聖樹の下で
夜になり、聖樹に凭れて、うとうとする。
聖樹は、安心感をくれる。
記憶の欠片が見えた。
家での生活が、辛いまま、高校受験の準備が始まる。
公立で、新体操の強豪校、偏差値が高くて、遠い高校。
家から通えない高校を探していた。
偏差値が高い、進学校なら、両親は止めないだろうと思った。
条件を満たす高校を見つけた。
新体操の強豪校は少ない。近くには無かった。
スポーツ推薦でも、充分入れると、学校側は言ったが、両親は、受験して、奨学金を取れと、言った。
その通りにして、奨学金も家から出る事も掴んだ。
学生が住むアパートを探し、一人暮らしで部活もバイトもする。ハードな生活を始めた。
高校では、イジメは無かった。
殴られる事の無い生活。
ハードでも、何程の事も無い。
部活では、上下関係は厳しいけど、実力は認めて貰える。
学業成績は、少し落ちたが、20番以内をキープしていた。
学校は、結構大きくて、各学年10クラスだ。
一年生は特進クラス2クラスと、普通が8クラスだった。
特進クラスとは、希望者が、一定以上の成績を取れたら、入れる、エリートクラスだ。
教科書も、カリキュラムも違うらしい。
成績だけなら、入れたが、部活があるので、普通クラスにした。
両親は、成績を気にする割りには、学校に対して、熱心では無かった。
小学校から、学校に提出するプリントも、自分で書いて出していた。
参観日に来たこともないし、入学や卒業式すら来なかった。
姉と弟のは、行っていたようだけど。
私に熱心では無かっただけだ。
両親が知れば、特進クラスに入る事は当然の話になるだろう。
部活とバイトをしないと、生活できないから、特進クラスでの勉強は、無理がある。
部活は、夏のインターハイに、団体戦の補欠で行った。
秋の新人戦は、団体戦は県優勝。個人戦はまた県三位だった。
一位になれないのが、微妙に私らしい。
国体は、関東ブロックまで勝ち上がれたけど本戦には届かない。
二年生になり、特進クラスから落ちる人がいたり、大変だなあと思いながら、普通クラスも文系と理系に分かれる。
もう、すでに、新体操の推薦で、体育大は間違いないので、文系にした。
家にはほとんど帰らない。成績表を見せろとも言われなかった。
体育大の推薦の話だけはしておいた。
奨学金が、月に一万円、仕送りが三万。
アパートの家賃、光熱費、部活のユニフォームや、遠征、学校の宿泊行事も、学年費も教科書代も、何もかも。足りる訳がない。
自分で稼ぐしかない。
家にいた頃、お小遣いは貰ったことが無い。
お年玉も両親が受け取る。貯金など一円も無いスタートだった。
部活は、強豪校だけあって、完全に休みの日は、夏の合宿明けと、元日だけ。
部活の合間をバイトに費やして、生活していた。
それでも、二年生の秋、好きな人ができた。
同じ体育館で活動する。バスケ部の人。
友達の応援で、付き合うようになり、文化祭体育祭と、楽しく過ごした。
でも年明けに、あっさりフラレた。
彼にアプローチした、特進クラスの人に負けたのだ。かなり落ち込んだ。
そんな時に、バイト仲間たちが慰めてくれた。ファミレスとコンビニでバイトをしていた。
平日の部活帰りからはコンビニ。
土日祝日の、半日空く日はファミレス。
ファミレスの仲間は、食事に行ったりして、学校とは違う、友達だった。
女の子が四人、男の子が二人、カラオケに行ったりして、遊ぶようになる。
部活も学校も、頑張っていた。
学校にも、友達がいる。
姉と比べられなければ、自分で言うのもアレだけど、容姿は良い方だ。
男女関係なく、友達は多かった。
一つ年上の、バイト仲間の男の子に告白されて、付き合い始めた。
彼は大学生になり、ファミレスのバイトはやめたが、車を買い、元の仲間たちと遊びに行くことが増えた。
話上手で楽しい人だった。
私は三年生になり、両親にも、推薦で体育大に行くことを、念押しした。
両親は分かったと言っていた。
何の問題も無いと思っていた。
バイトも慣れていたので、少しはお金にも余裕がある。
部活は、インターハイを最後に、引退するが体育大に行く人は、練習を続ける。
夏休み。彼とは深い関係になっていた。
でも、成績は落とさないように、頑張り、
部活の練習も、まあ楽しく続けていた。
秋が深まり、進路の最終決定の時、突然の理不尽がきた。
両親が、電話で、体育大は駄目だと言ってきた。体育大は、私立だ。
弟に私立高校を受験させるから、お前は公立にしろと。
姉は私立大に通っている。
何度か念押しした話は無視され、今更受験とは、でも、成績は悪くないから頑張るしかない。
新体操の夢を折られただけでも、心の傷は深かった。私から新体操を取ったら、何が残るだろうか。
体育大で新体操を続けるには、バイトはあまりできないと、先輩に聞いていた。
大学は海外遠征もある。自分の力だけでは無理なのだ。自分だけでは駄目なら、どうしようも無い。
更に、両親の意味の分からない追い打ちがきた。
学校と、電話で交渉した両親は、医学部を受けろと、それ以外は許さないと言った。
文系で医学部とは、バカみたいな話だ。
学校も、よく願書を出したものだと呆れた。
理系の勉強をしてみたけど、絶対無理だと分かった。塾に行くお金は無い。
しかし、両親が指定した大学を、何校か受験した。受験した事が申し訳ないほど、点が取れないのが分かる。
全ての大学を落ち、卒業間近、留めがきた。
彼が、バイクで軽い事故を起こした。
一緒に乗っていたのは、バイト仲間の女の子だった。
お見舞いに行くと、バイト仲間の女の子たち全員が来ていた。
事実が話される。
彼とみんなは深い仲だった。
よく遊びに行っていたらしい。
彼はしれっと、お前が本命だからいいだろうと言う。
女の子たちは、雪乃は信じやすいんだもん。
と言った。
何もかもが崩れた。
どす黒いものが心を満たした。
バイト仲間の女の子たちのことを、私は好きだった。
彼を殺したいと、本気で思った。
ナイフを突き刺す情景まで浮かんだ。
でも、あんなヤツのために、犯罪者になるのはバカらしい。
それっきり、仲間たちには会わなかった。
卒業したが、行く場所も無い。
また恐ろしい家に戻り、両親からは恥ずかしいから外に出るなと言われた。
何処かへ行ってしまおう。
消えてしまおう。
こっそり家を出て、知らない町に向かった。
柔らかい朝の光に、目を覚ました。
聖樹から、また葉と果実の恵みが落ちてきた。
水を出して、顔を洗う。
リンゴのような果実を剥いて、食べる。
今日もまた、戦闘をして、レベルアップをしよう。
努力すれば結果が出る。
それなら、努力すれば良い。
果実のある森へ向かう。
果実を取りながら、辺りを探知する。
木の枝を集めながら、群れに囲まれて逃げた場所に出る。
木の枝を折りながら、探知をする。
探知できる範囲が広くなった気がする。
動きの早いものが、探知にかかる。
強敵かも。
油断なく、待つ。
木々の隙間から見えた獣は、猿?ゴリラ?
見た目は猿だと思うけど、大きさがちょっと、この森酷いな。
ニメートル越えの猿。手が長いから危険でしょうが。
こっちに来る。
氷の刃を飛ばしながら、地面を蹴る。
うわぁ、危ない。
手伸ばしたら四メートルくらいじゃん。
爪とか、顔も怖いんですけど。
武器がほしい。
氷の剣とか?あ、できちゃう。
氷の剣を振るう。
腕を薙ぎ払う。
切れるよ。この剣切れるよ。
カッと口を開ける。火の玉ね、はいはい。
躱して、首を狙い勢いをつけ、切りかかる。
うりゃぁぁ
首を半ばまで切り裂く。
獣は倒れた。上から留めに胸をひと突き。
辺りを探知して、獲物は腕輪に吸い込む。
飛翔したら、鳥がいたから、氷の剣で首を狙う。
前より簡単になった。落ちた鳥も、腕輪に吸い込む。
聖樹前に移動。
さっぱりする魔法を全身にかけて、溶けてきた氷の剣を消す。
消えろって思ったら消える。
木の枝を出す。
泉の水を飲んで回復。
何か、慣れてきたのかも。
今までと、違う方向に、飛翔して、森の開けた所を探す。
着地して、風を、チェーンソーみたいにできないか、念じてみる。
強力そうな、振動する風刃ができた。
木の枝を切る。一瞬だ。
木を、切ってみようか。反対側に、切込みを入れて、切る。
探知はしたままだ。
危ないよ。切込みが下手だったらしい。
こっちに倒れてきた。
風チェーンソー強力だ。
木を輪切りにしていく。
輪切りにした木は、縦にカットして、薪を作る。
薪を腕輪に収納してたら、探知に反応があった。薪を作りながら、探知を続ける。
この感じは、兎かな。
進んで止まるを繰り返している。
来てみなさい。カットしてやる。
木々の隙間に見えたのは、やはり兎。
薪を作る手は休めずに、待つ。
こちらに気が付き、進路を定めたようだ。
姿を広場に現した兎に、地面を蹴り、飛びかかる。
風チェーンソーが、兎の首を襲う。
石でも切れそうな刃が、首を落とす。
着地して、兎はグロいから、腕輪に吸い込む。誰が殺ったんだよ。私だよ。
薪の作業に戻る。
時々、ペットボトルの、泉の水を飲みながら、広場に向かって倒れた木を、半分くらい切って薪にした。腕輪に吸い込む。
また、探知に反応。群れではない。
単体なら、負けないよ。
今度は、熊。さあ、来い。
グォンと唸り、飛びかかる熊。
地面を蹴る。
すれ違いながら首を切る。
風チェーンソー。怖い。
何でも切れちゃうんだもん。
熊も腕輪に吸い込む。
もう少し薪を作り、収納したら、チェーンソーは消して、聖樹の前に移動。
薪を出して、広げる。
結構な量の薪ができた。
魔法でさっぱりして、泉の水を飲む。
枝は、ナイフで削り、肉を刺す串にする。
昼食も、焚き火をおこし、鳥の脚を切り、羽根を毟り、肉を削ぎ落とし、適当な大きさにカットする。
自分と、辺りの地面を、きれいにする。
木の枝に刺した肉。串三本。
焚き火の側に立てる。
向きを変えながら炙り、ジューっと音がして良い匂いがしたら、食べる。
味付け無しだけど、お腹が空いてたから、問題なく食べられる。
果実の皮を剥き、デザート。
食べながら、他にどんな武器を作れるか、考える。
この森は、炎は向かない。
雷の剣とか、土は掘って足止めか。
他に何属性があったかな?
腕輪に触れる。
塔ノ沢雪乃、18歳
レベル、25
体力4000
知力4000
俊敏4000
魔力4000
スキル、【体術】【短剣】【言語理解】【文字認識】【魔法】火、水、風、土、雷、氷、
聖、闇、時空、重力、付与
おお、レベルアップしてる。
聖属性?怪我とか治せるのかな。
闇は、使い所が分からないな。
水の武器は考え付かないし。
暫くは、氷の剣と、風チェーンソーで戦うかなあ。
焚き火を始末して、ペットボトルに泉の水を満たしたら、木を切った場所に移動。
探知をしながら、薪を量産。枝は切り落とし、腕輪に収納する。
途中、兎が二体来たけど、斬殺。
木をほとんど処分した。
歩いて帰ることにした。
また違う果実を見つけて、10個ほど採取。
森を抜けたら、鳥が来た。
氷の剣を出し、地面を蹴る。
火の玉を躱して首を落とす。
慣れてきた。鳥も収納したら、聖樹の前に移動する。
夕食用の肉。最初の猪を出して、足を切る。
小さな風チェーンソーを作り、簡単に、皮を剥ぎ、適当な大きさに切りながら、木の枝に刺していく。
足回りから、上の方の肉も少し切り、串刺し肉を六本作った。
自分と辺りを魔法できれいにして、泉の水を飲んだら、新しい果実を取り出す。
聖属性は、毒とか調べられそうだ。
毒探知と念じてみる。
反応が無い。多分大丈夫だろう。
日が暮れてきたので、焚き火をおこす。
串刺し肉を立てる。
新しい果実を切ってみる。
ミカンっぽい。
リンゴとミカンなら、ここは北の方なんだろうか。
ミカンは北じゃないか?
この世界の法則が分からないから、答えは出せない。
焼いた肉を食べる。
六本作ったから、お腹いっぱいになる。
ミカンっぽい果実を食べて、皮や種は、穴を掘って埋める。
それにしても、人の気配は感じないな。
道も無いようなものだし、聖樹があるのに、旅人も来ないような場所なんだ。
季節は寒くも暑くもない。春なのかな。
あっちの世界も春だったから、そこら辺は合わせてあるのかも知れない。
聖樹に凭れて、目を閉じる。
嫌な夢は見ないで、眠れた。
それから、一週間くらい、木を切ったり、戦闘を繰り返して、雪乃は確実に腕を上げていった。
毎朝、聖樹は、葉と果実を落とす。
もしかしたら、聖樹の果実だけで、生きていけるのかも知れない。
いずれ旅に出るので、大切に仕舞っておく。
魔力の濃さみたいなものが、感じられるようになった。
この辺りの森は、魔力に満ちている。
最初から、難易度が高いような気がしたのは気のせいでは無かった。
探知も、魔力を探知できるようで、この辺りの獣は、魔力がある。
火を吹くからそうなんだろうと思う。
今のところ、獣と言うか、魔物?
猪、猿、兎、熊、鳥、狼の群れも、挑んで、
半数くらい、やっつけた。
ステータスはどうか?
塔ノ沢雪乃、18歳
レベル、45
体力10000
知力10000
俊敏10000
魔力10000
スキル、【体術】【短剣】【言語理解】【文字認識】【魔法】火、水、風、土、雷、氷、
聖、闇、時空、重力、付与
かなり上がった。
まだ、旅に出る自信はないけど。
行動範囲は広げている。
歩いたり、飛翔して、狩り場を見つける。
探知して、獲物を狩る。
収納の限界が、気になるが、なんとなく余裕が有りそうだ。
また、一週間、威力の上がった、氷の剣と、風チェーンソーで、単体なら、怖くないし、群れの狼も、雷剣で、動きを止め、氷の剣で無双に近い。氷の剣は、二刀流だ。
薪も充分ストックしてあるし、果実も種類が増え、量も、取れるうちに溜めてある。
そして、今まで避けていた、南西の森。
暗そうで、魔力が濃い。
行きたくない感じの森だが、何故か行くべきな気がする森。
挑む決心をする。
歩いて、向かう。
森の深い所は怖い気がする。
森の端に到着して、様子を伺う。
凄く嫌な感じだ。
探知をしてみる。
探知できる範囲はかなり広がった。
嫌な感じは正解だった。
ゆっくりと動く、魔力のあるものが、数多くいる。
森に踏み入る。
すぐ近くに、何かの気配がある。
けど、今までとは違う何かだ。
警戒しながら、気配の方を伺う。
…人の形に近い、いや、多分人だったもの。
アンデッドだ。
ぼろぼろの装備を振り上げ、向かってくる。
聖属性…浄化。
念じる。
アンデッドは、強い光に包まれ、砂のように崩れ去った。
人がアンデッドになり、動き回るのに、どのくらいの時間が必要だっただろう。
痛ましい気持ちになる。
でも、まだ反応は沢山ある。
森の入り口だけで、アンデッドを五体浄化して、今までより強力な熊を倒した。
熊と、アンデッドの残した装備を、腕輪に吸い込む。
聖樹の側に戻り、早いかも知れないけど昼食にする。
串刺し肉四本を焚き火で炙り、空のペットボトルが多い方が良いので、リュックからお茶のペットボトルを出し、飲む。
果実を剥いて食べたら、焚き火の始末と、ゴミの始末をする。
ペットボトル二本に泉の水を満たし、アンデッドの森の前に移動。
探知をする。
森に踏み込み、少しだけ進む。
探知の中は、レーダーなら、赤い点がいっぱいあるような状態だ。
近づくアンデッドは、浄化して、獣は倒す。
アンデッドは十体以上浄化した。
ペットボトルの水で、魔力を回復しながら、夢中で戦う。
疲れを感じた頃には、日が傾いていた。
聖樹に戻る。
串刺し肉五本を作り、自分と辺りをきれいにして、泉の水を飲む。
焚き火をおこし、肉を炙り、三本目のペットボトルのお茶を飲む。
これからは、ペットボトル三本の泉の水を持ち歩く。
肉を食べ、果実を食べたら、ゴミを埋める。
聖樹に凭れて焚き火の火を眺め、夜空を見上げる。星空が綺麗だ。
ステータスを見てみる。
塔ノ沢雪乃、18歳
レベル、60
体力25000
知力25000
俊敏25000
魔力25000
スキル、【体術】【短剣】【言語理解】【文字認識】【魔法】火、水、風、土、雷、氷、
聖、闇、時空、重力、付与
かなり上がったけど、アンデッドの森は簡単ではなさそうだ。
目を閉じて、聖樹に身体を預け、眠る。
嫌な夢は見ないようになった。
次の投稿は、5月13日を予定しています。