人の中へ
リンデル王国は、存在した。
初めての村は、リンデル王国の北西の端になるそうだ。
麦や野菜を作り、畑を荒らす獣を時々狩って暮らしている。
小さな、男爵領地の一部であり、収穫が少なければ、納税にも困る。
滞在しながら、獣を狩り、村人の食卓を豊かにする雪乃は、歓迎されていた。
村長の家で過ごしながら、この先どうするかを、村長と考える。
王都までは、馬車で一週間。飛翔すればもっと早いだろう。
人里の上を飛翔するのは、どうなのか?
問題は、一応無い。魔法使いが飛翔するのを禁止する法律は無いから。
ただ、驚かれるのは避けられない。
腰を抜かす人はいるだろう。
村の男たちもそうだったし。
だからといって、飛翔できるのに、わざわざ危険で時間のかかる馬車の旅をするのも、勿体無い。
できるだけ、街道沿いを飛翔することに決めた。
地図は貴重なので、メモ帳に、簡単に書き写しておいた。
軍の物資は、冒険者になり、人脈を築いてから、なんとかするしか無いだろう。
つまり、王都で暫く暮らすべきだと、村長は言う。人との繋がりは、時間を掛けて作るものだ。
雪乃が一番苦手なことだけど。
師匠の頼みを実行しないと、弟子として、何か不甲斐ない気がする。
ちなみに、木でできた家で、雨季を耐えられたのは何故か、聞いてみたら、雨季といっても、人の住む辺りでは、家が流されるような雨は降らないそうだ。
聖樹の辺りは厳しい環境なのだ。
聖樹も、今は、伝説みたいになっているらしく、本当にあるとは驚くことだと言われた。
ガルデス師匠たちの戦いは、いつの時代かまでは分からなかった。
王都に行けば、詳しい本があるだろうから、とりあえず王都を目指すことにする。
結局、五日間滞在して、燻製肉を作り、宿泊費の代わりに、かなりの量を押し付けた。
またいつか、落ち着いたら、遊びに来るからと、挨拶をして、旅立つ。
村から道を少し歩いたところで、地面を蹴って飛翔する。
畑があったり、川が流れていたり、荒れ地もあるけど、村や町をいくつか過ぎて、草原を見つけて降りる。
昼食の休憩だ。
燻製肉と、果実を食べる。
夕方まで、また飛翔する。
夜は、聖樹の側に戻ろう。泉の水もほしい。
ちょっとだけ久しぶりの聖樹。
焚き火をおこし、肉を焼く。
今日は美味しいパンも食べる。
最初の目標が近づいたお祝いだ。
朝は聖樹の恵みを受け、朝食を食べる。
泉の水を汲んで、昨日の場所に移動する。
地面を蹴って飛翔して、街道沿いを飛ぶ。
人里が切れて、荒れ地と小さな森がある。
街道に、何か見えた。馬車の列だ。
隊商だろうか。
ちょっと驚かせてしまうかも知れないな。
と、思った時、森から何か出て来た。
獣か?人だ。
隊商に向かって、武器を振り上げて走る、盗賊だ。昼間から物騒だな。
ほんの一瞬、迷ったが、隊商から出てきた護衛らしき人たちに、矢が飛ぶ。
急降下しながら、風刃を飛ばす。
剣を出して、盗賊の一番強そうな者を目掛けて、斬りかかる。
腕と足を狙い、斬る。
盗賊団といえるほどの人数だが、師匠の際どい攻撃からしたら、大したことは無い。
盗賊団に魔法使いがいたようで、火球が飛んできた。水を纏わせた剣で消す。
氷の刃で一斉攻撃をかける。
魔法使いには、特にキツいのを御見舞する。
師匠の攻撃なんて、当たってたら、死んでますよね?ってくらいだったから、恐怖は無い。
実は、護衛の方が、若干引いていたりする。
雪乃は、護衛のリーダーらしき人に尋ねる。
「捕らえるんですか?それとも?」
「あ、ああ、殲滅でいいが」
雪乃は向き直り、強力な風刃を飛ばす。
死の風だ。
盗賊は全滅した。20人くらい。
雪乃が振り向くと、護衛が一歩下がった。
「治癒の必要な人はいますか?」
「あ、えっと、怪我人はいるか?」
「三人ほど、矢傷です」
「では、治癒しますね」
怪我を治して、やっと落ち着いて話をする。
「この辺りは、昼間から盗賊が出るんですか?」
「最近、盗賊団の噂があった。田舎だから大した金品も無い。まさかと思っていたが」
「そうなんですか。治安が悪いわけではないんですね」
「助かった。あの人数は無理だった」
「それで、盗賊たちは、どうしますか?」
「処分しないといけない。血の匂いで獣が出てくる前にな」
「処分と言いますが、何をすれば?」
「若い女性にはキツい話だが、焼いて、埋めるんだ」
「分かりました」
「え?」
死体を浮遊で集め、炎を放つ。
金属とか、ガラスとか、細工させられたから、半端な炎じゃ無い。
ほとんどすぐ、炭化した。
その真下に穴を掘る。掘った土をかける。
ずざぁーざざぁーみたいな感じ。
「こんな感じですか?」
「あんた、いったい?Sランク冒険者か?」
「これから、王都で冒険者になります」
「信じられん」
「えっ?何かいけませんでしたか?」
「いや、凄いよあんた。空飛んで、盗賊団片付けて、後始末までかよ」
「私、冒険者になれますかね?」
「なれるさ。その時のギルドのヤツらの顔が見たいくらいだ」
「何かよく分かりませんけど、先を急ぐのでまた飛びますね」
「ああ、俺はBランク冒険者のデュークだ」
「私はユキノと言います。ではお先に」
「ああ、またな。ありがとうよ」
お礼を言われたから、良かった。
地面を蹴って飛翔する。
隊商の人がコケてたような気がするけど、まあいいか。
街道沿いに、また飛翔して、適当な草原に降りて、昼食を食べる。
休憩したら、また飛翔する。
また、畑や村が見え始め、町も少し大きくなってきた。
夕方、適当な町の近くに降りて、覚えたら移動する。
聖樹の側で夕食を食べる。
明日あたり、王都に着くはずだ。
緊張や不安はあるが、大丈夫だ。
冒険者になって、師匠の生きた時代を知り、物資を返す。
聖樹に凭れて眠る。
王都でお金が手に入らなかったら、毎日聖樹に戻ろう。
翌朝は、早めに出発して、昨日の場所から飛翔する。
昼過ぎには、遠くに城壁のようなものが見えた。王都だろうか。
スピードを早める。
大きな城壁だ。弾丸のように飛び、城壁の近くに着地した。
大きな門がある。通過する列がいくつかある。
よく見ると、商人用、貴族用と思われる列と、一般用らしき列がある。
一般用に並ぶ。
身分証明は無いが、仕方ない。
なんとか王都に入れることを願う。
順番に、門番の兵隊と何か話したり、何かを見せたりしている。
ついに、順番がきた。
「冒険者か。冒険者証はあるか?」
「いえ、冒険者になるために来ました」
「何処から来た?」
「北の方です」
消防署の方から来たみたいに怪しいよね。
「何か、身分を証明するような物は?その腕輪は?確か、マジックアイテムだな。ステータスが分かる。珍しい物を持っているな。ステータスを見よう」
何か嫌な展開な気がするけど、
腕輪に手を触れる。
ちなみに、本人以外が触れてもステータスは見られない。
ユキノ、18歳
レベル、200
体力80000
知力80000
俊敏80000
魔力80000
スキル、【体術】【短剣】【剣】【槍】【言語理解】【文字認識】
【魔法】火、水、風、土、雷、氷、
聖、闇、無、時空、重力、付与
また上がってるな。
門番が慌てた様子になる。
「ちょっと、こっちに来てくれ」
仕方ないな、身分証明無いからな。
ステータスを消して、付いて行く。
連れて来られたのは、門番小屋の奥。
取り調べ室、ではなさそうな、普通にソファーとテーブルがある。
「冒険者になるんだったな」
「はい、できれば」
「少し待っていてくれ」
慌てた風にどこかへ行ってしまった兵隊さん。門番は代わりがいるのだろう。
拘束されたわけではないようだ。
15分ほどで兵隊さんが、誰かを連れて来た。
目上の人への礼儀で立ち上がり、会釈する。
連れて来られた人は、壮年の、体格が良い強そうな男性だ。
「初めまして、私は王都の冒険者ギルドのギルドマスターのドルトスだ」
「初めまして、ユキノと申します」
いきなり、ギルドマスター?
「座って話そうか」
「あ、はい」
座った。なぜか兵隊さんも座る。
「門番のギリムくんが、冒険者志望の若い女性が来て、ステータスがおかしいと言ってきたものでね」
「ステータスが、おかしい?」
「あんなステータス、見たこと無いです」
「私にも見せてくれるかな」
腕輪に触れる。
大人の男性が二人、口を開けている。
師匠の方が男前だな。多分。
「桁が、違う」
「ドルトスさん、そうでしょう。俺の見間違いじゃなかったでしょう」
「すみません、あの、私、冒険者になれないんですか?」
「いや、なれる。が、ちょっと待ってくれ」
「ドルトスさん、特例ですか」
「そうなるな。ギリムくん、彼女は連れて行くが、構わんな」
「はい、構いません」
「それと、このことは、誰にも話すなよ」
「はい、ドルトスさん」
なんかよく分からないけど、ひとつだけ分かる。ギリムくんは話しちゃうな。
門番小屋経由で、王都に入る。
ギルドマスターのドルトスさんに連れて行かれたのは、勿論、冒険者ギルド。
五階建ての一階の受付をスルーして、五階の部屋、ギルドマスターの部屋に案内された。
ソファーをすすめられて、座る。
綺麗なお姉さんが、お茶とお菓子を出してくれる。歓迎はされている。
「旅で疲れているだろう。お茶を飲んで、お菓子を食べてから、話そう」
「はい、ありがとうございます」
喉が渇いていた。お茶は、ポットみたいな物を置いてくれている。
すぐにお茶を飲み干したら、ポットを指差してくれた。もう一杯飲む。
少し落ち着いた。
「お茶もお菓子もまだある。遠慮なく食べて飲みながら、話をしよう」
「はい、お言葉に甘えます」
「君のステータスは、おかしいと言ったが、あり得ないわけでは無い」
「はい」
お茶をもう一杯注ぐ。
「あのステータスで、冒険者ランクの一番下から始めるのは、勿体無いのだ」
「私のステータスは、どこがおかしいんですか?他人のステータスは知らないので、分からないです」
「全部だ。レベルは理論上無限に近いし、ステータスの数値も理論上は無限だ」
「そうなんですか?それなら問題は?」
お菓子に手を出す。
「しかし、実際に上げるのは、なかなか難しい。レベルも三桁はほぼいない。数値など四桁が高い方だ」
「もぐっ、ゲボッ」
「しかも、魔法属性が全部持ちだ。魔法が使える人はそこそこいるが、属性二つくらいが普通で、三つ四つは非常に稀だ」
「ゲボッ、ズズッ、そうなんですか」
「君のステータスは高過ぎるんだ」
「……は?」
沈黙が流れる。
「腕輪が故障することは考えられない。故障したなら、何も見れないはずだ。あのステータスになるまでに、どんな困難があったか、話して貰えないか」
「話します。けど、その前に、冒険者証は貰えますか?後、お金が無いので獲物を売る場所を教えて貰って、宿も決めないと街中で野宿とか、困ります」
「ああ、そうか。冒険者証はすぐに作る。獲物は今日は特例で、ここで買い取るし、宿屋も紹介しよう。話は明日改めて聞こう」
「助かります」
それから、獲物の査定をする人が来て、獲物が珍しいから、値段に悩み、ドルトスさんは何かの機械で、冒険者証を作りながら、ギルド推奨の宿屋に連絡の人を出したり、忙しかった。私以外が。
冒険者証を貰って、ランクを見たら、Aランクだった。
Sランクでもいいくらいだと言われたけど。
昔は、腕輪が冒険者証だったらしい。
今でも使えるけど、ステータスでいちいち驚かれるのは困るだろうからと、カード型の冒険者証を貰った。
カード型の冒険者証は、特に確認したい時だけ、ステータスを表示できる。
冒険者証は、各国共通の身分証明書になる。
ランクが高いと、自然と丁寧に扱われるそうだ。
カードの材質は、ランクによって違う。
Aランクはミスリルだそうだ。
大丈夫なんだろうか?
王都ギルドのマスターが認めたからいいのかな。
獲物は、聖樹の側の火吹き鳥と熊を二体ずつ出したら、金貨40枚もくれた。
珍しい物を、騙されず、安心して売れる商人を探してくれるそうだ。
王都初日は、宿屋に直行になった。
宿屋は初めてだ。
そこそこ良さそうな宿屋で、部屋に案内されたら、お風呂があった。
とりあえず、一階の食堂で、夕食を食べる。
肉をよく煮込んだシチューと、焼き立てのパン。デザートはフルーツとコーヒー。
ちゃんとした食器を使い、清潔そうなテーブルで食事をする。贅沢だ。
部屋に戻ったら、ダニやノミがいないか、念のため、ベッドに熱風をかける。
それから、お風呂。
シャワーと、石造りの浴槽。
獲物を売ったら、着替えの服も買いたい。
下着が、特に。
師匠、リンデル王国の王都に来ましたよ。
師匠は、どこでどんな暮らしをしていたんだろう。
調べ物をする場所があればいいけど。
パジャマは無いから、服のままだけど、寝心地の良いベッドで眠った。
翌朝、爽やかに目覚めて、朝食を食べに行く。焼き立てパンに、焼いたベーコン。スープにサラダ、コーヒー。
贅沢だな。
聖樹の側の暮らしも好きだ。色々慣れたら行こうと思う。
朝食が済んだら、冒険者ギルドに行く。
朝のギルドは、人がいっぱいいた。
どうしようかと思っていたら、奥からドルトスさんが姿を見せ、階段を指差した。
また、五階に登り、ギルドマスターの部屋に入る。
「おはよう、宿屋はよく眠れたかな」
「おはようございます。久しぶりの良いベッドでした」
「それは良かった。さて、君の噂話が届いたよ。20人の盗賊団を倒して、後始末までした後、空を飛んで行ったとか」
「ああ、隊商の人たち、無事だったんですね。良かった」
「やっぱりSランクでも良かったかな」
「いえ、いきなりAランクでも怖いくらいですから」
「とりあえず、君の今までの話を聞こう」
「その前に、転生者や転移者をご存知ですか?」
「転生者は、見た目では分からないな。転移者は、たまにいる。どんな仕組みで現れるのかは分からないがね」
「転生者や転移者が、突出した能力を持つことはありますか?」
「それぞれ、それなりにだな」
「そうですか」
「転生者も転移者も、前の世界での知識を持ち、それを使い、この世界に貢献している」
「私が、転移者だと言ったら信じますか?」
「ふむ、転移者が強力な魔法か」
「信じて貰えなくても、話します」
「聞こうか」
また、長い話が始まる。
村長さんとは違い、ドルトスさんは、途中、色々な資料を出して来たり、人に使いを頼んだりして、ガルデス師匠のことも調べようとしていた。
昼になり、昼食を出して貰いながら、話を続ける。
「転移者が、召喚の研究をして、疫病が流行る事件か。しかも軍を出すくらいだ。何か記録があるはずだ」
「図書館はありませんか?」
「学校以外は、王立図書館だが…貴族専用になっている」
王立、貴族、軍隊、あることに気が付いた。
世界は、正直さや、善意だけで成り立っているわけではない。
「あの、王国に対して失礼な話ですが」
「何か思い付いたのか?」
「師匠の言葉通りなら、100人の軍隊が全滅したわけです。歴史を隠したかも知れないかと。ただ、亡くなった人たちの子孫は忘れないでしょうけど」
「ああ、そうか、そうかも知れないな」
「私は、物資を返したいだけです。師匠のことも知りたいですが、王国に物資を返す伝手を探して貰えませんか?」
「ギルドマスターは、国とも繋がりがあるが、管理される側だ。時間が掛かるな」
「時間は掛かると思っていましたから」
「そうだな、急ぐ方が良くないな」
「聖樹の森の話を続けましょうか」
「ああ、聖樹やら、精霊の契約なんか伝説みたいなものだ。聞こうか」
結局、夕方まで話し、また宿屋に直行だった。
冒険者ギルドには、できるだけ顔を出す約束をして、翌日からは、ギルドが紹介してくれた商人に、獲物を売り、買い物をすることにした。商人には、ギルドマスターの紹介状を渡すように言われた。
商店が集まる場所を探し、まず、本屋で地図を買う。
リンデル王国の地図と、王都リンダースの地図だ。ついでに暦、カレンダーも買う。
王都の地図を頼りに、教えられた商店を探す。探し当てた商店の前で、思わず二度見してしまう。
デカい。ギルドみたいに五階建て。
商店じゃないじゃん。商会とかな感じだよ。
マルト商会リンダース支店って書いてあるし。個人向けの商店には見えないし。
うわ、入り難いわ。
でも、獲物を売らないと、お金があ。
決心して、足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
綺麗なご婦人が、声を掛けてくれる。
「こんにちは、あの、ダグラスさんに、冒険者ギルドのマスターの紹介で」
子供みたいな喋り方になったが、紹介状を見せる。
「あら、お待ちくださいね」
奥に入って行った。
暫く待つと、少し若い女性を連れて来た。
「ご案内しますね」
若い女性に付いて行く。
五階建てのやはり五階に、支店長室だろう部屋があり、女性がノックして、応答がある。
扉を開けて、どうぞと言われる。
緊張しながら入り、奥の机の側に立つ人を見る。他に誰もいないから、この人がダグラスさんだろう。
「初めまして、冒険者ギルドから紹介されて来ました。」
紹介状を渡す。紹介状を開封して読みながら、ダグラスさんは言う。
「立ったままでは話し難い。ソファーに座ってください」
「はい、失礼します」
座って、待つ。読み終えたダグラスさんも、向かい側のソファーに座る。
「かなり珍しい物が沢山あるそうですね」
「ご期待に添えると嬉しいですが」
「若いのに堅苦しいのはやめましょう。まずは、お茶でも飲んで、買い取りの支度をさせますからね」
「はい、ありがとうございます」
お茶やお菓子が運ばれ、助手のような人たちが二人、魔法の袋を用意して、床にシートみたいな物を敷き、籠も沢山用意される。
お茶を頂きながら、何をどのくらい出すか悩む。全部は出せないだろうな。
阿呆なくらいあるもんね。
果実から出す。アンデッドの森じゃない方のニ種類。籠に一杯ずつ。
ダグラスさんと助手の人たちが、古い本や新しい本を見ながら、種類を確かめる。
魔法の袋に仕舞われたら、アンデッドの森の果実。これ、美味しいんだよね。
籠一杯にした。
これも仕舞われたら、薬草関係。
師匠の時代のだから、どうなんだろう。
そして、大切な、水場の苔。
今の時代に価値がなかったら悲しい。
次は、獲物たち。
火吹きシリーズ、猿、鳥、熊、狼、猪、兎。
10体ずつ出してみる。
その他の何だか分からない魔物を20体。
「まだ、数はありますけど、正直に言えば私には価値が分かりません」
ダグラスさんは、いつの間にか汗を浮かべている。
「私も正直に言いますが、かなり、いや、凄く価値のある物ばかりです。今日はこのくらいにしておきましょう。こちらも売る時間が必要ですから」
「はい、定期的に、品物を提供する方が良いですね」
「そうです。次はまた、今は週の半ばですから、次の次の週明けにしましょうか」
「分かりました。ギルドの仕事もしますから、丁度慣れた頃で有難いです」
「では、買い取りの代金を」
「ありがとうございます」
普通の皮袋を貰う。重い。
マルト商会を出て、ひと息つく。
次は買い物だ。
服屋を探す。庶民的なところを。
少し大きな、品揃えが良さそうな店を見つけて入る。
下着を探す。下着、大事だ。
試着は勿論できない。
店員さんが、サイズを計ってくれて、ちょっと女の子らしい物を三着選ぶ。
服は、スカートはやめておく。
少し女の子らしいシャツ、ズボン、ベルト、柔らかい革のベスト。
パジャマは二着でいいか。
まとめて買う。
次は靴屋。靴は、マジックアイテムのブーツがあるから、室内甩の履きやすい靴を買う。
文房具屋を見つけたので、メモ帳が無いか探す。それらしい物を二冊、筆記用具も買う。
こんなもので、暫く様子をみるか。
髪も伸びたから、適当な紐で束ねていた。
小物屋で、髪を束ねるシュシュみたいな物も買う。
ブラシくらいも買う。
人間らしい生活を、送るには、物も必要だけど、人と上手くやっていかないと。
商店を覗きながら、歩く。
明らかに転移者の作っただろう物を見かけたりする。
凄いな、服も靴も、生活雑貨も、え?みたいな物がある。
料理屋のある場所でも、日本語で書かれた店があった。
冗談かと思ったけど、本当みたいなので、昼時で、混んでいる店に入る。
テーブル席は空いていないから、カウンター席に座る。
店主も店員も、日本人に見える。
メニューは、この世界の文字で、メニューと書いて、下に日本語で、お品書きと書いてある。
本日の定食を頼む。
店主も店員も、チラッとこちらを見た。
そのうち、空いてる時間に来て、話をしてみても、いいかな。
定食は、ご飯に味噌汁、小鉢付きの、焼き魚定食だった。
お米や味噌は、再現して、研究したのだろう。なかなか美味しい。
食後のお茶も、緑茶だった。
お勘定をして、店を出て、ぶらぶら歩く。
人の暮らす場所に来たんだなあ。
まだまだ頑張って、人との繋がりを築かないといけない。
師匠の腕輪に入っていた、時計の魔道具、首に掛ける、懐中時計?を出して、街の広場の時計に時間を合わせる。
明日はギルドに行こう。
初めて人の中に出た緊張は、少し収まった。
次の投稿は5月23日の予定です。