第五歩 事態前進
「疲れたぁ…」
意気揚々と情報収集に出掛けたのは良かったけど、いやー文化の壁だ。日も暮れて夜になろうかというまでいろいろと回ってみたが結果は微妙だった。散々歩き回って分かったことと言えば、
・ここは村で
・人がそこそこいて
・農業が主で
・のんびりとした所である
以上です。いや、別にサボってた訳じゃないよ。お昼前から歩き回っていろんな所に何か分かるものないかとか探し回ったし、言葉が分かる奴がいないかと片っ端からいろんな人に声をかけてまわったよ。けど、全然いないし。看板とか意味が分からない絵か文字か書いてあったし、物の値段も分からず、案の定言葉も通じなかったのだ。これはまずい。今からどうしよう。出てくるときに泊めてくれたおじさんのとこは出てきたから泊まる場所ないし……。このまま野宿ってのは未知の土地だからするにはリスク高すぎるし、まして寝具等々何にもないからな……。仕方ない、恥を忍んでもう一晩だけ泊めてもらおう。
そう決めてあのおじさんの家についた。はずだったのだが、
あれ家どころか何にもない?
そこの場所だけぽっかりと空き、もともと何もなかったかのように空間が広がっていた。
本当にここだよな?周りを見て確かめてもここに変わりなかった。
いやいやいや、消えるってことはないだろ。だけどここだし、近所の人も変わらないし。
しかし、どんどん日が落ちてきていることに気が付いた。
やばい、疑問は尽きないけど今は寝床を探さないと。どっかに宿屋でもないかな。
考えながら歩きだした時に少し先の道の真ん中にでポツンと立っている人がいることに気が付いた。黒いローブらしきもので顔が隠れていたので何者なのかは分からなかったが、どうも周りにあってない感じがして、奇妙だ。今更引き返すのもおかしいと思い、意識しないように通り抜けようとした。しかし、横に来たときにそいつは一言だけ呟く様に言った。
「ありがとう」
え。驚きつつ振り替えると既にそいつは走り出していた。反射的に俺もすぐに追いかけた。
聞き間違えじゃない。今確実に聞こえた。自分にも分かる言葉で。
全力で追いかけているのに全然追い付く気配がない。かといって離れているわけでもない。まるでわざと速度を合わせて誘っているかのように。
辺りはもう日が沈み、暗闇に包まれていた。
そろそろ……限界なんだが……一体どこまでいくんだ?
しばらく走り続け、見たことがあるものが見え、ここがどこなのか分かってきた。
あれって、最初に見た小屋だよな。あの村の近くだったのか。
そのちょっと視線を外した瞬間にそいつは目の前に止まっていた。
「うわっ!」
走り疲れていたこともあり、その場に転んでしまった。なんとか受け身はとることが出来た。
いってぇ、じゃなくてあいつは!?
あわてた周囲に目を向けるとそいつは横にたっていた。そして何も言わずに右手を差し出してきた。混乱しつつもその右手を握り、身体を起こす。その手は以前助けてもらったとても心地のよい手だった。立ってみると自分より身長は低いらしく160ちょっとだろうか。
この人があの時助けてくれたのか。
「あ、ありがとう」
そういうと 彼女 はフードで表情までは分からないがニコッと口元だけ笑って見せた。
そこまでは良かったのだが、彼女はどんどん手を引っ張って進んでいく。走りきってふらふらの所を無理やり連れていかれ、転けないようにするだけで精一杯だった。
どこに連れていかれるんだ?
目の前にはあの時の小屋があった。扉の目の前に来ると、不思議なことにあの時鍵が掛かっていた扉は触れることなく勝手に開いた。しかし、当たり前のように彼女はどんどんと進んでいく。
小屋の中は下へ降りる階段が一つあるだけ。中に明かりはなく、暗闇だけがあった。それでも彼女は物怖じせずに歩いていく。手を引かれているため自分もそれに習う。転けないように慎重に歩いていく。階段を降りるとトンネルが、ずっと続いていた。なんとか夜目が利き始めたが、全然先は見えない。
まさかも何もこれを歩かないといけないんだよなぁ……。なんだか彼女に手を引かれるのが囚人のように思えてきた。
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一時間くらい歩いただろうか、周りは相変わらず暗い。たまに話しかけてみてはいるがこちらを見るだけで言葉を返してくれない。
まったく、何なんだよ。
と、突然彼女が足を止めた。すると、手を離してその場にぺたんと座った。
休憩ってことかな?自分も隣に座ろうと思ったが異性の隣に堂々と座る勇気もなく少し間を開けた。次に彼女はローブの中から何かを取り出してこちらに差し出してきた。受け取ったのはいいけどなんだこれ?
彼女はそれをもう一つ取り出し自らの口に放り込んだ。
あ、食べ物なんだ。
自分も口にいれてみる。甘くてキャラメルみたいな味だ。
久しぶりの甘味にしばらくリラックスしていると、彼女はスッと立ち上がりこちらに手を差し出してきた。自分もそれに答え、手をとり再び立ち上がり歩き出した。
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またしばらく歩きながら無駄だと分かっていても話しかける。長いですねーとか、暗いですねーとか。
ずっと歩くのは暇なんだよねー。
そう何度か話しかけたとき、今まで反応がなかった彼女が立ち止まった。そしてローブから何かを取り出して確認し、頷いてからこちらに振り向くと、
「私の言葉が分かりますか?」