはソムルの風景が映し出されており、また大量の黒鎧達が銃を撃っていた。
(訓練用のシミュレータ?)
もしかしてずっとこれをやっていたのか?と声を掛けようとしたが、後ろ姿からでも集中しているのが見て取れるため黙って観察する。
銃撃を躱しているのだろう、画面が右へ左へとぶれながらも黒鎧に近づいていきつつ射撃を行う。黒鎧には回避した奴もいれば回避できずにハチの巣にされるものもいた。
射撃、格闘で敵を撃破しつつ敵の攻撃はすべて回避しようと必死に動いているがどうしても当たってしまうようだ。
苦戦しながらもどうにか最後の一体を撃破し、画面にはクリアの文字が映し出される。
「ロン、どうだった?」
≪被弾率4割。攻撃命中率6割。時間モ前ヨリ8分カカッテマス≫
「マジかクソ……。ならもう一回頼む」
「それだったら休憩はさめば?」
「おわっ!? えっ、クリムちゃんいつから!?」
続けてシミュレータ訓練をやろうとする馬鹿を止めるために声をかけると体を跳ね上げながらなんでここにいるのと言わんばかりの顔をする。クリムが入ってきたことにも気づいていなかった。
「お前さ、今までずっとシミュレータ訓練やってたの?」
「ず、ずっとじゃないよ。たまにトイレ休憩を」
「ロン?」
≪帰還シテカラ10時間36分休マズヤッテオリマシタ≫
「何で本当のこと言うんだ!?」
≪答エタ方ガ良カッタカラデス≫
「馬鹿そこは黙っておくんだよ! いや違うんだよ、ロンの奴機械のくせに嘘をだね」
素直に答えるロンによって慌てふためく光広に、ただただ呆れのため息が出るだけだ。
「戦闘後すぐにそんなことしてもそりゃいい結果出るわけないよ。そんな簡単なことも分からない?」
「……分かっちゃいるけど、部屋に戻る気になれなくて……」
「さっきの戦闘のせい?」
「………」
光広は黙って頷く。
「無理言って出撃させてもらったのに叩きのめされて、みんな連れてかれたんだ。部屋に戻っても落ち着いていられる気がしなくて、だったら少しでも腕を磨こうと思ったんだ」
声を震わせながら言う言葉からは自分に対しての不甲斐なさと怒りを感じられ、だからこそもう少し考えるべきでないかと自分が言えた事ではないがクリムは思った。
「そう思うのなら余計に休息を取った方が良いよ。このまま続けても肉体より精神が参るぞ」
「だけど今のままじゃ―――」
「無理はいけない。特に内に感情を溜めただけが一番危ない。母さんもよく言ってた」
「クリムちゃんのお母さん?」
「そ。プレーリュの国一番の戦士だった人が言ったんだ、参考にするべきだぞ」
「そんなに凄い人だったの?」
「よくぞ聞いた! ホントホント! 前のオルディネオの戦争でめちゃくちゃ活躍したんだからな!母さんのまえじゃ千人の兵士もちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回りは今でも武勇伝としてたまに演劇なんかをやってるんだ!さらに幾多の男性を虜にするほど美人でプレーリュの王族貴族からもお声がかかってたんだ!おかげさまで射止めた父さんは惚れ薬か洗脳用の機械を使っただとかいろいろやっかみを言われて、まあそう言ってた奴には得意げな顔しながら自慢しまくったらしいけど。他にも―――」
「わわわ分かった!ストップストップ!」
このまま止まらない勢い誇らしげにどんどん語ろうとするクリムを急いで制止する。
「……悪い」
「いやこっちも止めてごめん、レドさんみたいに話すもんだからさ。お母さんの事、すごい尊敬してるんだね」
「6歳ぐらいまでしか過ごせなかったけど、その間たくさんいろんなことを教えてもらったから」
「6歳まで、って、もしかして」
「ちょっと、色々とあってな」
「……そっか」
色々というのがどういう意味なのかなんとなく察しはしたが、寂しそうにする顔を見て事情を聴かないようする。
「まあともかくさ、そんな受け売りの言葉だけど、怒りも恐れも全部力に変えて、次は勝つ。そのためにもまずは休息を取らなきゃ。連れ去られた人たちには申し訳ないけど、私たちに出来るのはそれぐらいなんだから」
「……それしかない、か」
どうしようもないことだけど、彼女からそう言われると不思議とそれが良いんだと思えた。
「だからまずは休憩をちゃんと取れ! 体ほぐしてうまいもんでも食おうぜ! 座りっぱなしは健康に悪い!」
「お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ」
少しだけ気持ちが和らいだ表情で彼女に答えた。




