第十六歩 ガンマスター
煙突から煙が上がり、中からは何かをリズムよく叩く音が聞こえる。
「こんにちはー!」
自分が来ているのは村でただ一つの鍛冶屋。村の農具や剣などの鉄製品はここだけで補われると言うので驚きである。
「誰だ?って村長か。どうした?」
答えたのはこの店の主。やはり職業柄ごつい。腕の太さに感動してはいたが仕事は忘れない。
「中の見学ってさせてもらってもいいですか?」
「見学?邪魔にならないなら別に構わないさ。ちょっと待ってろ。」
お礼を言いつつ奥から弟子であろう人(精霊だけど)に付いていく。村唯一とあって働く人は比較的予想より多いが、ほとんどは道具の手入れなど雑用ばかりで剣を打つことなどはまだまださせて貰えないみたいだ。どこも弟子というのは大変だ。中の施設、作業場等を一通り説明つきで案内してもらったとき一つの物が目に留まった。明らかに回りと違うそれが凄く気になった。
「これって?」
「ああ、私達が練習で打たしてもらった時に出来た作品の一つです。それはちょっとおかしいですけど。」
確かに他の作品とは明らかに違う雰囲気が出ていた。
「それを作ったやつは私達が求めている物とは違うものを作りたいそうなんです。」
「なるほどね。」
適任者を見つけてしまったかもしれないな。
その後全ての場所を見て回り、弟子にお礼をいって帰した。
「どうだった、うちの鍛冶屋は?」
「やはり凄いですね。実際に打っているのを見たのは初めてでしたが、ここが村の原動力になっているというのがよく分かりました。」
「そうかそうか!」
「はい。所で一つお願いがあるんですがよろしいですか?」
「お願い?」
「はい、弟子の方を一人こちらに貸しては頂けませんか?」
「弟子をか……。」
師匠としては育て上げた弟子達を簡単に外に出すようなことはしたくないのだろう。
「俺に行かせてください!」
突然後ろから声がし、振り替えると一人の男が頭を下げていた。
「アミサカ、客人の前だぞ!」
「分かっています!でも今でなければ俺はきっと選ばれないでしょう!」
アミサカと呼ばれた男はこちらに向き直りまた頭を下げた。
「村長、どうか俺を使ってください!」
「アミサカさん、顔を上げてください。なぜそんなに必死なんですか?」
アミサカは勢いよく顔を上げ、待ってましたとばかりに話を始めた。
「強い武器を作りたい!今の武器では奴等に負けてばかりだが、もっと強いものを作れば今まで助けられなかった仲間や村も守れたはずだ!深い理由なんてないがこの気持ちは本物だ!村長、頼む!」
師匠の前で今の武器を批判するのは如何なものかと思うがその熱意は好きだな。
アミサカの肩に手をおき、目の前で親指を立てる。
「君、採用。」
「本当ですか!?」
「え、それでいいのか村長?」
師匠さんもびっくりしているが問題はないだろう。どうせ一からすることなんだから。
「問題なし。師匠さん、許可を頂けますか?」
「……、好きにしてくれ。」
「師匠!ありがとうごさいます!」
「うちの名を汚さぬように精一杯やれ。」
「はい!」
こうして必要な人員を確保出来たのだった。一旦家に戻り必要な物を取ってその足でタチさんの所へ向かう。
「タチさん、いますか?」
「突然だな村長。今日は何用だ?」
「資材の備蓄状況の伺いに来ました。」
「そうだな。家を数件建てれる程度にはあるな。」
「それはよかったです。そこで早速建築依頼を出したいのですが。」
「お、遂にか。何を建てるんだ。」
「工房です。」
そういって家から持ってきた設計図を渡す。この設計図は小屋にあったものを元に自分たちで分かりやすいように書いてある。
「ここまで決まってれば作るのは早くできる。任せてくれ。」
「はい、お願いします。」
タチさんの元を後にし、また家へと向かう。
「さて、アミサカさん。早速貴方に仕事を任せたいのですが。」
「ああ、何でも言ってくれ!何を作ればいい?」
「銃です。」
家につき住人に自己紹介してから早速三八式歩兵銃を持ってくる。
「これです。」
「これは槍か?」
「それは銃といって……。」
いつもの説明である。
「なるほど、そりゃ強いな。」
「ええ、なのでこれを作ってほしいんです。」
「任せろ!で、どうやって作るんだ?」
「これから説明しますね。」
気合いは十分。気合いは。三八式を分解しながら部品の説明、銃弾そして分かりやすくした設計図を一緒付ける。
「よく分かった!あとは場所と材料さえあればすぐにでも。」
「はい、さっき頼んだ工房はそのための場所です。資材に関しては村の貯蓄分を優先して回します。」
「そこまでしてくれるなら頑張らないとな!」
「この銃が一丁でも多くあればそれだけ村の守りは固くなります。ぜひ宜しくお願いします。」
アミサカとはここで解散となった。外で見送ってから中に戻るとサクラが待っていた。
「お疲れ様です、隊長。」
「お疲れ、そっちはどうだった?」
サクラには事前に別の頼み事をしてあった。
「はい、カツトシ様のお陰ですぐにでも製作に取りかかれそうです。」
「それはなによりだな。」
サクラに頼んでおいたのは、機関銃。突撃する敵兵にその威力をもって叩き潰し、戦場の状況を一変させてしまった兵器である。
そのなかでも九六式軽機関銃というものを選んだ。理由としては弾薬が三八式歩兵銃と同じ三八式実包であること。生産、使用にあたりカツトシさんの助言を得られることの二つである。
「機関銃さえあれば防衛戦に関しては戦力は何倍にも膨れ上がるからな。」
「日露戦争、第一次世界対戦で嫌というほど理解出来ました。」
その後は四人でモミジの晩御飯を頂き(サクラもカツトシさんの家に置かせてもらった)いつもの作業に入るため裏の倉庫に向かう。
「今日も頼むぞ。」
目をつむり頭のなかで三八式歩兵銃をイメージする。暫くしてガチャガチャと音がし、手にずっしりと重い感覚がくる。続けてイメージし続けるがそれ以上何かが起こるような気配はなかった。
ここで毎日三八式を微精霊の力を借りて作っている。ここで作ってるなら別に生産を頼まなくても良いじゃないかと思うが一つ問題があった。微精霊だけで作ったものには微精霊が媒介することが出来なかったのである。これは微精霊自身であるサクラからもたらされた情報なのでそうなんだろう。そのためのここで作っているのはミマリ以下警備員の為の物である。今まで作ったのは全部で10丁。出来たものは既にミマリに預けて使い方の指導をしている。なかなか筋がよくすぐに理解してくれたため他の隊員の練度も早めに上がるだろう。
今日は疲れたしここまでにしとくか。
家に戻りすぐにベットに転がった。